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タンザニアに植林と
マルチ稲作を普及

特定非営利活動法人

地球緑化の会

有機農業の経験を生かす
 地球緑化の会は、英語名をEarth Greenery Activities Japan、略称EGAJと呼び、1992年に熊本県宇土市で幅広く農家経営を行っていた設立者(寺尾勇)が、これまでの自分の有機農業の知識や経験を生かせないかと、タンザニアを訪問したことが契機なり設立されました。
 本部は熊本県宇土市にあり、本部事務局には5名(内2名はタンザニア派遣中)、支部には3名の常勤スタッフがいます。
 EGAJの活動を行っているタンザニア連合共和国の首都ドドマは、海岸線から500kmほど内陸部へ入った所に位置し、年間降雨量が500mm程度のいわゆる半乾燥地帯に属します。厳しい気候条件と過剰放牧や人口増加などによって緑が極度に少ないため、生活をする環境の地理的条件としてはかなり厳しい状態です。また、農村部においては、ここ数年の天候不順による農業生産の不振から、食糧不足が顕著になってきており、食糧援助物資がいくつかの村々において配られています。
 タンザニアの行政も環境保全の観点から、植林に対して意欲的ではありますが、資金面の問題で植林事業とその普及活動が思うように進んでいません。さらに、人口増加の影響も受けて、植林した後2〜3年という木が燃料用の薪として伐採されているのが現実です。
 EGAJは、ドドマ近郊の村々を対象にアグロフォレストリー(植林と畑作を同時に行う農法)を中心とした村落林業の普及、そしてドドマから200km程離れたモロゴロ州ダカワで持続可能な稲作の研究を行っています。その他にも、ビクトリア湖の環境汚染調査なども行っています。

現地リーダーが育った村落林業
 当初から私たちが力を入れているのは村落林業です。EGAJのタンザニア支部から10km程離れたヌンズグニ村にCDA(首都開発公団)から用地を無償で借り受け、アグロフォレストリーのモデル農場を開設しました。開設するに当たり、ヌンズグニ村の村民やCDA職員などと協議を重ね、数年前の大雨により土壌流亡が起こり,家屋が流された地域に植林することにしました。また村民への植林技術の普及も考え、スタッフだけで作業を行うのではなく、村民にも主体性を持ってもらうため、ヌンズグニ村から実験参加農家を募り、私たちの試みを理解してもらうように働きかけました。初年度は、村民によって18農家が選出されました。
 植林で私たちを悩ませたのは、シロアリの存在でした。専門家の話によると、この地域での植林は、シロアリ対策を考えないと不可能に近いとの声でした。しかし、防除剤などは、環境保全の面から考えると使用できません。そこで、シロアリの生態に注目してみました。シロアリは生態系から見ると分解者であることから、これを敵視せずに共生して行くことを考えました。植林した苗木の根元に収穫後のトヌモロコシの茎や根や小枝、枯葉を置いてシロアリの餌にするのです。そうすることにより、乾燥も防げて、シロアリによって分解された糞が苗木の養分になるという方法です。しかし、この方法は、すぐには村民に受け入れられませんでした。
 その後は、毎年新しい参加農家を募り、植林や作付を行い、また勉強会や説明会を行ってきました。
 植林当初は、放牧農家のヌシやヤギがモデル農場内に入り、苗木や作物を食べることもありました。参加農家からは「柵を取り付ける」「門番を置く」等の意見もありましたが、「自然環境を一部の人たちだけで変えていくのは難しい」との意見が多く、放牧農家にも植林の重要性や環境問題のセミナーにも参加してもらい、私たちの取り組みを理解してもらうようにしました。
 このような話し合いを重ねるごとに、村民たちも植林に対する意識が少しずつではありますが変わってきました(正直なところ、植林を始めて6年間は、村民のなかで目立った動きは、ありませんでした)。 
 1998年頃になると最初に植林した木がほぼ7メートルの高さまで生長し、枝打ちした枝は薪用の燃料になり、間伐した木は教会の柱などに利用され始めました。また、土壌流亡は完全に止まり、地力も回復しつつあります。 
 こうした成果が出始めた翌年の1999年頃から、自主的に植林をしたいという村人が出てきました。しかし、市場の苗木は管理が行き届いておらず、植林しても枯れることが多かったため、育苗、植林、管理、運営までを村民自身の手で行うように指導しました。
 現在では、ヌンズグニ村で始めた植林活動が、近隣の村まで広がっています。村のモデル農場への参加農家やモデル農場へ視察に来た近隣の村の人々によって、昨年度までに7つの村で17の植林グループ(1グループ8人程で構成)が結成されました。2001年には、1月に5万4469本、2月に1万3662本、3月に7万5303本の計14万3434本の苗木を育てました。それらの苗木はいったんEGAJが買取り、植林に興味を持っている新たな村人や他の村へ配布し、植林を行いました。その後、7月に活着調査を行いましたが、14万421本が順調に生長しています。  
 また、それまでには植林グループから様々な相談を受けましたが、「堆肥や土を運ぶために車を出して欲しい」、「井戸を掘りたいからツルハシを貸して欲しい」、「育苗場の小屋を建てたいからモデル農場の間伐した木を柱に使用したい」といった内容のものがほとんどでした。EGAJでは、助言などはしていますが、彼らが主体性を持てるように、口や資金を出すことは、なるべく控えています。
 植林グループが一つ出来るまでには、長い年月がかかりました。しかし、ヌンズグニ村に1つのグループができると一気に17グループまで増えました。それは、「あのグループにできるのだったら、私たちにもできる」という期待感や良い意味での競争意識が芽生えたからです。これは後から聞いた話ですが、EGAJが最初に手がけたモデル農場は、日本人だから出来たのだと思った村人も少なくなかったようです。
 村落林業のリーダーは、「最後には、村人の自覚がなければ村は良くならない」と言います。EGAJが村落林業に取り組み始めて10年という歳月が経ちますが、各村に村落林業の普及にあたるリーダー的存在になる村人が育ってきました。

タンザニアでの稲作増産をめざして
 EGAJでは、植林活動の他にも主な活動として、タンザニアおける持続可能なマルチ稲作の研究を1996年からこのヌンズグニ村で始めました。「タンザニアおける持続可能なマルチ稲作」というと、難しく感じられますが、これは現地の気象条件や現地で入手可能な資機材で農民自身が管理・運営・普及できる稲作ということです。現在は、モロゴロ州ダカワの試験場に移し、研究及び普及活動を行っています。マルチ稲作とは、地表を稲ワラなどで被覆する農法です。マルチの利点としては@土壌水分の保持、A雑草防除、B地温調節、C有機物の補給などがあげられます。
 タンザニアでも灌漑稲作は行われていますが、水のある一定地域に限定されます。また基盤整備や資機材購入などの経費を考えても、燃料代は日本とほぼ同額なのに対し、コメの販売価格は、1/10ということから、一般農家が灌漑稲作を行うのには非常に困難な状況といえます。
 この事業は、昨年度からJICAとの開発パートナーシップ事業として行われ、事業名は、Sustainable Rice Cultivation by Mulch System、略称SURIMU(スリム)と呼んでいます。これは、「労働力、水、資金もスリムになれば」という意も込められています。
 ちなみに、事業を行っているダカワ近郊の一般直播農家の1エーカー(約4反)当たりの収量が6〜8袋(1袋=籾重量で約80kg)です。私たちは、彼らを対象に節水型灌漑、最小耕起のマルチ農法を取り組み始めました。
 トラクターなどの重機は使用せず、土地のレベリングもタンザニアで購入できるバケツとホースで代用します。雨期が来る前に種を撒き、稲ワラなどでマルチングして雨を待ちます。昨年度は天候にも恵まれ、スリム事業に参加した35戸の農家の平均収量は1エーカー当たり24袋で、一番収穫の多かった村人は33袋でした。これは、まだ1年目の成果ですが、通年の3〜4倍の収量だったことには、村人たちも喜んでいました。
 試験場内でも、マルチ農法の適正品種の選別、マルチの適正材料、マルチ区と非マルチ区の対称試験、適正播種期などの様々な試験を行っています。また、マルチングをした不耕起の稲田と耕起した稲田のどちらが深く耕されているかの試験を行ったところ、数値はほとんど変わりませんでした。それは、マルチングをした稲田には、ミミズが発生して土を耕してくれるからです。
 昨年、スリム事業に参加した農家に「来年は、EGAJの支援無しでマルチ稲作ができるかい」と質問をしたところ、「こんな簡単な方法だったら、1人でもできるさ」という頼もしい返事を聞くことができました。

おわりに
 EGAJは今年で10年目を迎えました。この10年間で私たちが支援したことよりも、彼らから学んだものが多かったような気がします。今後も現地の実状を謙虚に見つめ、村民をはじめ現地の人々の声に学び、日本の農業の良いところや悪いところも彼らに伝えていき、少しでも彼らのお役に立てればと考えています。
 こうした活動が続けられてきたのも、支援して下さる人々のおかげです。EGAJの活動に興味を持った方がおられましたら、会員になって頂けたら幸いです。スタディーツアーなども企画しておりますので、EGAJの活動やタンザニアの大自然を体験しにお出かけ下さい。

(文責 事務局 木村浩純)


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