渡邉紹裕編著
『地球温暖化と農業』
地域の食料生産はどうなるのか

 本書と出会ったのは、今年から始まった地球温暖化に関する業務の担当者となり、それなりに勉強をしなければいけないなと思っていた矢先であった。編者である総合地球環境学研究所の渡邉教授のことは以前から存じ上げていたため、本書を手にすることにあまり抵抗はなかった。そして、実際に、通勤時間を利用して3日で読了した。専門書(著者たちはそうは考えていないかもしれないが)としては、非常に読みやすい、これが第一印象である。地球温暖化に少しでも関心のある方は、本書を読むことをお勧めする。
  本書は、地球研プロジェクト「乾燥地域の農業生産システムに及ぼす地球温暖化の影響」(Impact of Climate Changes on Agricultural Production System in Arid Area;ICCAP)で得られた成果の紹介を中心に、地球温暖化に伴う気候変動と、それが農業に及ぼす影響に対しどのようなアプローチがなされているか、またどの程度のことが解明されているのかを紹介している。また、ICCAPを統括する渡邉教授の監修の下、気象、水文、作物、経済の4人のプロジェクト担当者が、それぞれの専門分野からIPCC第4次報告書の内容、ICCAPの成果、地球温暖化が日本に及ぼす影響について解説している。
  渡邉教授は、IPCC第4次報告書を、「科学的根拠を丁寧に積み上げたこともあって、国際社会に大きなインパクトを与えた」と評価しているが、事実を丁寧に積み上げるという姿勢は、ICCAPおよび本書においても貫かれているように感じる。不確実性の高い将来の問題に少しでも光を当てるには、やはりこのような姿勢が大切ではないだろうか。また、本書は単なるプロジェクトの成果を発表するにとどまらず、研究において苦労した過程が簡潔に分り易く述べられており、これから地球温暖化の問題に取り組む人にとっても読みごたえのある内容となっている。さらに、著者たちは自身の分野の深い知識は当然のこと、周辺分野から社会一般に及ぶまで、実に広範な知識をもとに記述しており、読んでいるうちに自然と本書の内容に引き込まれていることに気がつく。実際に、現在の研究は複数の研究者が共同で進める方式が主流となっているらしく、幅広い知識と他の研究者との調整能力が求められるのであろう。著者たちもそのような研究者なのだろうな―本書を読んでいると容易に想像がつく。
  地球温暖化は、ある日ある年、突然に進行するわけではなく、様々な前兆を示しつつ、緩やかに進行するものである。そのため、地球温暖化に及ぼす人間の活動の影響は大きいと考えられる。教授自身が指摘しているように、ICCAPおよび本書においては、社会・政治・文化が及ぼす影響についてほとんど触れられておらず、今後の課題となっている。
  繰り返しになるが、地球温暖化に関する問題、特に地球温暖化に関するシミュレーションの実際を理解するための入門書として、本書は最適であるように思う。ただし、研究はナマモノ、読むなら活きの良いうちがいいだろう。
(日本水土総合研究所 主席研究員 小林慶一郎)

昭和堂刊 本体価格2300円

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