2026.3 MARCH 73号

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BOOK GUIDE

集英社新書

荒野に果実が実るまで
- 新卒23歳 アフリカ駐在員の奮闘記 -
荒野に果実が実るまで 新卒23歳 アフリカ駐在員の奮闘記 書影

 本著は、新卒1年目の「私」(23歳)がウガンダ北東部「カラモジャ」地方でNGOが実施する「かんがい農業を通じた地域住民の自立支援プロジェクト」の責任者として赴任し、プロジェクトの立ち上げから1年間(2023年2月〜24年2月)の記録である。そこには現地での良き理解者や協力者との出会いや、子供達の将来の夢を聞いて希望を見出したこと、苦労を共にした住民と収穫の喜びを分け合った事や自然現象への感動も記されているが、紙幅の多くは自身が体験した困難や援助の弊害とそれらを乗り越えてプロジェクトを進めた記録であり、同時に自身に課した「援助屋に平和を作ることができるかという命題」を援助の現場体験を通じて考察する過程の記録にもなっている。

 舞台のカラモジャ地方は半乾燥気候で大多数の住民は不安定な天水農業に依存しており、ウガンダ国内でも貧しい地域とされている。さらに、近年続いた干ばつの影響やウクライナ戦争の影響による食料価格高騰が重なり多くの国内難民や餓死者が出るなど飢餓に直面している地方である。(著者の特設サイト https://kouyanikajitsu.studio.site/に写真掲載。)

 プロジェクトでは支援対象地域で特に困窮度の高い家庭を対象に、ため池を利用したかんがいにより自給用トウモロコシ生産と乾期の野菜栽培を安定的に行ない、収入機会創出を通じた自立支援を目標としている。具体的には約4ヘクタールの荒地を支援対象の家庭(150世帯)と協力して農地へと開墾を進め、そこで栽培技術の実地研修を行う。その間にため池(サッカーコート大、深さ5m)の築造とかんがい施設(点滴かんがい、地下かんがい)の整備を行っている。

 本書ではこれらの活動内容やその成果だけでなく、日々「援助屋」として現場で仕事をする中で起きた大小様々なトラブルについて時系列で示しつつ、そのトラブルと開発援助全般に付随する様々な課題、開発途上国の社会経済状況や国際社会との関係まで含めて「援助屋」1年目の新鮮な視点より考察している。

 本書の大卒一年目のNGO「新人」がいきなり新規プロジェクトを立上げる責任者として一人でアフリカ(ウガンダの田舎)に乗り込んで行くという設定は(「序」に若干の説明があるが)、やや違和感があるかもしれない。NGOのホームページによると、著者は十代の頃よりアフリカに興味を持ちはじめ、大学では東アフリカでバックパッカー旅をし、さらにルワンダの大学へ長期留学とある。留学中に「母国の平和に貢献したい」と語る内戦被害者の学生と知り合ったことを契機に平和のために自分に出来ることは何かを考えた末にNGOでインターンシップを行ことになった、との紹介があり学生時代にNGOやアフリカでの経験を持ち、就職先にNGOを選択したやや異色の「新人」である。

 著者が本書で取り上げたプロジェクト遂行にまつわる困難や課題には、天候不順のようなもの以外に人や制度がかかわる次のような内容がある。それらは様々な政府機関相手に遅々として進まない折衝、プロジェクトに関連するミーティングに必要な謝金、現地スタッフ採用、スタッフによる不正、工事の発注や施工日程の不確実さ、支援対象の選定、支援対象者の参加意識、政治家の宣伝に利用される、在来種とハイブリッド種子選定、害虫と農薬使用等など、円滑に進むことが何一つ無いように次々とトラブルが起きる。これらに対し「援助屋」として現実的に対応をしながら、その原因や背景に思いを馳せつつ考察し「私はこのプロジェクトを進める中で、自らの五感で感じた援助の弊害について、ありのままを語ってきた」としている。そして著者は援助の構造や援助する側の都合、長期間続く“緊急”食糧援助、開発途上国における学歴社会、飢えと暴力の関連や世界の食料需給にまで考察は及ぶ。著者が飛び込んだ援助という「困っている人を助ける美しい仕事」が、実は一歩足を踏み入れると「援助の渦の中で・・・利害が複雑に絡み合い・・・国家単位の駆引きが渦を加速させ・・・それは希望に見える絶望だった」と。それでも、現地で一年前には「食べ物を乞う」立場であった住民が、「食べ物を生産して地域住民に売る」ようになり、さらに売り方を自分たちで工夫し、彼らを真似て自分の庭で野菜栽培を始める少女を見て、「希望は...住民一人ひとりの中にすでにある」もので、援助屋の仕事はそれを「最大限引き出すこと」であり、これが平和への「勝ち筋」としている。そして援助屋に平和は作れるし、「そこには平和の果実が実っていた」と結んでいる。

 プロジェクトの大小や期間の長さに関わらず、海外(特にアフリカ)で「援助屋」として現地の住民と日々の交流を積み重ねた読者であれば、著者の銃を持つよりも鍬を持って耕す方が報われる社会になるよう貢献することで「平和は作れる」との考えに共感できるのではないだろうか。また、援助に少しでも興味のある学生や若手技術者諸氏には、開発途上国への援助の仕事には、この本に散りばめられた様々な困難や課題があるにも関わらず、現地には希望があり、それを花開かせるすばらしい仕事が「援助屋」であると感じてもらえるのではないだろうか。

 著者はこの本の最終章からさらに1年半(2025年8月)まで現地責任者として活動した後に帰国し、現在は続編を執筆中である。「平和の根源にある何かを探し...地道な平和運動を続け...あなたに語りかけていくことを続けたい」と後書きにあった、続編の上梓が待たれる。


一般財団法人 日本水土総合研究所 福村一成


集英社新書

2025年6月

272ページ

ISBN 9784087213676


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