グリーンベルト運動―ケニアで3万人が3000万本植林
ノーベル平和賞にマータイさん


ワンガリ・マータイ(Wangari Maathai)
1971年、ナイロビ大学で博士号取得。2002年12月、ケニアで数十年ぶりに行われた自由選挙で緑の党員として国会議員に選出され、03年1月に副環境相。本年10月8日、ノーベル平和賞を受賞。

―グリーンベルト運動への取り組みから得られた経験を、政府のなかでどのように活かしていますか。
ワンガリ・マータイ:あまりにも多くの森林監督官が不正を働き、森林を破壊していました。そこで、私たちが取り組んできたもっとも重要なことのひとつは、一般の人々が苗木の生産者になり、植林をして、それを育てるという、いってみれば「使命感のある市民森林監督官」になるのを支援したことです。森林破壊は土壌侵食や干ばつにつながります。政府は森林を守り、植林をして、緑を増やすべきです。環境ガヴァナンスは、環境のためのみでなく、栄養不足や貧困から人々を守ることなのです。つまり、「適切に管理された環境が、どれだけ生活の質の高さを持続する助けになるか」を、理解してもらおうというのが活動の主眼でした。
 植樹キャンペーンはこうした姿勢から生まれたのです。環境を救うための行動を起こすだけでなく、政府を変えていく市民としての責任を実践する運動を立ち上げました。
 現在も千本単位の苗木生産を続けていくため、グリーンベルト運動に携わっています。環境自然資源野生生物省(環境省)がこれらの苗木を買い上げ、さらに市民がそれを育て、成木をまた政府が買い上げればよいのです。そうなれば百万本単位になり、農村地域で多くの雇用が創出されるでしょう。結果として、貧しい人々に収入源が確保され、人々はそのために働くはずです。

―人口や開発の圧力があっても、植林は本当に可能ですか。
マータイ:やればできます。人口圧力は高いのですが、水と肥沃な土壌、森に覆われた山々のある地域(国土の1/3)に集中しています。残りの2/3の土地があるわけですから、それをもっと活用すべきです。私は生長が早く商業的に利用可能で、今までは山岳地帯に植えられていた外来種の樹木を、こうした地域に造林するよう提言しています。山間部での植林では逆に外来種を減らし、在来種を増やすようにしなければなりません。集水地域や動植物の多様性も保護していきたいからです。過去80年ほどにわたって、外来種の樹木を林業用に植林するために、自生林が伐採されてきました。これは、改めるべきことなのです。

―「汚職」と「野生生物と人間との土地をめぐる摩擦」には、どのように対処なさっていますか。グリーンベルト運動への取り組みでは、これらの問題が焦点となっていましたが。
マータイ:まず、先にも述べたように、不正の多い森林監督官を全員引き揚げさせました。誰を残して誰を解任するかの判断を下すために、改めて事情聴取を行っています。森林管理に一般市民を参加させることはとても重要です。なぜなら、彼らは森林を国民の財産ではなく、政府の財産とみなすよう仕向けられてきたからです。森林監督官たちは、市民が見ている前で森林を破壊できました。市民が警鐘を鳴らすことはなく、その役目は私たちのような少数の組織に委ねられました。けれども、地域レベルの汚職撲滅運動は参加者が多いほど効果が上がるものなのです。
 汚職と戦っている、もうひとつの分野は野生生物部門です。ここでの最大の問題は密猟ですが、野生生物との対立も抱えています。野生生物には植物が必要で、動物たちは食料を探して農場にやってくる、すると人間が苦情を訴える、といった具合です。この問題に関しては議会で、野生生物によって家畜または財産を失ったり、負傷したりした人への補償を義務付ける法律を制定します。ただし補償はしても、「動物に生息地を与えて対立を緩和するには、森林に在来の植生を回復させなければならない」という主張に変わりはありません。

―あなたは、ご自身をケニアの、あるいは世界の女性の役割のモデルであると思われますか。
マータイ:多くの女性は、私が選挙に勝ったという事実に勇気づけられたようです。議員に当選したのではなく、任命されたのであれば、状況は違っていたかもしれません。おそらく「ああ、どこかの男性が、あの女性にポストを与える決断を下したんだ」と思われたでしょう。私は普通の女性の代表で、家柄によって地位を得たわけではありません。

―いつか、大統領に立候補なさるおつもりはありませんか。
マータイ:それは、現時点ではまったく考えていません。私が政府に影響を及ぼせることを確かめるのが今の関心事で、将来のことは本当にわかりません。活力にあふれた若い人材が、男性も女性もたくさん出てきていますから。
(ワールドウォッチ誌 Vol.17,No.3より)

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