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マングローブの保全を通じた

国際協力

(財)国際マングローブ生態系協会

事務局長 馬場繁幸


今でこそ皆が知っているマングローブ
 最近は東京や大阪それに福岡など、いわゆる大都市圏のいくつかのNGOや大手の旅行代理店がタイなどに、マングローブ植林のためのツアーを組んでいる。しかし、今から十数年前までは、わが国の環境省や林野庁でさえ、ごく一部の方を除いてほとんど興味を示してくれていなかったのである。
 その影響ではないのだが、マングローブ林が大変なペースで消失していったのは周知の通りである。たとえばタイでは1961年にマングローブ林の面積は約37万haであったが、30年後の1990年には半分以下の約17万haと大きく減少してしまった。その最も大きな理由は、ブラックタイガーの名称などでスーパーマーケットで売られているエビの養殖池建設のためにマングローブ林が消失したことであり、今では多くの人々に知られている。タイのマングローブ林の消失を一例として掲げたが、このことはアジアの国々だけではなく、アフリカや中南米の国々でも起こっていることなのである。  

国際マングローブ生態系協会の設立
 1970年代後半から80年代後半まで、ユネスコ(UNESCO)と国連開発計画(UNDP)は、アジア・太平洋地域でマングローブの重要さとそれを認識してもらうためのプロジェクトを実施していた。そのプロジェクトが終了するにあたって、アジア・太平洋地域の20近くの国々から「どこの国の利害も優先することなく、マングローブの保全とその再生に関わる情報の収集・発信、教育・啓蒙、人材育成、植林事業の推進などを行う組織をつくろう」との提案がなされた。
 その提案に基づいて、わが国の外務省や沖縄県、琉球大学が中心となって沖縄県に誘致し、1990年8月に設立されたマングローブに関する国際NGOが、国際マングローブ生態系協会(International Society for Mangrove Ecosystems、以下ISMEと省略)である。ISMEは沖縄県と琉球大学が積極的に沖縄県に誘致した経緯から、その事務局が琉球大学農学部に置かれている。

会員数と活動でも海外に向いた活動 
 設立当初、ISMEの会員数は200人に満たなかったが、現在では世界の80カ国から800人を越える個人会員・団体(機関)会員がおり、マングローブの保全・再生に関する国際NGOとしては世界で最も大きな機関だといえよう。また、ISMEは国際的にみると比較的知名度の高いNGOであり、国連経済社会理事会(UNECOSOC)に意見を具申できるロスター(Roster)の資格を有している。国連大学やユネスコと国際会議を共催することも多く、横浜市に本部のある熱帯木材に関する国際機関である国際熱帯木材機関(International Tropical Timber Organization、以下ITTOと省略)から委託を受けてマングローブに関するデータベース(Global Mangrove Database and Information System、 以下GLOMISと省略)を構築し、http://www.glomis.comで公開している。
 出版物はそのほとんどが英語で印刷され、世界のマングローブ分布状況(図版集)、技術解説書、学術報告書、ニューズレターなどを発行している。しかしながら、国際的なISMEの知名度に比較すると日本国内での知名度は低い。その理由は、日本語での出版物等の情報提供量が英語のものに比べ極端に少ないことと、東京に事務局を持たないことによるものかもしれない。

写真1 植えて十数年が経過したマングローブ造林地(タイ)


地道に続けて15回を数えたボランティア植林
 ISMEでは設立当初から、5〜30人の少人数の日本人ボランティアと年1〜2回の海外(インドネシア、フィジー、ベトナム、モルディブなど)でのマングローブ植林を行っており、その回数はこれまでに15回にも達している。この植林活動にはこれまで5歳の子供から、最高齢は80歳を超える方まで参加されており、また毎回という方もおられる。

海外からの研修員
 1995年からは国際協力事業団(JICA)の委託を受けて海外からの研修員のための「持続可能なマングローブ生態系管理」の2カ月半の技術研修を沖縄で行っており、昨年までに30カ国から46人の研修員を受け入れた。今年は5月中旬から研修を開始し、7カ国から9人の研修員の受け入れを予定している。

とてつもなく高額の銀行手数料金
 年会費2000円、終身会費2万円を支払うと誰もがISMEの会員になれる。しかしながら、会員の半数以上が開発途上国の方々であり、しかも海外から受けた2000円相当の小切手を沖縄県内の銀行で現金に換えるのに、1件に付き4000円の銀行手数料がかかるのである。このとてつもない高額の銀行手数料のために、開発途上国からの会費は実質的には徴収できないということになる。

マングローブデータベースのこと
 ITTOからの委託を受けて1997年からマングローブデータベース(GLOMIS)づくりに着手し、これまでにようやく5000件の論文検索が可能となった。このデータベースをつくるにあたっては、まずアフリカ地域センターをガーナ、中南米地域センターをブラジル、太平洋地域センターをフィジー、アジア地域センターをインドに設置した。
 その後、それら4地域センターと沖縄メインサーバーとのデータ転送方式の確定と、高速モデムを持たない開発途上国のエンドユーザーが容易に利用可能な検索方法とホームページの開設方式の検討を行い、2001年3月にホームページの公開にこぎ着けた。このホームページは高速モデムやLANでアクセスする日本人ユーザーにとっては、きれいな写真がないことから、あまりアトラクティブでないかもしれない。なお、それを補完することを目的とした訳ではないが、沖縄のマングローブの写真を中心とした日本語のホームページ(http:// www.kaiyo-net.com/mangrove)もあるので、アクセスして頂けると幸いである。

海外でのマングローブ植林事業
 ISMEには十分な自己資金がないので、これまで郵政省国際ボランティア貯金や環境事業団地球環境基金からの資金助成を受け、パキスタンのインダス河口でマングローブの苗木を90万本以上育て、1500ha以上の植林を行っていたが、このことは国内ではほとんど知られていなかったかもしれない。また、地球温暖化によって引き起こされる海面上昇の影響で国土そのものが水没するといわれている国の一つであり、空から眺めた環礁の美しさから「インド洋の真珠」と呼ばれるモルディブにおいても、地球環境基金の助成を受けて2000年から海岸保全のためのマングローブ植林を始めている。 

活動資金は少ないが、活動を継続したい
 ISMEの誘致を沖縄県が積極的に推進したこともあり、1992年には沖縄県知事認可の財団法人となり、沖縄県がそれに必要な基金を拠出したが、その後、基金はほとんど増額されていない。したがって、ISMEを運営するための資金にも事欠くのであるが、幸いなことに沖縄県が運営に関する経常経費の一部と、人的補助として出向職員を1名ISMEに派遣している。この沖縄県の補助金と人的支援により、90年に設立されて以来、今日までISMEが活動してこられたのだろう。
 しかしながら、活動に必要な経費をまかなうだけの資金はないので、会長(インドネシア)、副会長3人(セネガル、フランス、日本)、財務担当理事(タイ)、事務局長兼常務理事(日本)は、全員ボランティア、すなわち無給で協会の活動を支えているのが実状である。
 今日では、ようやく世界の多くの人達がマングローブ林やその生態系の大切さを理解してくれるようになってきた。本当に、本当にようやくここまでこぎ着けてきたのである。世界地図を広げると沖縄島など、時には記載されていないこともある。しかし、その地図にも記載されていない沖縄島に、世界のマングローブを保全するための中心があるということを誇りに思いながら、これからも活動を続けたいものである。


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