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ガーナの精米業とコメの品質

独立行政法人
国際農林水産業研究センター
国際情報部
古家 淳

1. ガーナのコメ生産と輸入:急増するコメ輸入
 ガーナでは近年コメの消費量の増加が著しい。これは食生活の近代化により、フーフーなどの伝統食から調理に時間のかからないピラフなどを消費者が好むようになったためである。フーフーは、キャッサバやヤムイモと食用バナナ(プランテイン)を用いて作られる餅に似た食べ物であり、調理するまでには多くの労力がかかる。このような食生活の変化を反映して、1人当たりコメ消費量は、1980年代の10年間において年間平均7.3kgであったが、1990年代においては13.2kgへ増加した。
 このような急激なコメ消費の拡大は、コメ生産の拡大を導いたが、国内生産の増加が消費の増加に追いつかず、不足した供給量を世界価格が高騰した1990年代半ばを除いて輸入量の増加により賄うこととなった。その結果、図1のように、1980年代では年間平均コメ輸入量は籾米ベースで8万9000トンであったが、1990年代には20万5000トンへと大きく膨らんだ。さらに近年の輸入増加はすさまじく、2001年では57万6000トンの輸入となっている。なお、輸入米の4割はアメリカ産である。このような主食となりつつあるコメの輸入量急増は、大幅な貿易赤字の一因となり、政府は、このマクロ経済上の問題を緩和するために輸入量を3割削減し、同量の生産増加の実現を目標としている。
 西アフリカ諸国において、特にガーナで顕著に見られるコメ輸入の急増は、コメ生産拡大の遅れがその一因であるが、それではなぜ生産が伸びないのであろうか。その理由を、生産財の問題から考えてみよう。稲作には、水供給が潤沢な低湿地が適しているが、その未利用地は多く残されている。領主を地主とする伝統的な土地所有制度や労働力の不足は、その利用を阻む大きな要因と考えられる。また、低湿地における住血吸虫の宿主やマラリア蚊の存在も、阻害要因の一つである。
 一方、作付面積拡大を阻むこれらの要因は、他作物との競合の上での相対的なものと言え、その価格や収益性の差を考える必要がある。インフレーションの影響を除いたコメの生産者価格は、この10年間に大きな変化が見られず、生産者価格の低迷も、生産拡大を阻害していると言えよう。
 それでは、なぜコメ生産者価格が消費の拡大にもかかわらず低いままなのであろうか。ここでは、消費者に手渡される精米の品質とその輸入米との競合について焦点を当て、価格低迷の原因を考えてみたい。

  
脱穀する農民

フーフーを作る農民
拡大図が御覧になれます
図1 ガーナのコメ生産量と輸入量

精米所で取引を待つ小売業者と商人

2. ガーナの精米業:無利子で農民へ融資する精米業者
 刈り取られた稲は脱穀されて、その籾米は精米の後に小売業者へ渡される。もし、この精米プロセスの技術が輸出国のそれよりも劣るならば、精米の品質が輸入米よりも低くなる。また、精米所の経済的な効率が低いならば、精米に要する費用が高くなり、国産米に価格面での競争力が備わらないことになる。このように、精米業はコメの価格形成の大きな一翼を担っている。精米業の稼働率を基準とする効率性を検討するために、内陸に位置する古都クマシ市周辺において、ランダムに選択された63の精米業者を対象に、精米所所有者の属性や、労働時間、賃金、精米手数料、精米処理量などを2002年に調査した。


 精米所の設立は近年特に多く、調査の範囲では1997年以降28か所誕生している。これは精米業が安定的かつ高収益の事業と認められたためである。さらに、政府の国産米増産の奨励もこの傾向に寄与していると考えられる。精米業者は、日本製や中国製の大型精米機を用いる業者と、国産あるいはインド製の小型精米機を用いる業者に二分される。前者の多くはクマシ市中心部に立地している。
 この調査において、一部の精米業者が、籾米の搬入を条件に農民へ融資を行っていることを見いだした。特筆すべきは、その多くの精米業者が無利子で融資を行っていることである。このような親しい経済主体間の信用に関する取引をインターリンケージと呼び、市場の発展していない途上国において商人と農民の間などによく見られる。この場合、商人は事前に取り決められた割引価格で作物の売り渡しを農民に約束させ、その代わりに融資を行う。このときの利子率は100%以上のきわめて高い値に相当するが、ここでの精米業者と農民の関係は、その精米所に農民が籾米を運ぶだけであり他に何も強制力はなく、また無利子である。このような精米業者の籾米集荷に関する行動は、精米所経営にどのような意味を持つのであろうか。
 調査対象の63精米業者の中で農民へ融資を行っていたのは29の精米業者であり、23業者は無利子で融資を行っていた。ここで、農民へ融資を行っている精米業者がどのような特質を持っているのか見てみたい。表1は農家への融資の有無と利潤などの経済変数を示している。なお、2精米業者を異常値として除いて計算した。経済変数の平均値を比較すると、農家へ融資を行っている精米業者は、可変利潤(機械購入費などの固定費用を除いて計算した利潤)、精米生産量が大きく、投入した労働時間が長いと言える。すなわち、大きな縦型精米機を所有する精米業者の多くが、農民へ融資を行っているのである。
 融資を条件に農民に籾米の搬入を約束させれば、精米機の利用効率は上昇するが、農民に対する融資の有無が、稼働率や費用をどのように変化させるのかシミュレーションを行った(表2)。分析内容の詳細は参考文献Furuya & Sakuraiを参照されたい。表2に示すように、農民へ融資を行えば精米生産量あたりの費用が減少するとともに精米機の稼働率が24%上昇する。このような経済的効果を考えて、大きな機械を所有する精米業者は、農民へ利子も取らずに融資を行って籾米を集めるのである。次に、このように生産された国産の精米をコメ小売業者がどのように評価しているのか見てみたい。

3. ガーナ国産米と輸入米の品質と価格:良食味ながら異物混入多い国産米
 ガーナでは、農民が籾米の精米化を精米業者へ委託し、その精米を精米所において小売業者や商人へ販売する。多くの小売業者は、マーケットで輸入米とともに国産米を消費者に販売するが、そこで国産米の輸入米に対する位置づけが明らかとなる。国産米と輸入米が小売業者にとってどのような差を持つのか、任意に選択した76のコメ小売業者の調査結果から見てみたい。
 まず、平均小売価格であるが、国産米は最も安価なFulaの2500cedi/kg(1ドル8600cedi)から最も高価なAshanti(赤米)の3200cedi/kgまで大きな差は見られない。一方、輸入米の価格差は非常に大きく、1) 8000cedi/kg前後のタイ高級種、2) 4000〜5000cedi/kgのアメリカおよびオーストラリア産米、3) 3000から3500cedi/kgのタイ中級種、ベトナムおよび中国産米、4) 2800cedi/kg前後のインド産米の4群に大きく分けることができる。国産米と価格が近接しているのは、後二者である。
 次に、小売業者の評価に基づく品質について見てみたい。調査対象の小売業者の主観をもとに、各銘柄の食味、香り、膨張性、粘性、石などの異物混入の程度、白色性を4段階に評価を行った。なお、点数が高いほど食味、香りが良く、膨張性、粘性、白色性が高く、異物混入の程度が低い。図2には国産米のうち取引の多かったAshanti(赤米)とGwama、図3には食味や香りが国産米に近接しているオーストラリア産米のRailwayの品質特性に関するレーダーチャートを示した。オーストラリア産米の平均価格は、4000cedi/kgであり、Ashanti(赤米)に比べて800cedi/kg高い。図を比較すると国産米の異物混入の程度が大きく、この特性が価格差に反映していると言えよう。なお、砕米率は、エンゲルバーグ型で精米したものが縦型のものに比べて非常に高いが、明確な価格差は存在しない。

 


図2 国産米の評価 (Ashanti《赤米》とGwama)

図3 輸入米の評価(オーストラリア産米(Railway))

 最後に小売価格と品質の関係を見てみよう。図4と図5は、国産、輸入あわせて58銘柄の食味、異物混入の程度と小売価格の関係を示している。図4は、食味が良いほど価格が高いことを示している。香りについてもほぼ同様の関係が見られる。なお、膨張性、粘性、白色性と価格に明確な関係は見られない。図5は、異物の混入が多少でも見られると、小売価格が3500cedi/kgを超えないことを示し、その横一線に並んでいる銘柄のほとんどは国産米である。図2と図3に示した品質評価を考えると、Ashantiなどの良食味な国産銘柄も、異物が混入しているために大きく価格を下げていると言えよう。

図4 食味と小売価格の関係

図5 異物混入の程度と小売価格の関係

4. ガーナのコメ生産の拡大のために
 Ashantiなどのガーナ在来のコメ銘柄の数種は、良質な食味や香り、高い膨張性や粘りを持つものの、異物が多く混入しているために大きく値を下げている。石などの混入する脱穀の過程を見直し、さらに精米所において異物を除去する装置をつけた精度の高い精米機の導入を図れば、国産米の価格は高く上昇するであろう。もし小売価格が上昇すれば、生産者価格も上昇し、さらなるコメ供給の拡大を導くことは明らかである。
 現在、コメの輸入関税率はIMFとの合意の下に25%であり、さらに2005年までに13.6%から10%まで引き下げられる模様である。しかしながら、WTOの規則の下では99%の関税率をかけることが可能である。IMFは貧困問題解消の一環として関税率引き下げを勧告しているが、基幹産業が農業であるガーナにとってさらなる国境保護措置緩和は、大量の輸入農産物の流入による生産者価格低下を招き、逆に農村の貧困問題を引き起こす可能性がある。農産物の国境保護措置を現状に留めた上で、脱穀、精米などのポストハーベスト段階に投資が振り向けられるような政策を望みたい。


マーケットでコメを売る小売業者

《参考文献》Furuya, Jun and Takeshi Sakurai “Interlinkage in the Rice Market of Ghana: Money-lending Millers Enhance Efficiency” Contributed paper selected for presentation at the 25th International Conference of Agricultural Economists, 2003.
http://www.iaae-agecon.org/conf/ durban_papers/papers/088.pdf.

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