2026.9 SEPTEMBER 74号

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Keynote 1

『グローバルみどり協力プラン』について

農林水産省 輸出・国際局 新興地域グループ 大槻 ちひろ

1 はじめに

 日本政府は、グローバルサウス諸国との関係強化を外交・経済政策の重要課題に位置付けている。世界経済におけるグローバルサウス諸国の存在感は年々高まっており、人口増加や経済成長を背景に、世界経済の成長を牽引する重要な地域として注目されている。また、国際社会における意思決定の場においてもグルーバルサウス諸国の影響力が増しており、気候変動や食料問題、エネルギー問題など地球規模の課題への対応にあたっては、これら諸国との協力が不可欠となっている。2024年には政府横断の方針として「グローバルサウス諸国との新たな連携強化」を打ち出し、法の支配に基づく国際秩序の維持、経済成長、気候変動対策、人的交流の拡大などを柱に協力を進めている。外交面でもASEAN、インド、アフリカ、中南米、太平洋島嶼国との首脳・閣僚レベルの往来が活発化しており、日本は各国を国際社会における重要なパートナーと位置付けている。こうした動きの背景には、グローバルサウス諸国が世界経済の成長センターとなりつつあることに加え、重要鉱物、エネルギー資源、食料資源等の供給地としての重要性が増していることがある。近年は国際情勢の変化や気候変動の影響により、世界的なサプライチェーンの脆弱性や食料供給の不安定化が顕在化している。このため、日本の経済・食料安全保障はこれら諸国との関係に大きく依存するようになっており、相互利益に基づく持続的な協力関係の構築が一層重要となっている。こうした背景から、日本とグローバルサウス諸国との間では、今後も、経済協力や技術協力、人材交流等を通じた多面的な連携強化が進むものと考えられる。このような国際情勢を受け、農業分野では、2024年9月に開催されたG20農業大臣会合において、我が国から、持続可能な農業の達成に向けてイノベーションの成果をそれぞれの地域に合った手法で実践する必要があることを踏まえ、2023年に立ち上げた「日ASEAN みどり協力プラン」と同様の協力をアジア以外の地域にも広げていく旨表明した。また、同年11 月に開催されたG20 サミットにおいて、飢餓と貧困の撲滅に向けた取組への支援とその加速化のために「飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンス」が創設され、その際、内閣総理大臣から日本の高い技術を活用し、中南米、アフリカ諸国を含むグローバルサウス諸国を新たなパートナーとして、温室効果ガス排出の低減を含めた持続可能で生産性の高い農林水産業を広げていく旨表明したところである。

2 グローバルみどり協力プランについて

 グローバルサウス諸国との相互的な経済協力関係の強化に向け、農林水産省では2024年12月27日に『グローバルみどり協力プラン』を策定した。2023年12月にドバイで開催された国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)で採択された「持続可能な農業、強靭な食料システム及び気候行動に関するエミレーツ宣言」を支持し、食料・農業分野の持続可能な発展と気候変動対策強化に各国と協働で取り組んでいくこととした。さらに、2024年9月に開催されたG20農業大臣会合では、前年に立ち上げた「日ASEAN みどり協力プラン」と同様の協力をアジア以外の地域にも広げていく旨表明したところである。また、農林水産省では、食料・農林水産業の生産性の向上と持続可能性の確保の両立をイノベーションで実現するため、2021年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定し、革新的な技術・生産体系の開発・社会実装を進めている。このような中、農林水産省はASEAN地域との協力強化に向けて「日ASEAN みどり協力プラン」を採択し、イノベーションによる強靭で持続可能な農業と食料システムの構築に向け、日本が培ってきた技術を活用した協力プロジェクトを実施している。

 ASEAN以外のグローバルサウス諸国では、それぞれの地域の農林水産業のおかれている自然条件や社会条件は様々であり地域ごとに大きく異なるため、画一的な解決策は存在しないとの認識に立ち、それぞれの国や地域の状況に応じたテーラーメイド型の協力を推進することとしている。このため、本プランでは、気候、土壌、水資源、農業生産構造、流通条件、消費動向などの地域特性を十分に踏まえながら、各国が持続可能な農業・食料システムを実現できるよう支援することを重視している。

 また、日本とグローバルサウス諸国は、

①農業の持続可能性向上は生産性向上と両立して進めること

②既存の農業資源を最大限活用して食料システムを強化すること

③持続可能な農業の実現に向けてあらゆる形のイノベーションを活用すること

の三つを基本原則として協力を進める。あわせて、民間企業の技術力や資金力のみならず、公的研究機関、産業支援機関、金融機関などとの連携を通じて、産学官民が一体となった取組を推進するとともに、FAO(国際連合食糧農業機関)、WFP(国際連合世界食糧計画)、IFAD(国際農業開発基金)などの国際機関との協調も図ることとしている。

 協力の具体的な分野としては、第一に、スマート農業やデジタル技術の活用、農業資材の効率利用、循環型経済の実現、バイオマスエネルギー利用、温室効果ガス排出削減、総合的病害虫・雑草管理(IPM)など、強靱で持続可能な農業を実現するための技術の開発・実証・普及が挙げられる。第二に、植物遺伝資源の収集及び評価を通じた品種改良や育種分野での協力が挙げられる。第三に、人材育成や技術移転による能力構築支援が挙げられる。そのほか、緊急時における食料支援や主要穀物の安定供給に向けた対話の促進、気候変動による自然災害や越境性動物疾病・植物病害虫への対応、物流インフラへの投資促進なども協力対象としている。

 これらの具体的な取組の実施にあたっては、日本と対象国との間で政府機関、研究機関、民間企業等の幅広い関係者による対話を推進し、必要に応じて協力覚書(MOU)等の枠組みを構築する。また、栽培品種育成者権の適切な活用などを通じて民間投資を促進し、日本と相手国双方に利益をもたらす持続可能な協力関係の形成を目指している。

3 農業農村開発関連の事業について

 本プランに基づく事業のうち、特に農業農村開発関連については主に以下の事業が実施されている。

 1つ目は、「メコン河流域における持続可能な農業生産基盤強化推進事業」である(図1)。メコン河流域は世界有数の農業生産地域であり、多くの住民が農業や水産業を主要な生計手段としている。一方で、近年は気候変動による降雨パターンの変化や干ばつの発生、地下水利用の増加、水環境の変化などにより、農業生産や生態系への影響が顕在化しており、水資源の持続的な利用と適切な管理が重要な課題となっている。このため、本事業ではメコン河委員会(MRC)を通じてメコン河流域国に対し、我が国がこれまで共同で実施してきた協力の成果や知見を活用しながら、強靱で持続可能な農業・食料システムの構築を推進している。具体的には、第一に、水田における間断かんがい(AWD)の普及を進めるため、既存のガイドラインを活用した実証事業を展開し、衛星画像等の先端技術を活用した水位変化やメタン排出量の測定を実施している(図1・上段)。第二に、持続可能な地下水利用の実現に向けて、地下水涵養モデルの構築や流域全体の地下水データベースの整備を進め、水資源の利用可能性の可視化を図っている(図1・下段左)。第三に、既設魚道のモニタリング結果を踏まえた魚道ガイドラインの改訂を行い、水産資源の保全と農業水利施設整備との両立を推進している(図1・下段右)。また、これらの技術や取組を継続的に展開していくため、現地の技術者や行政担当者を対象とした人材育成にも取り組み、成果の普及・定着を図っている。本事業は、水資源の有効活用と農業生産基盤の強化、生態系保全を一体的に推進する取組であり、気候変動への適応、温室効果ガス排出削減、水利用効率の向上を通じて、メコン河流域における持続可能な食料生産基盤の強化及び地域の食料安全保障の向上に貢献することを目指している。

図1 「メコン河流域における持続可能な農業生産基盤強化推進事業」の取組について

図1 「メコン河流域における持続可能な農業生産基盤強化推進事業」の取組について

 2つ目は、「国際かんがい連携強化事業」である。本事業は、アジアモンスーン地域をはじめとする諸外国との技術交流を通じて、水利用効率の向上と持続可能な水田農業の推進を図る取組である。世界人口の増加や経済発展、気候変動の進行に伴い、水需要は今後も増加することが見込まれている。一方で、利用可能な水資源には限りがあり、農業用水の利用拡大にも制約があることから、限られた水資源を有効活用しながら安定的な食料生産を実現することが国際的な課題となっている。特に農業は世界全体の水利用量の大きな割合を占めており、水利用効率の向上は持続可能な農業や食料安全保障の実現に向けた重要な取組として位置付けられている。このため、本事業ではFAOを通じて、我が国が長年にわたり培ってきた農業水利や水田農業に関する知見・技術の普及を推進し、国際的な課題解決への貢献を目指している。具体的には、FAOや水関連国際機関等と連携し、水利用効率に関する国際的な動向や知見の収集・分析を行うとともに、アジア・アフリカ地域において我が国の技術を活用した実証事業や人材育成を実施している。また、国際かんがい排水委員会(ICID)や国際水田・水環境ネットワーク(INWEPF)などの国際ネットワークを通じて、水田の多面的機能を活かした効率的な水利用や温室効果ガス排出削減に資する取組を国際会議等で発信し、その普及を図ることとしている。本事業は、水田が有する洪水緩和、水資源涵養、生物多様性保全などの多面的機能を活かしながら、生産性の向上と環境負荷の低減の両立を目指すものである。これらの取組を通じて、二国間及び国際的な連携を強化し、持続可能な食料システムのモデル構築を進めることで、世界の食料安全保障や開発途上国の経済成長に貢献するとともに、水田農業に関する国際的な議論を主導し、我が国農業技術の海外展開の促進にも寄与することが期待されている。

 3つ目は、「海外技術協力促進検討事業」である(図2)。農業農村開発は、単に農業生産を増大させるだけでなく、農村地域における所得向上や雇用創出、地域経済の活性化、さらには社会の安定にもつながる重要な取組である。特にアジア・アフリカ地域の開発途上国では、農業が経済や雇用を支える基幹産業である一方、水利施設の老朽化や農業インフラの不足、気候変動による生産環境の悪化など、多くの課題を抱えている。このため、本事業では、アジア・アフリカの開発途上国において、各国・地域が直面する食料生産、水資源管理、気候変動等の課題解決に貢献するため、我が国のかんがい排水分野を中心とした先進技術や知見を活用し、持続可能な農業農村開発を推進するとともに、日本企業の海外展開を後押しすることとしている。また、我が国がこれまで蓄積してきた農業農村整備分野の知見や技術を活用して現地の課題解決を図ることで、開発協力と経済協力の双方の実現を目指している。具体的には、第一に、南アジアの開発途上国を対象に、老朽化した農業水利施設の計画的かつ効率的な維持管理を実現するため、我が国が有するストックマネジメントの知見や技術を活用し、現地の実情に適した維持管理手法の構築を支援している(図2・上段)。第二に、アフリカ等への日本企業の進出を促進するため、日本のスマート農業技術などを実演・展示する拠点ほ場を整備し、技術の普及とビジネス機会の創出を図っている(図2・中段)。第三に、アフリカにおいて、CARD(アフリカ稲作振興のための共同体)による稲作振興の取組を支援するとともに、市場志向型農業の導入に必要な畑地かんがい技術の開発や、気候変動への適応力向上に向けた小規模かんがい施設の整備、効率的な水利用、水利組合の運営強化等を推進している(図2・下段)。これらの取組を通じて、開発途上国における農業生産性の向上、食料安全保障の強化及び農村地域の持続的な発展に貢献するとともに、我が国の優れた農業農村開発技術の国際展開を推進し、グローバルサウス諸国との協力関係の深化や日本企業の海外市場開拓につなげることが期待されている。

図2 「海外技術協力促進検討事業」の取組について

図2 「海外技術協力促進検討事業」の取組について

4 おわりに

 『グローバルみどり協力プラン』は、気候変動や人口増加、水資源制約など世界的な課題への対応を図りながら、各国・地域の実情に応じた持続可能な農業・食料システムの構築を支援する我が国の重要な国際協力の枠組みである。特に農業農村開発においては、メコン河流域における農業生産基盤の強化、水利用効率の向上に向けた国際連携、アジア・アフリカ地域における農業水利施設の維持管理やかんがい技術の普及等を通じて、食料安全保障の強化と気候変動への対応を推進している。これらの取組は、開発途上国における農業生産性の向上や持続可能な農村開発に貢献するとともに、我が国が有する農業農村整備技術や農業水利分野の知見の国際展開を促進するものである。今後、グローバルサウス諸国との連携が一層重要となる中、本プランを通じた農業農村開発分野での協力は、相手国の持続的な発展に寄与するとともに、我が国の経済・食料安全保障の強化にも資する重要な取組として、その役割を更に高めていくことが期待される。


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