INWEPFの活動経過と第6回運営会議
およびシンポジウムの開催報告

財団法人 日本水土総合研究所(JIID) 主任研究員 香山泰久

1. はじめに
  2009年11月16日から18日にかけて、東京の国際協力機構(JICA)研究所において、INWEPF (International Network for Water and Ecosystem in Paddy Fields:国際水田・水環境ネットワーク)の第6 回運営会議と国際シンポジウムが開催されました。
  ここでは、INWEPFの設立、これまでの活動経過とともに今回の運営会議、シンポジウムおよび現地視察の結果について報告します。


図1 INWEPFの概要

2. INWEPFの設立
  設立の契機となったのは、2003年に京都で開催された、第3回世界水フォーラムの「水と食と農」大臣会議です。この会議で採択された大臣勧告を受け、農林水産省と国連農業食糧機関(FAO)は、3つのチャレンジ(「食料安全保障と貧困削減」、「持続可能な水利用」、「パートナーシップ」)を実現するため、水田灌漑技術の経験を生かした研究と対話を推進することとし、アジアモンスーン地域におけるネットワークの構築を目指すこととなりました。
  以降、準備会合などを経て、2004年11月1日、2日に東京で開催された第1回運営会議と設立記念シンポジウムにおいてINWEPFが正式に発足しました。

3. これまでの活動経過
  第1回運営会議では、INWEPFの今後の活動計画について議論が行われ、図1のとおり、INWEPFは、誰もが参加可能な水田と水に関する情報交換の場として、上記の3つのチャレンジを実現し、環境と調和した水利用を実現するため、「運営会議」、「バーチャルミーティング」、「拡大会議」、「ワーキンググループ」の4つの活動に取り組んでいくこととなりました。


表1 INWEPF運営会議の概要


表2 過去のバーチャルミーティングの概要

(1) 運営会議
  2004年11月にINWEPF発足のための第1回運営会議が開催されて以来、2008年度までに5回の運営会議とシンポジウムが開催されています。
  08年度までの運営会議の概要は、表1の通りです。運営会議は、INWEPFの規約通り、INWEPF参加各国のINWEPF事務局の持ち回りで実施されており、第5回運営会議までの会議主催国は、開催順に、日本、韓国、マレーシア、タイ、インドネシアとなっています。
(2) バーチャルミーティング
  バーチャルミーティングは、情報や知見の交換と共有を図るためのインターネット上の会議室です。
  2005年以降、INWEPF日本国内委員会が主催し、現在までに3回のバーチャルミーティングを開催しており、アジアモンスーン地域を中心とした水田農業に関係する技術者、研究者が参加し、決められたテーマについてインターネット上で議論を行っています(表2)。
(3) ワーキンググループ活動
  2006年にマレーシアで開催されたINWEPF第3 回運営会議において、各国がそれぞれ役割を担って連携しながらINWEPFの活動を進めるため、以下のような3つのワーキンググループ(WG)が設立され、それぞれにテーマに関する活動が行われています。
WG1: 水田の多面的機能に関するワーキンググループ
WG2: 政策・ビジョン、広報に関するワーキンググループ
WG3: 水田の貨幣価値換算評価に関するワーキンググループ
  日本は、WG3の取りまとめ責任国となっており、INWEPF各国の水田農業が有する多面的機能の貨幣価値の試算などを行いました。試算結果は、2009 年3月にトルコのイスタンブールで開催された、第5回世界水フォーラムにおいて発表されました。
(4) 国際的な会議への情報発信
  INWEPFは、アジアモンスーン地域における水田の多面的機能などに関する理解を促進させるため、これまでに第4回、第5回の世界水フォーラムなど水に関する国際会議に参加し、国際会議に対して「INWEPFからのメッセージ」を発出するなどの情報発信活動を積極的に行っています。

4. INWEPF第6回運営会議およびシンポジウム
(1) 国際シンポジウム
  会議初日の11月16日には、「水田の多面的機能の価値と評価」と「水田かんがい技術普及のための支援手法(参加型水管理:PIM の普及支援方法)」をテーマに国際シンポジウムが開催されました。シンポジウムには、INWEPF関係者をはじめ、関係機関などから130名を超える方々が参加しました。
  シンポジウムでは、元世界銀行職員であるDr. David Groenfeldt 氏から「農業の多面的機能に関するヨーロッパのアプローチ」、JICA小原基文農村開発部長から「参加型水管理の普及:日本の国際協力経験に基づく提言」の2つの基調講演が行われました。
  また、日本(3名)、フィリピン、中国、ラオス、エジプトの講演者から、各国での水田農業や棚田などの保全、水田農業の多面的機能、およびPIMに関する発表が行われました。
  質疑応答においては、Dr. David Groenfeldt 氏の司会のもと、PIM の成功事例と失敗事例、水田農業の多面的機能や棚田の保全に対する支援方策など、幅広い質疑や意見交換が行われました。


写真1 第6回INWEPF運営会議

(2) 運営会議
  会議2日目の11月17日には、INWEPF運営会議とWG会合が開催されました。会議には、INWEPF加盟17 か国全ての国の代表と2つの国際機関IWMI(国際水管理研究所)およびMRC(メコン河委員会)などが参加しました。
  今回の運営会議では、これまでのINWEPFの活動には、具体的な活動計画がないこと、活動内容が水田農業の多面的機能に偏っていることなどの課題がみられたことから、活動の目標や行程、アウトプットの明確化を行うための議論が、行われました。なお、議長には、近畿大学農学部の八丁信正教授が選出され、議長の進行のもと、議事が進められました。
  17日の会議の主な結果は、以下の通りです。
・ 2 0 1 2 年に開催される第6回世界水フォーラムに向けた活動を第2期とする。
・ 活動目標は、「持続的水田農業の促進」
・ 活動目標に対するテーマ
1) 水と食料問題および環境に対する水田農業の対応
2) 国際社会への水田農業の理解の醸成
3) 国際技術協力機関とのパートナーシップの構築
・ WGは活動テーマに沿って再編
WG1: 水田の多面的機能に関するWG
WG2: INWEPF活動における政策、ビジョン、情報発信に関するWG
WG3: 持続可能な水田農業に対する国際的な協力と連携に関するWG(新設WG)
  その他、第5回世界水フォーラムの結果報告が前(財)日本水土総合研究所技術顧問の中村良太氏から行われるとともに、次回のINWEPF運営会議は、韓国で行うことに決定し、運営会議は閉会されました。


写真2 現地視察集合写真(大山千枚田)

(3) 現地視察
  会議の最終日の18日には、両総土地改良区と鴨川市の大山千枚田に現地視察を行いました。
  両総土地改良区では、土地改良区および組合員による維持管理活動や賦課金について、また、大山千枚田では、棚田の保全活動について意見交換が行われました。

5. おわりに
  2004年に設立されたINWEPFも5年が経過し、新たな目標を定め、第2期の活動がスタートしました。今後とも、第2期の目標に向かって、メンバーがそれぞれに協力し、活動を着実に実施していくことが、INWEPF のプレゼンスを向上させていくために重要であると思われます。

<参考資料>
1. 農林水産省ホームページ
http://www.maff.go.jp/inwepf/jp/news/sm6.htm

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