「次世代のために」始めなければ、始まらない

水と緑と大地の会 事務局長
近畿大学 農学部 教授 八丁信正

1.はじめに
 先日の新聞に、NPO法人の登録団体数が2005年1月末で2万を突破したとの記事が掲載されていた。しかし、一般の人にとって、NPOやNGO団体とその活動というと、まだまだなじみの薄い存在であり、十分に認知を受けていない状況にあるように思われる。場合によっては、なにやら特殊な人たちの集まりで、仲間同士で自己満足的に活動をやっていると捉えられている。
 一方、ボランティア活動や海外支援活動に関心を持つ若い世代や退職年齢前後の方々が増えつつあることも、一つの傾向である。これは、阪神・淡路大震災などの災害ボランティアの活動が大きくマスコミで取り上げられたこと、草の根無償協力やNGO支援体制の整備、NPO法案の成立、国際ボランティア貯金の開始など、1990年代に入ってからの、新しい流れであるとも思われる。

 さて、NGOの活動を行う場合、途上国にとってNGO活動はどういう位置づけになるのかという視点も必要である。一般的には途上国、とくに農村部では行政サービスが十分に行き届かず、NGOなどの民間組織が果たす役割は非常に大きいと考える。また、自立・自助の観点からは、地域の住民が行政からのサービスを待つという姿勢でなく、自ら行動を起こす事が重要であり、その起爆剤あるいは触媒として、NGOの役割を捉えることも必要である。
 本稿では、NGOなどの団体の現状と今後の展望を、著者が活動に関わってきた「水と大地と緑の会」の6年間の活動を通じて考察する。

2.NPOとNGO
 1998年、特定非営利活動促進法(通称NPO法)が施行され、NPO組織が正規の法人として認められるようになった。特定非営利活動促進法において定められている活動内容は17項目で、(1)保健、医療または福祉の増進、(2)社会教育、(3)まちづくり、(4)文化・芸術またはスポーツ振興、(5)環境保全、(6)災害救済、(7)地域安全、(8)人権擁護あるいは平和推進、(9)国際協力などと、多岐にわたっている。
 約2万のNPO法人のなかで、国際協力の推進を定款に掲げている法人は4445であり、全体の22.4%を占める。2001年10月から認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)への個人または法人からの寄付金は所得控除、損金算入が認められる法律(NPO税制)が制定された。しかし、認定のハードルが高いため2003年に認定要件が緩和されたものの、制度の開始以来、認定を受けたNPOは29法人にとどまっている(平成2005年1月現在)。
 開発援助に関わる民間援助団体(一般的にNGOと呼ばれている)に関する調査(2003年度実績:国際開発ジャーナル2004年11月号)によると、調査対象約1200団体で回答のあった332団体のうち、約半分は任意団体(157)であり、NPO法人104、財団39、社団20などとなっている。

 これら332団体の援助実績は合わせて428億8000万円であり、その73%を自己資金が占め、残りを助成金や補助金などでまかなっている。ただし全体資金のうち、約164億円は日本ユニセフ協会の資金であり、以下日本フォスタープラン協会(32億円)、ジャパンプラットフォーム(29億円)、日本赤十字社(24億円)、ワールド・ビジョン・ジャパン(20億円)と、上位の5団体だけで、全体の63%の資金を占めている。逆に1000万円未満の団体が209団体(63 %)、100万円未満でも102団体(30%)であり、資金規模的には二極分化の傾向が強い。
 こうした二極分化には、公的支援資金の減少も大きな要因である。1999年度には12億円近くの配分が行われた国際ボランティア貯金は、2004年度には1/10以下の1億770万円まで減少しており、1団体あたり約600万円の助成額から、200万円以下に低下している。さらに、外務省からのNGO活動に対する事業補助金も、89年度の開始当初の8258万円が97年度には9億2000万円に達したものの、その後は減少の一途をたどり、2003年度では約2億6000万円に減少している。
 地域的にはアジアが74%、分野別では保健・医療や地域総合振興事業(一部に村落開発も含まれる)が70%を占めている。しかし、農漁村開発事業は全体の7%であり、この分野でのNGO活動への支援は必ずしも十分に行われているとは言いがたい。また、ODAに占める対NGO政府補助金は1.5%にとどまっており、OECDの平均2.1%を下回っている。

3.水と大地と緑の会
 途上国における農村地域の人々の自立および人づくりに対する支援を目的として、1998年11月に設立された「水と大地と緑の会」も、丸6年の活動を終え、12か国、延べ30件(900万円)の支援事業を展開することができた。会の設立当初は、会員が本当に集まるのか、運営が可能なのかという不安を抱えながら、手探りの状態で出発したが、関係者の支援・協力もあり、徐々に会もその基盤がしっかりしたものになってきたのではないかと考えている。

(1)事業実施状況

完成した手押しポンプと井戸(クリックすると拡大します)
完成した手押しポンプと井戸
(マリ:カラと協力)
小学校のトイレの整備を喜ぶ(クリックすると拡大します)
小学校のトイレの整備を喜ぶ
(タンザニア:里見専門家)
住民参加による池の整備
住民参加による池の整備
(パキスタン:清水専門家)
バングラデシュ奨学金に選ばれた学生(クリックすると拡大します)
バングラデシュ奨学金に選ばれた学生
(上潟口専門家)

植林事業のための苗木の運搬(クリックすると拡大します)
植林事業のための苗木の運搬
(ボリビア・スクレ:吾郷専門家)(苗木代金の90%を支援、10%は住民負担)

 

国 名 活動内容 備 考
フィリピン 6 機材、インフラ(水道、橋)2、MC基金 JNFと協力
タ イ 2 学校農園整備2  
ラオス 2 技術訓練2 IV-Jと協力
カンボジア 1 学校整備(窓、ドア) 日韓アジア基金と協力
バングラデシュ 3 小規模灌漑、奨学基金2  
パキスタン 5 塩害地域修復2、池・灌漑3 草の根無償で学校
タンザニア 2 トイレ改修、小規模灌漑 草の根無償と共同
マ リ 2 井戸2 カラ(西アフリカ農村自立協力会;砂漠化の進む西アフリカ、マリで活動するNGO)と協力
ガーナ 1 小学校修復  
ガンビア 1 教材供与  
パラグアイ 1 インフラ(橋)  
ボリビア 4 小規模灌漑、植林、植樹2 青年海外協力隊員との協力
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表1 事業実施状況(1999−2004)

 過去6年の支援事業実施状況は地域的には、表1に示すようにアジアが約63%を占め、残りのそれぞれ20%、17%を、アフリカ、中南米が占めている。支援は、申請に基づき順次行っており、アジアからの申請がもっとも大きかったため、このような地域的分布になったものと思われる。もちろん、現地に滞在する専門家などの会員数もアジアが多く、それが事業実施地区数に反映されたものと考える。事業実施の詳細は、会のホームページをご覧いただければ幸いである。(www1.neweb.ne.jp/wb/page2050/
 支援の内容は多岐にわたっているが、基本的にはインフラ整備(小規模灌漑、ため池、水道、井戸、学校改修など)のための資材の供与(労働力などは現地で負担)、学校農園の整備、奨学基金・小規模融資資金、環境改善(塩害、植林・植樹など)、訓練・教材供与などとなっている。インフラを含めたハードの整備が多いものの、バングラデシュの奨学基金(利子の運用だけで3名程度の奨学金を供与)やフィリピンでの小規模融資資金(MC:リボルビング資金として貸付)や農民研修(ラオス)など、ソフトの支援も行っている。
 支援事業の申請、モニタリング、報告などは、現地に在住する専門家を中心とした人たちに依存している。仕事の休みを利用して、現地の人たちと交渉や調整をお願いしており、この場を借りて感謝したい。同時に、本稿を読んでいただいた現地の会員・専門家などから、多くの支援事業の申請をいただければ幸いである(ホームページに申請様式も掲載している)。草の根レベルで現地の人たちと付き合うことは、ご苦労も多いと思うが、その国や地域をより深く理解でき、ネットワークが広がることも一つの利点ではないかと考える。
 当会の活動では支援の額が、1地区あたり30万円と比較的小さい。しかし、途上国の物価を考えると、30万円でも一定の活動は十分に可能である。また、支援の多くは資材が中心であり、労働力を含め現地で用意できるものは、現地で対応してもらうというのが基本的スタンスである。逆に、小規模がゆえに住民の協力が不可欠であり、こうした支援が呼び水となり、住民の意識や意欲の改善につながることも期待できる。
 貧困問題は教育、就業機会、所得、健康などの問題が複雑に絡み合った、一連の悪循環を形成しており、内部からの自助努力だけでは、貧困のワナから抜け出すのが難しい場合が多い。われわれの小規模な支援活動でも、悪循環から抜け出すきっかけになれればよいと願っている。

染色作業の研修
染色作業の研修(ラオス:IV−japanと協力)
訓練学校に設備された足踏みポンプ(クリックすると拡大します)
訓練学校に設備された足踏みポンプ
(ラオス:IV−japanと協力)
(現地の新聞ヴィエンチャンタイムズ2003・5・30にも紹介される)

(2)活動実施体制
 会の運営の方針、支援事業の承認(申請後3か月以内を目標にしている)などは、委員会(現在12名で構成、会長は池田文雄氏)で決定し、活動の運営は事務局で実施している。設立後6か年の資金収支は、表2に示す通りである。

年 度 収 入 振込会員 支 出 地区数 単年度収支 備 考
1999 2,874,575 370 1,652,160 5 1,222,415  
2000 3,398,793 320 2,502,339 8 896,454 特別寄付あり
2001 1,361,720 210 654,295 2 707,425  
2002 1,268,397 200 1,616,314 5 ▲ 347,917  
2003 1,597,864 200 1,246,875 4 350,989  
2004  1,101,800  190  1,843,530  6  ▲ 741,730  2005/2/25現在 
11,603,149   9,515,513 30 2,087,636  
表2 6か年の資金収支(2004年度は暫定)

 当会は資金規模からすると、NGOのなかでも比較的小さい部類である。会の収入は、会員の会費と寄付(チャリティーや書き損じはがきを含む)のみでまかなっており、委託や補助金は受けていない。また、収入は基本的に支援活動に使用するという方針から、事務経費(大半は会報などの郵送料)は5%程度である。

 先にも述べたが、NGO団体は非常に大きな資金規模を誇り、専従の職員を抱える団体と、小規模で特定の国や領域に特化した団体に二極分化が進展している。規模の大きい団体はマスコミなどでも取り上げられる機会が多く、また補助金の受領においても比較的優位な状況にある。逆に規模の小さな団体は、あくまで活動をボランティアとして位置づけ、それぞれの団体の規模に応じた活動を展開している。

 規模の大きな団体のなかには、NGOやNPO活動を仕事と位置づけ、活動に携わっている人たちも見られる。しかし、それはそれで、新しい方向ではないかと考える。ボランティア精神や自己犠牲だけを基本に活動していては、こうした活動の拡大や、質の向上は難しいと考える。私利私欲を肥やすという利潤追求の活動ではなく、より良い社会を実現するために行われる活動や、それに関連した就業の機会が増える事が、これからの社会には必要なのではないか。そうした意味では、NPO法人の登録数が近年急速に拡大しているのは、心強い傾向である。

 当会の場合、今後どういう活動の展開を図っていくのか。一つはもちろん、資金規模と活動を大幅に拡大することであるが、逆に一定規模以上になると、専従の職員を置いて対応しなければならなくなり、最低でも1000万円近くの資金を確保する必要が生じてくる。補助金などの申請も、より積極的に実施する必要がある。もちろん、NPO法人への登録も必要となろう(委員会ではNPO法人化という方向が確認されているにもかかわらず、事務局で対応できていない現状である)。当面は、支援事業の申請状況、会員からの払い込み状況を見ながら、柔軟に対応していかざるを得ないと考える。ただ、近年、会費収入や払い込み会員数が減少傾向にあるのが気になるところである。

4.おわりに
 「水と大地と緑の会」の活動も6年を終了したところである。目標とする2050年(PAGE2050【Partners of Agri for Green Earth 2050】の2050は最終目標年)に対して、ようやく10%が終わったことになる。世界の状況はどうであろうか?2015年のミレニアム開発目標の達成は危ぶまれ、貧困や飢餓の問題はますます深刻さを増し、社会不安や犯罪、テロ、さらには環境問題のいっそうの深刻化といった、人間社会の存続に関わる問題も多発している。こうしたなかで、我々は、地球環境や人間社会の持続性という観点から、もう一度生き方を見つめなおす段階に来ているのではないだろうか。我々が直面する多くの問題の根源は同じところから発生しており、それは我々が追い求めてきた利便性や消費を中心とした生き方に、根ざしているのではないかと思える。
 NGOなどの活動への参加や活動自体が、「単なる自己満足や自己顕示ではないか」というような疑問も耳にする。しかし、自己満足、自己顕示、大いに結構ではないか?まず、自分として何ができるのか考えて、行動してみるところから、始まるのである。「始めなければ、始まらない」の精神である。小さな省エネでも良いし、ゴミの分別・資源化でも良いと思う。それ以上に余裕があるなら、いろいろな活動に参加してみるのも良いかもしれない。時間は無いが、お金に少し余裕があるならば、会費なり寄付という形で貢献しても良いかと思う。人それぞれの対応の仕方があり、各人が自己満足できれば、それで良いのではないか。もちろん、自己満足だからといって、いい加減に活動を実施するという意味ではないのは、もちろんのことである。
 当会の取り組みは、ほんの小さな砂粒にすぎないと考える。しかし、我々がこれまで支援を行った30地区の人たちにとっては、何かが変わるきっかけになってくれたものと信じている。同時に、当会ばかりでなく、いろいろな分野で多くの人たちが活動を展開している。こうした、活動の積み重ねが、やがては社会や環境を変え、次の世代の子供たちに誇れる、社会や環境をつくり出していけるのではないだろうか。

〈連絡先〉
〒631-8505 奈良市中町3327−204
近畿大学農学部「水と大地と緑の会」事務局
サイト http://www1.neweb.ne.jp/wb/page2050/

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