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日本水土総合研究所の役割


 日本水土総合研究所は、平成18年の発足からまもなく15年目を迎えます。当研究所は、前身の財団法人日本農業土木総合研究所(昭和53年設立)以来、一貫して産官学民の知見を集め、行政の知見に学術と民間技術を融合させ国内外の農業農村整備にかかる総合的な調査研究を行うシンクタンクとして実績を積み重ねてまいりました。平成24年には、より柔軟な業務運営を心がけながら、確固とした技術力、知識力に基づいた高度な調査研究を実施し日本の農業農村の発展に一層貢献するため、一般財団法人に移行しました。

 21世紀に入り早20年が経過しましたが、我が国の農業農村を取り巻く状況は大きく変化しています。まず、日本社会はその成熟化が進み、人口減少、少子高齢化が加速しています。特にその傾向は農村地域で顕著であり、国民の生命線である食料供給・農業生産を担う農村地域をどう振興していくかということが大きな課題です。また、全国で戦後の緊急開拓時や高度経済成長期に営々と築かれてきた国民の生活を支える農業水利施設などのインフラストラクチャの老朽化が進んでいます。

 次に不確実性を増す国際情勢への対応です。アジア・アフリカ等の開発途上国を中心とする人口増加、経済成長は世界の食料需要を増大、高度化させている一方で、食料生産増大のための資源の開発余地は限られており、世界的な食料安全保障上のリスクが増大しています。また、TPPなど多国間での経済連携協定が締結され、農産物貿易の一層の自由化が進められる一方で、保護主義的な動きも活発となっています。我が国としても世界の食料安全保障に貢献するため、農業の体質強化を図り、また、世界に向けて日本のブランドを売り込むなどグローバル化に対応しつつ、不確実性に対応するため農業のレジリエンス強化を図っていくことが必要です。

 そして、地球温暖化に伴う気候変動は、世界各地で大規模な干ばつ、洪水、高潮などの災害をもたらしています。特に火山列島と呼ばれる我が国では、大規模地震への対応が急務となっており、国土強靱化の観点からもダムやため池などの農業水利施設の老朽化、耐震化対策が必要です。

 さらに、令和2年の新型コロナウィルスの感染症対策局面では、特に都市部における人々の「密」が課題とされ、コロナ禍を乗り越えた先では、生活のリモート化と相俟って低密度社会である農村は新たな視点から見直されるものと考えます。

 こうしてみてくると、農業農村整備は、我が国、ひいては世界の様々な課題に対処するために如何に大きな役割を有しているかが自ずと見えてくると思います。

 令和2年3月、新たな食料・農業・農村基本計画が策定されました。おおむね10年後を目標として今後5年間の政策展開の指針となる計画です。人口減少社会に入り、産業競争力の低下や地域社会の活力低下が懸念される中、今後の農業者の高齢化や労働力不足に対応しつつ、生産力を向上させ、農業を成長産業にしていくためは、スマート農業の加速化と農業のデジタルトランスフォーメーションの推進が求められており、こうしたニーズに応える先進的な農業インフラ整備等の取組が必要とされています。

 また、国土強靱化の観点からは、近年、大規模地震や豪雨災害が多発しており、国民の生命と財産を守るためにも、農村地域の防災・減災対策が求められています。平成29年、30年に2年連続で土地改良法が改正され、農地中間管理機構と連携したほ場整備事業やため池等の耐震化を迅速に進めることができる事業等が創設されるとともに、土地改良区の運営基盤を図る見直しが講じられました。さらに、新たな令和の時代となってからも2年続けて「農業用ため池の管理及び保全に関する法律」及び「防災重点農業用ため池に係る防災工事等の推進に関する特別措置法」が制定され、ため池の適正な管理・保全に係る体制整備及び防災工事等が進められています。その他、農業のインフラストラクチャ(ダム、頭首工、ため池、基幹から末端に至る水路網等の農業水利施設)の保全・更新に加え、大規模地震に対応する施設の照査や耐震設計の徹底、ハザードマップの整備、農業の構造変化に対応する施設管理の省力化等も重要な視点です。これから本格的な更新の時代を迎える中、産官学民の知見を結集し、これら施設の“建設→管理→更新→管理”の流れが持続的なものとなるようにしたいと考えております。

 世界に目を向けると、市場規模の拡大する途上国・新興国において、農産物の生産から加工、流通、消費に至るフードバリューチェーンを日本の技術・ノウハウも活用して構築するための取組が進められています。ほ場整備などの生産面における農業インフラ整備は、途上国・新興国の効率的な食料生産に不可欠であり、農業機械など我が国の技術の活用にもつながります。そのため、我が国が有するほ場整備を推進するための法制度等の知見を途上国・新興国と共有していくことが有用です。

 農村振興は、基本計画において、強い農業の構築と「車の両輪」を成すものです。農村の衰えは、国土の荒廃をもたらし経済的な指標では表せない総合的な国力の低下をもたらします。「水土」という地域資源を活用しながら豊かな田園空間や生物多様性を含む環境保全を図っていくことが我が国の生存基盤を確立する上できわめて重要です。

 このような考え方に基づき、当研究所では、農業農村整備、農村振興の総合的なシンクタンクとして、政策提案から高度な技術的課題に至るまで、国内外における多様な課題に的確に対応した調査研究を行い、今後ともその役割を適切に果たしていきたいと決意を新たにしているところです。

一般財団法人日本水土総合研究所
理事長 小林祐一
令和2年6月