2004年国際コメ年

−短期的調整から中期的増産で自給率80%ラインを−
中国の食糧安保とコメ戦略

農林中金総合研究所 副主任研究員
阮蔚;リャン ウェイ

中国のもっとも重要な食糧であるコメ

 

 コメは、世界半分以上の人口の主食になっている、もっとも重要な食糧である。世界の食糧安全保障体制におけるコメのこの重要性を強調するために、国連が2004年を「国際コメ年」に指定している。
 同様に、コメは中国の食糧安保体制においても、もっとも重要な地位を占めている。まず、中国のコメ生産状況をみると、これまで三十数年間、食糧作付面積に占めるコメの割合は27〜30%の間で変動はしているが、つねにトップの座を占めている(図1↓)。

 食糧総生産量に占めるコメの割合も、90年代初頭まで40%以上を占めていた。90年代から徐々に低下しているが、2003年でも38.5%と2位のトウモロコシより11.6 %も多い(図2↓)。

その単収は、80年代前半では5トン/ha台、90年代半ばでは6t/ha台に達した(図3↓)。

 主産地は18の省・自治区になるが、大きく分けると東北三省を中心とする北方産地と長江から南の南方産地になる。作付面積と生産量をみると、南方産地は90%前後、北方産地は10%前後と、明らかに南の地域に集中している。これは、中国の水資源が長江から南に集中していることと密接に関わる。
 また、コメは中国でもっとも消費されている食糧である。その生産量の85%以上が直接消費されており、残りは加工、飼料、種子に回されている。 
 先の18の主産地では、コメがそのまま主食となっているが、その人口は中国総人口の65%に相当する8億人以上となる。なお、中国全体の近年の年間消費量は、精米で約1億2000万トン(籾重換算で約1億7000万トン)となっている。

近年のコメの競争力の低下
 ここでは、アメリカ農務省経済研究局(ERS/USDA)の研究員と中国農業科学院の研究者がDRCC方式によって計算したデータを参考にする。その結果をみると、中国の穀物は90年代半ば頃から比較劣位化しているか、比較優位を失いつつある。コメは1998年でも0.84とまだ若干の比較優位をもつ(表1↓)。ちなみに、大豆、菜種、綿花はトウモロコシとほとんど同じ時期に比較劣位化している。逆に、豚肉、牛肉、ブロイラー、リンゴなどは依然として強い比較優位をもっている。

表1 中国主要農産物の国内資源コスト係数
  1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998
豚肉 0.55 0.41 0.45 0.39 0.42 0.53 0.61 0.63 0.45
牛肉 0.37 0.52 0.32 0.30 0.39 0.24 0.21 0.24 0.39
ブロイラー 0.57 0.59 0.76 0.51 0.53 0.49 0.55 0.61 0.36
小麦 0.69 0.75 0.76 1.20 1.27 1.28 1.10 1.18 1.07
コメ 0.31 0.31 0.22 0.28 0.42 0.47 0.70 0.88 0.84
トウモロコシ 0.46 0.36 0.51 0.49 0.62 0.98 1.09 1.17 1.20
大豆 0.52 0.60 0.61 0.63 0.53 1.03 1.00 1.10 1.03
菜種 0.90 0.50 0.73 0.85 0.81 0.88 1.04 1.05 1.13
綿花 0.73 0.74 0.70 0.82 0.79 0.82 1.05 1.02 1.07
砂糖原料 0.16 0.13 0.14 0.14 0.09 0.13 0.14 0.13 0.15
タバコ 0.25 0.20 0.18 0.22 0.36 0.37 0.30 0.29 0.33
リンゴ 0.15 0.14 0.10 0.07 0.25 0.22 0.26 0.23 0.18
出所:Francis C.Tuan, ERS/USDA“Comparative Advantage and Trade Competitiveness of Major Agricultural Products in China”.

※DRCC方式:一国の農業生産の国際市場における競争力の理論的指標として、よく使われている。国内資源コスト係数(Domestic Resource Costs Coefficients)の略で、DRCCが1ならば、ある農産物1単位の生産コストが国際平均であることを表す。1より大きければ国際競争力がないこと(比較劣位)を、1より小さいければ国際競争力があること(比較優位)を表す

生産量も作付面積も減少傾向

 中国全体の食糧生産量は98年の5億トンがピークで、99年から4年連続で減産しており、01〜03年にかけては4億5000万〜4億3000万トンまで低下した(図4↓)。

そのうち、小麦は03年に8840万トンと前年比2.1%の減産にとどまった。98年から減産を続けているコメは1億6580万トンで同5.0%減、97年対比で17.4%減となっている。
 こうした食糧の減産は、主に作付面積の減少に由来する。食糧全体の作付面積は97年に約1億1300万haあったが、99年から減少に転じ、03年には9941万ha(対97年比12%減)と、食糧作付面積の警戒ラインである1億haを割り込んでしまった。コメ作付面積も97年の3177万haから、02年の2820万haへと11.2%の減となった。この面積の減少の主な原因は、食糧生産構造の調整、耕地の農外転用増、食糧価格の低迷などである。

低品質とコメ生産構造の調整
 政府は1990年代末から、耕地と水が少ないという資源制約や、高品質の食糧を求める消費者のニーズなどを視野に入れて、食糧生産構造を調整するようになった。こうした政策の下で、食糧生産に適していない農地での作付を止める、低品質の食糧の生産を止めるといった、自主的減反が進んだ。
 たとえば食味から、次のように分析できる。『中国農業年鑑』によると、98〜02年の間、早稲では780万haから587万haへと約25%減少した。一方、中稲と晩稲は緩やかな減少にとどまっている。これは早稲は生産量は多いが、味が中稲や晩稲に劣っているため、消費者から敬遠され、価格も低迷しているためである。
 そもそも、中国では、20世紀のコメの品種開発や耕作技術の改良などが、ほぼ増産だけを求めてきたため、食味のよい品種の開発・生産は遅れている。2000年、農業部のコメおよびコメ製品品質監督検査測定センターは、全国27の省・自治区から集めたコメ935品種の1109サンプルに対して、「GB/T17891-1999良質コメ」という国家基準にしたがって、品質の測定を行った。結果、「良質」はサンプル数の10.6%しかなかった。作付面積をみると、2000年の良質米は1200万haとコメ全作付面積の約40%しかなかった。

耕地の農外転用が増加
 国土資源部と農業部の統計によると、耕地面積は96年に1億3000万haあったが、03年に1億2300haへと、700万ha弱減少した(ちなみに02年の日本の耕地面積は476万ha)。こうした耕地の急減は中国の各種開発区の急増による。03年まで、開発区は6015か所あり、その総面積は3万5400km2(35億4000万ha)以上になり、海南省の面積を超え、また中国の666都市の全面積(3万1000km2)よりも多い 。

価格低迷によるコメ作りの収益減
 国内の食糧消費者価格は97年から下落の一途をたどって、02年の食糧価格は96年対比で約30%も低下した。こうした、穀物をはじめとする農産物価格の引き続く低下は、農家の収益を大幅に減らした。コメ作りのムー当たりの純収益(1ムーは約667m2、1元は15円前後)は、96〜99年の間に295.35元、212.88元、212.75元、140.47元(95年対比で60%減)と急速に低下している。当然に農家の生産意欲は低減し、食糧の減産に直接つながった。これが、03年末の食糧価格上昇の主因となった。

防災能力の弱さ 
 防災能力が弱いという問題も大きい。中国はそもそも干ばつや水害、台風、病虫害などの自然災害の多い国である。近年、とりわけ干ばつの被害が拡大傾向にある。
 中国の灌漑施設は人民公社時代の60〜70年代に造られたものが多く、80年代半ば以降、その整備が怠られた傾向がある。もともと、中国の1人当たりの水資源量は世界平均の1/4弱と世界の13の水不足国の一つとされている。90年代では、灌漑用水は年間300億トン不足しており、工業・都市生活用水が年間約58億トン不足しているといわれる。水、とくに農業用水が今後さらに不足するとみられるが、この水不足の状況は、21世紀の中国の食糧生産を制約する最大の要因となるであろう。

高水準の自給維持の必要性
 近年、中国の穀物需要は約4億5000万トン前後となっているが、世界の穀物貿易量は2億〜2億3000万トン前後にすぎない。中国はその全量を輸入しても、国内需要量の約半分しか満たせない。さらに2030年に約16億という人口のピークを迎えるとき、穀物需要は6億トンになると予測される。こうした、膨大な穀物は世界のどこの国からも、調達不可能であろう。もちろん、水も耕地も不足しているという資源制約から、中長期的に国際市場からの調達が増えると予測されている。しかし、いくら輸入が増えても、人口大国の宿命として、およそ80%ラインから上の穀物自給率を守らざるを得ない。

単収増加につながる技術開発
 中長期的にみて、中国は耕地増がないが、耕地減の可能性が高いという状況の下で、食糧自給の維持は単収の更なる増加に頼るしかない。政府は50年代から単収増加に多大な努力を払ってきたが、そのスタンスは今日も変わっていない。とくに、コメは食糧安保において特殊な地位を占めているため、その品種開発や栽培方法の改良などは、他の作物に比べて優先されている。
 コメの多収量品種の開発に関しては、50年代後半と70年代前半に重要な進展が見られた。ハイブリッド米は、「ハイブリッド米の父」と称される袁隆平によって、64年から10年間をかけて、開発された多収量品種である。76年から、政府はその普及に力を入れ、80年代ではコメ作付面積の約半分を占めるようになった。76年から03年まで、ハイブリッド米の作付面積は累積で約3億haになり、合計4億トン以上のコメ増産をもたらしている。近年、ハイブリッド米の作付面積はコメ作付総面積の半分に相当する約1400万haに安定しており、コメ総生産量の約60%を占めている。
 それにより、コメの単収は50年代の2トン/ha未満から70年代半ばの3.7トン/haへ、さらに20世紀末の6トン/haまで上がり、世界のトップ水準に達した。こうしたコメの単収水準とその伸び率は、中国の農産物のなかでもっとも高い。コメ作付面積は、75年の3573万haから、02年の2820万haへと21%も減少したが、生産量は1億2556万トンから、1億7454万トンへと39%も上昇した。この作付面積減、生産増は同時期の単収が3514kg/haから、6189kg/haへと76%も増加したためである。
 このハイブリッド米について、10年前から、国連食糧農業機関(FAO)、国際稲研究所(IRRI)、国連開発計画(UNDP)とアジア開発銀行は、世界への普及に力を入れてきた。現在、インドネシア、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、バングラデシュ、インドなど、中国以外のアジア諸国でのハイブリッド米の作付面積は約100万haになっており、世界の食糧増産に貢献している 。

「スーパー米」プログラムの研究開発
 さらなる単収増加と品質向上をめざして、IRRIはコメの超高収量「スーパー米」プログラムを呼びかけた。それに応じて、中国は96年から「スーパー米」プログラムを立ち上げ、第一段階目標を2000年にムー当たり700kg(10.5トン/ha)、第二段階目標を05年に同800kg(12トン/ha)と設定した。このプログラムの実施に当たって、先の「ハイブリッド米の父」と称される袁隆平をはじめ、全国20以上の研究所から多数の専門家が参入している。
 現在、第一段階目標の10.5トン/ha水準では、すでに大規模に作付できるようになっている。第二段階目標の達成も近づいている。03年までに単収12トン/haのスーパー米は9品種開発された。03年にスーパー米の作付面積は180万haになり、400万トンの増産をもたらした。農業部は、05年からスーパー米の全土での作付拡大を進めようとしている 。
 現在の約1400万haというハイブリッド米の作付地を全てスーパー米に転換すれば、2250kg/ha、合計3000万トン以上の増産となる。これは約7000万人を養う量である。
 また、バイオテクノロジーによるコメの病害虫防除に関する研究が進められている。これは混合栽培や、水田での養魚など、生物の多様性や病原の多様性および気候の多様性などを生かして水田の生態バランスを維持し、持続的防除を目指すものである。農薬使用量と生産費が削減され、収益性を高め、環境への負荷も軽減される。こうした研究は主として四川省と雲南省で行われており、97年からの実験栽培面積は累計で160万haになっている。
 遺伝子組み換え技術を生かしての研究開発も行われている。また、耐干性や、やせた土壌に強い品種などの開発も併せて進められている。
 こうした単収増加の取り組みと耕地保護措置などを強化すれば、中期的には中国はコメ生産の維持が可能だと見られる。

《参考文献》
『加入世貿組織対我国農業影響及対策研究』農業部軟科学委員会課題組、中国農業出版社、2002年、p.48
「第十期全国人民代表大会常務委員会第十回会議審読三農報告」新華網、2004/6/24
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「我国雑交水稲成解決世界糧食難題『魔杖』」、中国農業科技信息網、2004/04/16
「我国実現超級稲計画将大幅度提高水稲単産」新華網、2004/04/19
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「中外専家記念中国雑交水稲研究40年」中国中央テレビ、2004/09/10
「以超級稲為主線帯動優質水稲産業的発展」農業部、2004/09/02
「我国実現超級稲計画将大幅度提高水稲単産」新華網、2004/04/19
「国際水稲専家高度評価中国水稲研究成就」中国農業科技信息網、2004/07/21
「我国転基因水稲具備産業化基礎」新華網、2004/09/08

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