2026.3 MARCH 73号
REPORT & NETWORK
1 はじめに
2021年2月1日、ミャンマーにおいてクーデターが発生し、2025年12月時点で4年10カ月が経過している。この間、ミャンマー情勢に改善の兆しは一向に見られず、多くのミャンマー国民の生活に甚大な影響が発生しており、日本政府は、累次にわたり発表している外務大臣談話等において、このことに対する深刻な懸念を表明している。また、国際社会からの度重なる要請にもかかわらず、ミャンマー国軍が平和的な問題の解決に向けて取り組むことなく、空爆などの暴力によって多くの無辜の市民が日々死傷している状況を強く非難している。
日本政府は、クーデター以降、ミャンマー国軍に対して、(1)暴力の即時停止、(2)被拘束者の開放、(3)民主的な政治体制の早期回復について、具体的な行動をとるよう一貫して求めるとともに、事態打開に向けたASEANの取り組みを最大限後押ししていく方針であり、引き続き、ミャンマー国軍に対して、空爆などの暴力を直ちに停止すること等、平和的な問題解決に具体的に取り組むように強く求めている。また、これ以上の犠牲者を出さないため、そして、更なる国民の分断を避けるためにも、ミャンマーの全ての関係者が、事態の打開に向けて真摯に対話に臨むことを切望しており、そのような対話の実現にむけて日本としても積極的に協力していく姿勢である。
クーデター以降、人道状況は悪化の一途を辿っており、多くのミャンマーの市民が避難生活を強いられる状況に陥っている。この状況の中、日本政府は、苦難に直面するミャンマー国民を支えるとの一貫した方針の下、支援を必要とするミャンマー国民に直接裨益する人道支援を積極的に行ってきており、支援の実施にあたっては、国際機関やNGO等との連携を強化するとともに、ミャンマー国軍に対して、安全で阻害されない人道アクセスを認めるよう強く求めてきている。
2025年7月、ミャンマー現「政権」は、クーデター発生以降、累次にわたり延長されてきた緊急事態宣言を解除し、2025年12月から2026年1月までの間に総選挙を実施することを発表した。日本政府としては、総選挙は民主的な政治体制の回復に向けたプロセスとして位置づけられるべきと考えており、被拘束者の開放や当事者間の紳士的な対話をはじめとする政治的進展に向けた動きが見られないまま総選挙が実施されるような事態となれば、ミャンマー国民による更なる強い反発を招きかねず、平和的解決がより困難になることを深刻に懸念している。こうした考えの中、先に述べた3つの取り組みに関する具体的な行動について強く求める等、一貫した対応を続けており、さらには、2025年3月の地震による被災や長引く紛争によりミャンマーの人々の生活が影響を受けていることを受け人道支援や国民生活の向上のための支援をミャンマーの人々に直接裨益する形で積極的に行っていく姿勢である。
なお、クーデター以降、現下のミャンマー情勢を鑑み、日本政府は国軍が主導する体制との間で新規の二国間ODAは行わない対応を取っている。
2 2025年3月に発生した地震に対する日本政府としての支援
2025年3月28日(金)午後3時20分頃(ミャンマー現地時間午後12時50分頃)、ミャンマー中部を震源とする地震が発生し、同日中に岩屋毅外務大臣(当時)からミャンマー国民に対し、お見舞いメッセージが発出された。ミャンマーにおける被害の甚大さに鑑み、日本政府は翌29日にできる限りの支援を行う用意があることを表明し、これに続き、30日に独立行政法人国際協力機構(JICA)を通じて、現地の被災状況や医療ニーズ等を確認し、国際緊急援助隊(JDR)の派遣検討に向けた調整を目的とした調査チームの派遣及びJICAを通じた被災者の生活必需品等の緊急支援物資供与を発表した。同日調査チームは日本から出発、翌31日にミャンマーに到着した。31日時点で、ミャンマー国営メディアの発表による被害は死者2,056人、負傷者3,900人以上、行方不明者270人以上とされていた。
4月1日、調査チームの派遣等を通じ、具体的な医療ニーズの確認がなされたことを踏まえ、日本政府はJDR・医療チームをミャンマーに派遣することを決定し、外務省及びJICAに登録された医師、看護師等を含む32名で構成された医療チームが2日に出発することを発表し、JICAに加え国連を通じた被災者への衛生用品、水・浄水器の供与を決定した(翌2日に600万ドル規模の緊急無償資金協力の用意があることを発表)。2日、医療チームはヤンゴン国際空港に到着し、野外診療所を展開するためにマンダレーに向けて出発した。1日時点で、ミャンマー国営メディアの発表による被害は死者2,719人、負傷者4,521人以上、行方不明者約441人とされていた。
4日、医療チームはミャンマー国内の移動等を経て(注:ヤンゴンからマンダレーの距離は直線距離にして600km以上あり、交通インフラの被災により、迂回路等を利用した移動を余儀なくされる状況であった)、マンダレーにおいて野外診療所を設置し、診療を開始した。同日の防衛大臣記者会見において、防衛省として、関係省庁と連携しつつ、対応に万全を期す観点から、被害状況や支援ニーズ等について情報収集を行うための調査チームを派遣し、3日にヤンゴンに到着していることを発表した。
7日、防衛大臣記者会見において、「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」に基づく外務大臣からの協議を受け、自衛隊機により、国際緊急援助活動に必要な医療資機材等を輸送することを、統合作戦司令官に命じたことを発表した。具体的には、マンダレーにおいて活動中のJDR・医療チームが人道支援活動を継続するために必要な薬品・検査薬等を含む医療資機材等をC-130輸送機による輸送するものであり、当時、通常の民航機の運航が行われていなかった状況において、迅速かつ確実に現地で活動する医療チームに届けることを可能にするものであった。なお、これは2025年3月24日に発足した防衛省統合作戦司令部の初めての国際緊急援助活動であり、かつ、ミャンマーでの初のオペレーションになった。同日、外務省は同様にC-130機による輸送を発表している。C-130輸送機は8日に日本を出発し、9日にマンダレー空港に到着し医療資機材等の輸送を完了した。6日時点で、ミャンマー国営メディアの発表による被害は死者3,564人、負傷者5,012人、行方不明者210人とされていた。
11日、日本政府は医師、看護師等を含む37名で構成されるJDR・医療チームの2次隊の派遣を決定し、12日に日本を出発することを発表した。2次隊は14日にマンダレーに到着し、1次隊に引き続き、現地で診療活動を行い、1次隊は17日、2次隊は26日に任務を終えて日本へ帰国した。1次隊及び2次隊は合わせて約2,100件の診療を行った。
JDR・医療チームの活動をはじめとし、地震の発生に際して行った日本の支援(図1参照)は多くのミャンマーの方々に好意的に受け取られ、厳しい情勢の中、人道支援や国民生活の向上のための支援をミャンマーの人々に直接裨益する形で積極的に行っていくという日本政府の姿勢を示すものとなったと考えられる。なお、筆者が確認できた最新の報道では、8月19日時点で、ミャンマー国営メディアの発表による被害は死者3,778人、負傷者5,104人、行方不明者30人とされている。
図1:外務省ホームページより https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100839111.pdf

JDR・医療チームの活動は日本の医療従事者等に加え、ミャンマー人の日ミャンマー語通訳者による貢献が大きな力となった。通訳のみならず、ロジスティックスの支援や患者の精神面のケアなどを献身的に担い、これら一連の取り組みが、質の高いJDR・医療チームの活動につながり、日本政府の「支援を必要とするミャンマー国民に直接支援を届ける」ことに大きく貢献した。これに対して在ミャンマー日本国大使館は在外公館表彰を通訳者に授与しており、受賞者の代表者の挨拶では「患者の経験した困難を聴く以上に、日本の医療支援への感謝や信頼の声が寄せられ、通訳として参加できたことに誇りを感じた。JDR・医療チームの隊員は酷暑に加え、文化や言葉の壁があるにもかかわらず、弱音を吐くことがなく、改めて日本人の持つ精神力、医療技術の高さ、チーム力及び行動力に驚かされた。ミャンマーにJDR・医療チームの派遣に大変感謝している。」という言葉があった。
3 日本とミャンマーの農林水産物輸出入関係
「食料・農業・農村基本計画」(2025年4月11日閣議決定)において、農林水産業・食品産業の「海外から稼ぐ力」を強化するとの方針が示され、2030年に農林水産物・食品の輸出額5兆円の達成等の目標が設定されている。この目標を達成するため、令和7年5月の「農林水産物・食品の輸出拡大のための輸入国規制への対応等に関する関係閣僚会議」において「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略(以下、「実行戦略」)が改訂されており、日本政府は様々な取り組みにより、日本の農林水産物の輸出等を推進している状況にある。
表1は2019年から2023年の5年間の日本とミャンマーの農林水産物の輸出入に関する実績値である。この間の日本からミャンマーへの農林水産物の輸出額は約1.4億円から約3.0億円へ推移しており、微増の傾向を示している。一方、その内訳を見ると年ごとに上位の順位にバラツキがあり、単一の品目で1億円以上のものはなく、特筆するほどの、特徴的な傾向はないものと考える。また、輸出品目の内訳を見ると、ソース混合調味料、清涼飲料水、菓子及び味噌・醤油等の一定の保存期間を有する品目の日本からの輸入が確認され、冷凍状態で輸送されていると考えられる牛肉や水産品を除き、果樹や野菜等の鮮度の維持が重要な品目については、日本からミャンマーへの輸出は確認がされなかった。
表1 <輸出>(日本→ミャンマー)
|
単位 千円 |
第1位 |
第2位 |
第3位 |
第4位 |
第5位 |
合計 |
|
2023年 |
ソース混合調味料 |
アルコール飲料 |
清涼飲料水 |
さけ・ます |
粉乳 |
|
|
89,957 |
56,957 |
40,900 |
21,737 |
19,373 |
303,154 |
|
|
2022年 |
アルコール飲料 |
ソース混合調味料 |
牛肉 |
配合調整飼料 |
さけ・ます |
|
|
70,455 |
40,114 |
18,085 |
17,545 |
14,475 |
188,107 |
|
|
2021年 |
アルコール飲料 |
配合調整飼料 |
牛肉 |
ソース混合調味料 |
清涼飲料水 |
|
|
21,948 |
13,316 |
7,068 |
4,296 |
2,119 |
57,092 |
|
|
2020年 |
アルコール飲料 |
牛肉 |
配合調整飼料 |
米 |
ソース混合調味料 |
|
|
47,343 |
22,407 |
19,743 |
9,991 |
7,862 |
145,658 |
|
|
2019年 |
清涼飲料水 |
牛肉 |
アルコール飲料 |
粉乳 |
小麦粉 |
|
|
15,314 |
14,122 |
12,458 |
11,828 |
11,239 |
141,301 |
(注:農林水産物輸出入統計から筆者が集計した)
表1 <輸入>(ミャンマー→日本)
|
単位 千円 |
第1位 |
第2位 |
第3位 |
第4位 |
第5位 |
合計 |
|
2023年 |
えび |
緑豆 |
雑豆 |
真珠 |
ごま |
|
|
3,171,700 |
2,653,465 |
1,713,149 |
1,476,556 |
940,467 |
12,838,822 |
|
|
2022年 |
えび |
緑豆 |
雑豆 |
ごま |
真珠 |
|
|
5,173,872 |
2,393,509 |
1,777,080 |
1,364,747 |
1,214,627 |
14,704,435 |
|
|
2021年 |
えび |
天然ゴム |
真珠 |
ごま |
緑豆 |
|
|
3,981,844 |
1,123,825 |
931,264 |
870,727 |
846,657 |
9,881,622 |
|
|
2020年 |
えび |
ごま |
緑豆 |
真珠 |
天然ゴム |
|
|
3,130,644 |
1,723,847 |
1,491,026 |
1,163,367 |
963,311 |
11,120,256 |
|
|
2019年 |
えび |
緑豆 |
真珠 |
雑豆 |
ごま |
|
|
4,789,302 |
1,290,500 |
1,261,746 |
1,252,476 |
1,127,928 |
12,236,210 |
(注:農林水産物輸出入統計から筆者が集計した)
「実行戦略」においては、海外で評価される日本の強みがあり、輸出拡大の余地が大きく、関係者が一体となった輸出促進活動が効果的な品目が輸出重点品目として位置づけられているが、その中には、鮮度の維持が重要な畜産品、農産品及び水産品を含めて指定されている。また、日本の農林水産物の輸出促進のために、「プロダクトアウト(生産中心の手法)」から「マーケットイン(消費ニーズに応じた手法)」に徹底的に転換することが必要であることが示されており、日本から現地まで一貫して繋ぐ戦略的なサプライチェーンの構築は具体的に取り組むべき施策の一つとして挙げられている。日本の状況と比較すると、ミャンマーはサプライチェーン及びコールドチェーンの関する分野に発達の余地を残しており、直ちに日本からの農林水産物の輸出量増加を見込むことは容易ではない状態であると考える。日本の質の高い農林水産物を当地で品質を損なわずに流通させるためには、コールドチェーンの確保は必須であると考えるが、ミャンマーにおいて、輸送時間を大きく左右する道路を含む交通インフラの整備や品質保持に不可欠な低温状態の維持に必要な電力供給の改善は食物を流通させる基礎インフラとして更なる整備や発展が望まれると考える。
一方、スーパーマーケットのような設備を有する店舗は存在するものの、ミャンマーの一般消費者にとっては、ウェットマーケットと呼ばれる、生鮮食品を中心に販売されるローカル市場の利用が根付いている。このような市場は外気に直接触れるような形で商品が陳列され、冷蔵設備を備えておらず、魚や肉は常温で販売される等の衛生面に改善の余地がある。これらの実情からすると、日本の質の高い農林水産物はミャンマーの一般消費者にとっては高価であることを含め、現地の消費ニーズに合致するものであるかどうかは把握していく必要があると考える。
いずれにしても、2019年の推計において人口5,000万人を超えるミャンマーは、2024年の日本の農林水産物・食品の輸出額の国・地域別の順位で第7位の628億円に達している人口約6,600万人(2022年)の隣国であるタイの状況を踏まえると、市場としての成長の余地を残しており、状況を注視する必要がある。
参考として、ミャンマーから日本へはえび、もやしの原料として使われる緑豆及びごま等、日本になじみのある品目が輸出されており、食卓を通じて、ミャンマーとの関わりを認識する機会をもっていただければ幸いである。
4 おわりに
海外在留邦人調査統計によれば、ミャンマーに在留する日本人は2020年の3,369人をピークに最新の2025年のデータでは1,768人と減少の一途を辿っている。外務省海外安全ホームページにおいて、ミャンマーはレベル2(不要不急の渡航中止)もしくはレベル3(渡航中止勧告)の危険情報となっており、日本からなかなか情勢をつかみづらい現状にあると考えている。現在、ミャンマーは多くの困難に直面しているが、日本にとってミャンマーが重要な国の一つであることは変わらないと考える。日本政府職員の一員として、ミャンマーの平和と発展に少しでも貢献できればと思う。
※ 本稿は、筆者の個人的見解を記したものであり、所属組織の公式見解ではありません。