アジアに広がる支援と交流のネットワーク
貧しい人たちに安全な水を

社団法人 アジア協会アジア友の会

 社団法人アジア協会アジア友の会(JAFS)は、1979年に「アジアに井戸を贈る運動」としてスタートした、市民ボランティアを主体とする民間支援団体です。設立以来25年間、途上国の貧困問題に対して、安全な飲料水の供給を軸とした支援を積み重ねてきましたが、それとともに、アジア各国における現地提携団体のネットワークを重視し、多国間交流による支援活動の充実を図ってきました。現在、インドをはじめとするアジア18か国の39の提携団体が、ヴィジョンを共有し、さまざまな情報交換を行いながら、井戸建設、学校・病院建設、植林、農業トレーニング、マイクロファイナンスなど、それぞれの地域の実情に即した開発支援をしています。

まず、もっとも貧しい人たちを
 JAFSの活動は、もっとも貧しく、過酷な条件に暮らす、生活を向上させる力も手段も持たない人たちを対象としてきました。生きていく上で必要不可欠な水を、遠くの川や池まで汲みに行かなければならない人々、そうして手に入れた水も安全ではなく、つねに病気や死の不安を身近に感じている人々―未だ世界に12億もいるといわれている、そうした人々に井戸を贈ることで、人間として、最低限保障されるべき生活をしてもらいたいという、素朴な願いが私たちの運動の始まりでした。
 1980年に第一号の井戸をインド中部マハラシュトラ州のググリー村に贈り、これまでにインドのほかに、フィリピン、カンボジア、タイなどの12か国に、1021基(2004年3月現在)の井戸を、多くの方々の協力を得て建設してきました。99年には、フィリピンのパナイ島パンダン町に、5年間の工事の末、全長10キロメートルに及ぶ飲料水パイプラインを完成させ、塩水の被害に苦しんでいた約1万8000人の町民に、地元水道管理組合の円滑な管理運営の下、衛生的な水道水を供給できるようになりました。これまでのJAFSの井戸やパイプライン建設による受益者は、100万人以上と目されています。

井戸、それは生活改善の起点


左から2人目が当時のヴィシュアス君

 井戸を贈ること、すなわち安全な水への容易なアクセスは、それ自体が目的ではありますが、同時にさまざまな波及効果を生み出しました。「安全な水」は病気を減らし、村や町全体に活気を呼ぶとともに、井戸を維持していくためのコミュニティの結束を強めることにもなりました。また、水汲みの重労働から解放され、時間的余裕のできた女性の労働意欲を向上させ、子供たちの学習意欲を高めることにもなり、結果的にコミュニティ全体の生活改善に対する意識を向上させることになりました。JAFSは、井戸ができたことによる、これらの意識の変化に応える形で、学校建設や女性向けの職業訓練、あるいは母子保健衛生についての教育など、人々が生きる力をつけるための支援にも着手するようになりました。
 このような支援を進めるうえで、私たちが大切にしてきたものは、あくまで現地の人たちの考えやペースを尊重し、「現地の人たちの手による」生活改善を目指すということでした。受け継がれてきた文化や伝統と、小規模ながらも新しい開発という異文化との兼ね合いは、現地の人々にしかわからないものだと思うからです。
 そこでJAFSと現地の人々のパイプ役となるのが、アジア各地で活動している現地提携団体です。現地提携団体のスタッフは村に入り、調査や話し合いを繰り返し、援助の方向や方法を考え、行政やコミュニティとの調整にあたり、現地の材料や労働力を活かし、プロジェクト終了後も、現地の人々による維持管理が可能なシステムをつくっていきます。このような、現地主義による支援によって、JAFSは井戸のほかにも、トイレ1471基、学校59か所、病院・診療所4か所を建設してきました。


真中が現在のヴィシュアスさん
その左はJAFSを創設した事務局長の村上公彦

 マハラシュトラ州の貧しい水汲み少年だったヴィシュアス君は、JAFSの井戸ができたことによって、長時間の水汲みから解放され、勉学に励み、現在は大学で教鞭を執っています。「地元の発展のために、可能な限りのことはしたい」と言う、彼のような人材が育ち、今後、地域の若いリーダーとして、貧しさから離陸しかけた故郷を自立へと導いてくれることが、私たちの一つの大きな願いです。

農村社会の自立を目指して
 JAFSの主な支援先である途上国の農村が自立するためには、井戸や学校、病院といった人間として基本的な生活を保障する施設が整うだけでは十分ではなく、農民が農業なり副業なりで、安定した生活を営むことが必要です。そのために、インドやネパールで農業トレーニングセンターを建設し、雨水を有効活用したり、農薬や化学肥料をできるだけ使わないような、持続可能で環境に優しい農業技術の指導を始めています。
 また、農業組合を組織し、高収穫が期待できる種の貸付けなども行っています。一方、カンボジアでは、収量の少ない稲作農業を補うための副業を支援する目的で、無担保のマイクロファイナンスを行い、養鶏や養豚、手工芸品作り、各種仲買などを始める手助けをしています。
 いずれのプロジェクトも、モノをあげるのではなく、貧しい人たちが自らの力を最大限発揮する機会を提供するための支援で、彼らが自信をつけ、自らの力で社会を変えていくことを目標としています。グローバル化が進む現在、途上国の貧しい農村部は、往々にして自国の経済発展から取り残され、人々は昔ながらの伝承文化のなかで暮らしています。彼らが、自ら力をつけ、自らの文化を守りながら自立していくこと、それがJAFSの目指すアジアの農村社会の姿です。
 このような支援におけるヴィジョンや、支援プロジェクトの管理運営方法、コミュニティに与える影響などを、現地提携団体間で共有するために、1983年以来、毎年、話し合いの場をもっています。90年からは「アジア国際ネットワークセミナー」という名称の下、日本およびアジアにおける協力団体や、地方行政関係の人々も広く参加できるような形をとり、毎年、テーマを定めて、各国持ち回りで会議を開いています。このような意思疎通の積み重ねにより、提携団体のスタッフが相互に切磋琢磨し、プロジェクトの質を高めていけると共に、アジアに棲む者どうしの、利害を超えた友情と信頼が培われ、支援や交流がスムーズに進むようになりました。

アジアの水源の森ネットワーク
 JAFSでは、活動の中心である水供給事業の一環として、地球環境や水資源の安定に欠かせない森林の再生にも取り組んできました。一昨年からは、森林の水源涵養機能に着目した “アジアに水源の森をつくろう”運動を展開し、現地提携団体のネットワークを生かして、アジア各国の水源地への植林を始めています。アジアでは、燃料の薪にするための伐採や、生活のための不法伐採および焼畑が多く見られ、貧困問題とからむ環境問題の難しさを思い知らされます。JAFSは、貧しい人たちの利益となるようなアグロフォレストリーなどの手法も取り入れながら、水と緑のつながりを広く知ってもらおうと、現地の人々と木を植え、育て、20年後の豊かな森を夢見ています。   

(文責 広報担当 長谷川雅子)
〈連絡先〉
〒550-0002 大阪市西区江戸堀1−2−16 山下ビル4F
TEL 06-6444-0587 FAX06-6444-0581
E-mail asia@jafs.or.jp
サイト http://www. jafs.or.jp

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