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私の故郷―内蒙古自治区

京都大学大学院農学研究科 徐 永強(シュ ヨンキャン)

 私の故郷は中国内蒙古自治区です。内蒙古自治区は日本人はもちろん、中国人でも知らない人が少なくありません。本誌に投稿の機会を頂いたので、私の故郷内蒙古自治区と内蒙古自治区の水資源現状、そして私の研究を紹介したいと思います。
 内蒙古自治区は中国5つの自治区の1つで、1947年5月1日に成立されました。内蒙古自治区は中国の北部に位置し、北はモンゴル共和国とロシアに接しています。区総面積約110万km2で、東北から西南に伸びています。人口は約2178万人で、人口自然増加率は0.97%になっています。
 内蒙古自治区は中国全土の草原の73.3%、森林の15.8%を有して、観光面では草原風景や原生林、さまざまな民族文化などが知られています。地勢的には標高約1000mの起伏が緩やかな高原です。気候は温帯気候で、冬は寒く乾燥していて、夏は涼しい気候です。平均気温は1月が零下30〜零下10℃、7月が19〜26℃で、東北から西南にかけて徐々に高くなっていきます。主要産業は農畜産品加工業、エネルギー産業などで、近年、経済発展に伴って水資源の制約が産業に影響を与え、問題となっています。
 内蒙古自治区の水資源総量は全国水資源総量の1.86%で、34省、市、自治区のなかで第16位になっています。区内平均降水量は271mmで全国年平均降水量の648mmと比べると、半分にも及びません。そして、区民1人あたりの水資源量と単位面積あたりの水資源量はそれぞれ全国平均値の85%と39%であり、全国の下から2番目の貧水地区です。
 区内水資源分布は以下の特徴があるため、その不足問題は深刻です。
1. 空間的分布の不均衡
 内蒙古自治区の水資源は主に降水に依存しています。地理的影響によって年間降水量の区内分布は非常に不均衡で、その差は50〜450mmにもなります。全体的な分布は、東北から西南にかけて、徐々に減少する傾向にあります。降水量分布が不均衡なために、地表水と地下水の分布も不均衡で、同じ分布が見られます。
2. 水資源分布と人口・耕地分布の不一致
 たとえば、額尓古納河(ウアグナハア)と嫩江(ネェンジャン)流域では、それぞれ人口は区全体の5.9%、13.3%で、耕地面積は同じく5.5%、18.4%ですが水資源量は区全体の26.4%、38.2%を占めています。逆に遼河及び黄河流域では、それぞれ人口は区全体の31.3%、30.9%で、耕地面積は同じく29.5%、26.0%ですが水資源量はそれぞれ区全体の13.8%、10.6%しかない状況です。人口と耕地の増加に伴い、水資源問題が深刻化してきています。
3. 季節変化、経年変化の激しい降水
 内蒙古自治区では降水量と河川流量の年間、経年変化が激しく、降水は6〜9月に集中し、年間降水量の60〜80%になります。降水は大雨の場合が多く、雨水資源の開発と利用には困難が伴います。河川流量の変化が激しく、流水に土砂が多く含まれています。このことも、水資源の利用に影響を与えています。

 以上のような原因によって、内蒙古自治区での水資源利用は重要な課題となっており、研究が重ねられています。このままの経済成長が維持された場合、2010年の区用水量は安全率75%で、現在の用水量から46.6%増加すると予測されています。用水規制や新しい水資源を開発するといった対策を施さなければ、生活さえ保証されない状態になります。

 1999年の調査によれば農・牧畜業の用水は区総用水の94.5%に達しています。これは自治区が一年中乾燥しているので、農業と牧畜業が灌漑用水に強く依存しているためです。このような状況下で、水不足問題を解決するには、まず農業と牧畜業の用水を有効利用していくことが一番重要です。節水型の農業や牧畜業に転化し、水の利用率を高めること、そして、農作物の合理的配分と雨水利用などが必要になると思われます。
 こういった点に関する研究は日本では大変に発展していると思います。灌漑方法以外にも溜池や水路の建設でより効率的に水を利用することが重視され、小規模農業用溜池で雨期に雨水を溜め、乾期に灌漑用水として使われるのが一般的です。また、いくつかの溜池間を水路やパイプラインで結び、水の調整もできます。
 内蒙古自治区では、残念ながら、経済上の理由で灌漑システムはほとんど昔のままです。節水灌漑システムを利用している耕地面積は総灌漑面積の27.7%、総耕地面積の僅か7.4%です。そして、水路や川の整備もあまりできていません。これでは洪水時の雨水利用ができず、灌漑水の浪費になります。自治区農業用水効率は40%にも達していなく、先進国の70〜80%と大きな差があります。
 こうした現状は節水の余地があり、研究価値もあることを意味しています。限られた水資源を有効に利用することによって用水不足を緩和し、農・牧畜業を発展させることが重要と考えます。実は私の研究テーマもここにあります。


日本人学生と疑問点を話し合う除さん

 現在、私は京都大学大学院農学研究科の河地利彦先生がご担当されている水資源利用工学研究室に在籍し、飽和−不飽和浸透流問題の逆解析に関する研究を進めています。私の研究は、地下水流動や堤防浸透を飽和−不飽和浸透流モデルでシミュレーションし、このモデルに必要とされるパラメータを、水頭や流量の観測データから逆解析によって同定することです。この方法はアースダムの水理的最適設計にも適用することができます。内蒙古では地下水の過剰採取によって、地下水位低下や地下水汚染などが起こっています。今後、このような地下水変動が激しい地域で地盤浸透特性を把握し、地下水流動解析を行っていきたいと考えています。
 私は日本でたくさんのことを学び、私の故郷内蒙古自治区、さらには中国のために役立ちたいと思っています。

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