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ラオスの焼畑農業

京都大学農学研究科

斉藤和樹

 ラオスは社会主義国、内陸国、国土は日本の本州程度、メコン川が北から南に流れていて、人口はたったの500万人―この国の常識的なプロフィールである。しかし、私がラオスを一言で表現するなら、「もちゴメの国」。もちゴメを主食としている民族や地域はタイやベトナムなどにも見られるが、一部にすぎない。それが、ラオスでは一部の民族(高地ラオ、モン族など)を除いて、全土で主食となっている。もちろんこれは都市(都市といえる都市がないけれど)に行っても変わらない。そのもちゴメが、とにかくやみつきになるくらい、おいしい。 
 大半の日本の旅行者もおいしいと言って帰っていく。「とにかく、おいしいものが食べたい」という、グルメの多い日本で販売してみたら面白いと思う。唯一の欠点は腹持ちがよすぎることで、農家、スポーツ選手にとっては非常にありがたいものだか、ビジネスマン、家でごろごろしている主婦には向かない。ついつい食べ過ぎて、おなかいっぱいになり、眠くなってしまうし、太ってしまう(現に私の体重はラオスに来てから増加している)。
 ラオス人は、とにかくおコメをよく食べている。3食おコメが当たり前といった感じだ。1人当たりの年間消費量(精米)は171kg(日本では60kg)で、摂取カロリーに占める割合は70%(日本23%)!!

写真1 農家参加型研究手法で、農家にインタビューを行うラオス人研究者と農業普及員。

 1992年の資料によると総人口の83%が都市部以外に住み、そのうち66%は、自給自足の稲作を行っている。稲作は雨期灌漑稲作と乾期灌漑稲作(乾期用の灌漑設備のある水田は少なく、乾期作の収穫面積は雨期作の20%程度)と雨期天水稲作(天水;灌漑設備がなくイネに必要な水を降雨のみに頼る)の3タイプの水稲作、そして雨期天水陸稲栽培に分かれる。ラオス全土では水稲がイネの作付面積に占める割合は高い(75%、2000年)が、北部の県では陸稲の作付面積(57%)が水稲を上まわっている。陸稲栽培の収量、労働投入量、労働生産性は水稲作に比べ明らかに下まわっている。雨期灌漑稲作の単収もおよそ3トン/haで、日本の戦前くらいの値だろうか。陸稲栽培は主に焼畑農業下で行われている。私の研究はこの陸稲栽培に関するものである。

 私が住んでいるのは、陸稲の作付面積が全国で一番大きいルアンパバン県である。ルアンパバン市は北部の中心都市で、1995年には独自の伝統様式とフランス植民地時代のコロニアル様式がもっともよく保存されているとして、町全体が世界遺産に登録された、お寺が多い京都みたいな町。砂漠ならぬ、焼畑に囲まれたオアシスみたいな所で、観光客はとだえることがない。
 ラオスでは近年の人口増加(人口増加率2.5%)および政府の政策により、焼畑の休閑期間は著しく短くなっている。私の調査している農村でも、1〜2haくらいの畑を3つほど割り当てられている農家が大半で、作付期間が1年、休閑期間はわずか1年となっている。もちろん、この年数での焼畑農業は持続的であるとは考えにくく、今後の化学的な土壌劣化が懸念されている。この短い休閑期間は作付期間中の雑草発生量を増大させ、除草労働は150日/haとなっており、労働投入量の半分を占めている。雑草、土壌劣化以外の陸稲生産阻害要因には、ネズミによる害、干ばつ、虫害、土壌侵食などが上げられる。

 近年、若干インフラ整備がなされ、農村にも貨幣が浸透し、焼畑農業での換金作物の栽培が始まっている。栽培作物として上げられるのが、ハトムギ、ゴマ、ラッカセイといったものである。ハトムギは主に輸出用で、1990年代後半に栽培面積が広がり、2001年ルアンパバン県では陸稲、そして主に飼料用のトウモロコシに次ぐ栽培面積となっている。
 しかしながら、こうした換金作物は価格が変動しやすいために、陸稲の作付面積にはとうてい及ばない。その上、多くの焼畑民は自分の畑の土に関して良し悪しを区別しており、土の良いと思われる場所には主食となる陸稲を植え、悪い場所には換金作物を植える傾向があった。市場経済が導入され、貨幣が浸透している現在においても、依然として、陸稲が焼畑民にとって重要なものであることは変わらない。
 その他の現金収入源となるものとして、日本でも古くから和紙の原料として利用されているカジノキを紹介したい。カジノキはクワ科コウゾ属に属する落葉低木であり、ラオス北部に自生している。農家はこの内皮をはぎとり、乾燥させ、販売できる。これは製紙や服飾への繊維として利用される。それ以外の用途として、葉は飼い葉として、幹は薪として利用できる。また、管理も粗放的にでき、数年に渡って同一個体から収穫できる。以上のようなメリットがあり、カジノキ栽培がラオス北部で1990年代半ばから急速に広がっている。

写真2 道路から歩いて3時間以上の山奥に住むモン族の子ども。初めて見る外国人に驚きながらも、無邪気に近づいてくる。笑顔は希望で満ち溢れていて、一度見たら忘れられない。

 さて、最後に、私が実際、何の研究をしているかというと、既存の焼畑陸稲栽培における土壌・植物の養分の動態を調べながら、前述のカジノキ、キマメ(豆科の木本)、スタイロ(豆科の牧草)等の植物を休閑期間に生育させ、次の作付け期間における雑草抑制、土壌改善およびイネの収量への効果を調べている。これら大半の実験は、農家の畑で行われており、農家参加型研究手法(participatory research method)を用いて、農家と一緒になって実験の評価を行い、持続的で農家が適応可能なクロッピングシステムの開発を目指している。


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