―IPCC第4次評価報告書から―
地球温暖化がもたらす影響

独立行政法人 国立環境研究所 社会環境システム研究領域
領域長 原沢英夫

1.はじめに
  気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on ClimateChange:IPCC)は、1988年に世界気象機関と国連環境計画によって設置された国際組織であり、地球温暖化に関する科学的な知見を定期的に評価することを使命としている。2007年、IPCCが6年ぶりに3つの報告書(第4次評価報告書)を公表した。温暖化の現象と予測を扱う第1作業部会報告、影響・適応・脆弱性を扱う第2作業部会報告、緩和策(削減策)を扱う第3作業部会報告が、各作業部会の総会で審議され、承認された後にすぐに記者発表されて、世界各国の新聞やテレビなどで報道された。これらの3つの報告書を踏まえて、現在、統合報告書が作成されている。2007年11月のIPCC総会(全体)で審議、承認され、第4次評価報告書は完成する。4つの報告書は同じく11月に開催される気候変動枠組み条約の締約国会議(COP13)へ提出され、条約や京都議定書など温暖化対策の審議の際に、最新の科学的知見として活用されるはずである。
  本稿では、公表された第4次評価報告書のうち、温暖化の現象と予測をとりまとめた第1作業部会報告書の要点、影響・適応・脆弱性をとりまとめた第2作業部会報告書の概要として、温暖化の影響の現状、農業分野および水資源分野における影響予測、そして影響を低減する適応策について紹介する。

2.温暖化現象の解明と予測
  第1作業部会の第4次評価報告書の要点は以下のとおりである。
・温暖化の原因
  これについては「人為起源の温室効果ガスである」とほぼ断定した。たとえば、前回の第3次報告書(2001年)では、「最近50年間に観測された温暖化のほとんどが人為的活動によるものであるという、新たな、より強力な証拠がある。(途中省略)最近50年間に観測された温暖化のほとんどが温室効果ガス濃度の上昇によって引き起こされた可能性が高い(is likely)」という評価だったものが、第4次報告書では、「過去半世紀の気温上昇のほとんどが、人為的温室効果ガスの増加による可能性がかなり高い(is very likely)」と可能性が90%を超える確率となり、科学的にほぼ断定されたといってよい。
・観測された気温上昇
  過去100年間に地球の平均気温が0.74 ℃上昇した。とくに最近の気温上昇は顕著であり、2006年までの最近12年間のうち11年間は最も高い気温であった。
・将来の気候変化
  気候モデルの開発や応用が進み、将来予測から、21世紀末で1990年比で気温は1.1〜6.4℃上昇し、海面上昇は18〜59cmになると予測された。これらの数値はIPCCの6つの将来想定(排出シナリオと呼ぶ)をした場合の将来予測である。また2030年までは排出シナリオによらず、10年当たり0.2℃気温上昇することが確実と予測されている。
・温暖化と異常気象
  両者の関係も、少しずつわかってきた。2003年の欧州熱波(欧州で3万5000 人以上死亡)、2005年のハリケーン「カトリーナ」(1300人以上死亡)と温暖化との関係も科学的な信頼性は弱いが、関連があることが徐々に明らかになってきた。熱波やハリケーンなどの熱帯低気圧は、今後、温暖化とともに強まると予測されている。
・新たな知見
  21世紀後半には北極の海氷が消滅すること、海洋が酸性化しており、この200年に酸性度を表す指標pHが0.1減少したこと、そして海洋、陸地とも二酸化炭素の取り込みが減少することなどが新たに明らかとなった。

3.温暖化の影響・適応・脆弱性
(1)影響の現状と予測
  第2作業部会の報告書では、生態系や人間社会への影響については、影響に対する抵抗力や適応力があることから、影響と適応力を総合して脆弱性と呼んでいる。中心的なテーマは温暖化の影響の現状と予測、影響への適応策などである。
・温暖化の影響の現状
  すべての大陸とほとんどの海洋において雪氷、生態系、人間社会に影響が現れていることがわかった。2万9000件を超える観測データのうち、物理環境については765観測のうち94%、生物環境については2万8671観測のうち90%において、温暖化の影響が有意に現れていると分析している。既に生じている主要な影響としては、以下のものが挙げられる。
−氷河湖(氷河が縮小するときに溶け出した水が溜まった湖)の増加と拡大/永久凍土地域における地盤の不安定化/山岳における岩なだれの増加
−春季現象(発芽や開花、鳥の渡り、産卵行動など)の早期化/動植物の生息域の高緯度、高地方向への移動
−北極および南極の生態系(海氷生物群系を含む)および食物連鎖上位捕食者における変化
−多くの地域の湖沼や河川における水温上昇
−熱波による死亡、媒介生物による感染症リスク
(2)農林水産業への影響
  温暖化の影響については、分野毎、地域毎に知見がまとめられている。そのうちの農業分野への影響について以下に示す。
・中〜高緯度地域における農作物の生産性
  地域の平均気温の最大1〜3℃の上昇に対して、農作物の種類に応じてわずかに増加するが、それを超えて上昇すれば、ある地域では減少に転じると予測される。
・低緯度地域における農作物の生産性
  低緯度地域、とりわけ季節的に乾燥する熱帯地域では、農作物の生産性は、地域平均気温のより小幅の上昇(1〜2℃)の場合でさえ減少し、その結果、飢餓リスクを増加させると予測される。
・世界の食料生産
  世界的には、地域の平均気温が約1〜3℃の幅で上昇すると、食料生産の潜在量が増加すると予測されるが、それを超えて上昇すれば、減少に転じると予測される。
・農業の適応策
  品種改良や作付期の変更のような適応は、中程度の温暖化に対応して、低〜中緯度から高緯度地域における穀物収量をベースラインの収量に維持、またはそれ以上に増やすことを可能にする。
・異常気象の影響
  干ばつと洪水の頻度の増加は、地域の生産、とりわけ低緯度地域の自給農業部門に悪影響を与えると予測される。
・林業への影響
  商業的木材の生産性は、短中期の温暖化により、全球的な傾向に対して大きな地域変動性があるものの、中程度に増加すると予測される。
・漁業への影響
  今後続く温暖化に起因して、ある種の魚種の分布および生産量の地域的な変化が生じ、養殖および淡水漁業へ悪影響を及ぼすと予測される。

図1温暖化による気温上昇と食料への変化
図1 温暖化による気温上昇と食料への影響

  図1は気温上昇に対する食料生産への影響を表したものであり、横軸は1980年〜1999年の世界の年平均気温(すなわち1990年頃の気温)からの気温上昇幅を示し、気温上昇幅に対して、どのような影響が現れるかを示したものである。記載された項目の左端が気温に対応している。たとえば、「低緯度地域における穀物生産性の低下」については、1℃の気温上昇で影響が出はじめ、3.5℃付近からは、すべての穀物生産性が低下することを表している。

図2 温暖化による気温上昇と水資源への影響
図2 温暖化による気温上昇と水資源への影響

  (3)水資源への影響
 温暖化すると全球レベルでは、水循環が活発になり、降水量も増加すると予測されているが、気候モデルの予測結果からは、概して現在降水量の少ない地域は更に少なく、降水量の多い地域は更に多くなるという傾向がある。前者では水不足が更に加速され、後者では適切なダムなど洪水調整施設がない場合には、洪水が発生して被害を与えると予測される。農業生産にも水資源の多少は大きな影響を及ぼす(図2)。
・河川流量と水利用可能性
 今世紀半ばまでに、年間平均河川流量と水の利用可能性は、高緯度地域および一部の熱帯湿潤地域において10〜40%増加し、中緯度地域のいくつかの乾燥地域および熱帯乾燥地域において10〜30%減少すると予測される。前者の例としては、北米およびユーラシアの高緯度地域、赤道アフリカ東部、南米ラプラタ川流域、後者の例としては、アフリカ南部、中東、欧州南部、北米西部の中緯度地域が挙げられる。
・干ばつと洪水
 干ばつの影響を受ける地域の面積が増加する可能性が高い。強い降雨現象は、頻度が増す可能性が非常に高く、洪水リスクを増加させる。
・氷河融解の影響
 今世紀中に、氷河および積雪に蓄えられている水供給が減少し、主要な山岳地帯から融解水の供給を受ける地域(現在の世界人口の6分の1以上が居住している)における水の利用可能性を減少させると予測される。アジア地域においては、氷河が融けて2050年頃には、10億人が水不足になると予測されている。
・水の適応策
 水分野における温暖化への適応手続きやリスク管理の実施は、予測される地球上の水循環の変化と関連する不確実性を認識した、いくつかの国や地域において進みつつある。
(4)重要さを増した適応策
 すでに気温が上昇しており、影響が出ていることから、影響を低減するための適応策が実施されているケースもある。今後、更に温暖化が進み悪影響が拡大する場合には、影響を低減するための適応策を計画的に実施することが必要となる。適応策にも費用がかかることから、適切に削減策と組み合わせることにより、気候変化に伴うリスクを更に低減することができる。
 しかし、最も厳しい緩和策を実施できたとしても、今後数十年間は、先述のように温暖化が確実に進み、追加的な影響を回避することができないので、適応策は、とくに短期的な影響への対処において不可欠となる。
仮に、京都議定書の目標が達成できず、その後も効果のある緩和策がとれないとすると、気温上昇は続き、長期的には、自然環境、人間社会の適応能力を超えると予測される。

表1 農業における適応策
表1 農業における適応策

  表1は第4次評価報告書のアジア地域の影響を扱った10章に記載されている農業への影響を低減するための適応策を一覧としたものである。種々の適応策が提案されていることがわかる。

4.おわりに
  第4次評価報告書が、「温暖化の原因が人間活動から排出された温室効果ガスであること」を科学的にほぼ断定したことの意義は大きい。また、温暖化と異常気象との関係や気候モデルによる将来予測の精度が上がるなど、この5年間に研究が大いに進んだことは確かである。しかし最近の気温上昇が加速化していることなど、地球システムのもつフィードバック効果も大きくなっていることも指摘されている。そして、温暖化の影響がほぼ世界全域で現れていることも科学的に明らかになった。今後も進む温暖化の影響を低減するための適応策は、気温上昇幅が小さいうちは効果があるが、大きくなると適応策を実施しても、影響を低減することは不可能になると指摘されている。1990年に比べて2〜3℃の気温上昇にとどめないと、どのようにしても、温暖化の影響を低減することは不可能になると予測される。
  温暖化にかぎらず、環境問題の根本的な解決は発生源を絶つことである。温暖化の場合は、人間活動から排出されるCO2などの温室効果ガスの排出を大幅に削減することである。ここでは触れなかったが、第3作業部会報告書は、気温上昇を産業革命前に比べて、悪影響がでない2.4℃ぐらいまでに抑制するためには、2015年頃までに削減傾向に反転させて、2050年には少なくとも半減することが必要であると指摘している(2000年比)。
  日本では、京都議定書の目標達成計画の見直しが進んでいるが、2005年度は1990年比で7.8%温室効果ガスが増加しており、日本が約束した「6%削減」を達成するためには13.8%の削減を行う必要があり、目標の達成は現段階では非常に厳しい状況である。G8ハイリゲンダム・サミットで主要国の首脳が、温室効果ガスを2050年に、現状に比べて半減するという長期目標に合意した。京都議定書第一約束期間後には、更に厳しい削減が待っている。早急に化石燃料に依存しない低炭素社会へ変革することが喫緊の課題である。

〈参考資料〉
IPCC, “Climate Chnge 2007 The Physical Science Basis, ”2007

IPCC, “Climate Chnge 2007 Impacts, Adaptation and Vulnerability, ”2007
*上記はIPCCのサイト(http://www.ipcc.ch)から報告書全文が入手可能

原沢英夫、地球温暖化の影響の現状と予測、『科学』、Vol.77,No7,pp.717-722、2007

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