2022.8 AUGUST 66号

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OPINION

アフリカ農業への協力
~これまでの成果と今後の展望~
独立行政法人 国際協力機構(JICA)アフリカ部長 増田 淳子

1 アフリカの可能性と日本の開発協力

(1)アフリカをめぐる「多重危機」とTICAD

 一昨年来のパンデミックを機に、アフリカは、コロナ感染拡大に加え、経済成長の減速、債務問題の表面化などの複合的な危機に直面している。さらに、ロシアのウクライナ侵攻による食糧や肥料、燃料等のコモディティや輸送価格の高騰の影響がアフリカにも及びつつある。中長期的には、地球温暖化・気候変動の影響に最も脆弱な地域がアフリカとされている。

 これらの「危機」の重なりを、今年5月のG7開発大臣会合は、アフリカにおける「多重危機」(Multiple Crises)と位置付けている。特に、アフリカは穀物輸入の15%、肥料輸入の8.4%をロシアとウクライナに依存しており1、食料安全保障への危機に対するアフリカの人々のレジリエンス(強靭性)が試されている。このようにアフリカを巡る環境が急速に厳しさを増す中で、第8回アフリカ開発会議(TICAD8)が今年8月に開催される。

 TICADは1993年、アフリカが経済成長の停滞、累積債務問題、内戦の長期化、エイズの感染拡大などに苦しむ一方で、国際社会の関心がソ連崩壊後のロシアや東欧・中央アジア諸国に向かい、アフリカの「マージナライゼーション」(周縁化)が進展し貧困が深刻化する中で、アフリカ開発の重要性を国際社会に喚起するために、日本政府が主唱して東京にアフリカ各国と国際社会の代表を迎えて開催された。

 TICADで日本は、アフリカ自身の自助努力「オーナーシップ」と、日本を含む国際社会の協力「パートナーシップ」の原則・精神により、アフリカ開発を進めようという合意の確立に努めてきた。この「オーナーシップとパートナーシップ」の考え方は、アフリカ各国の幅広い支持を得て、TICADは定期開催されるようになった。2019年8月に横浜で第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が盛大に開催されたのをご記憶の方もおられるだろう。

(2)アフリカへの開発協力

 そのようなアフリカと日本は、50年以上にわたって開発協力を通じて繋がってきた。例えば、1965年にアフリカで初の青年海外協力隊員をケニアに派遣し、これまでに累計で約17,000人のボランティアが派遣されている。1979年には、野口英世が黄熱病で客死したガーナに、日本の協力で野口記念医学研究所が設立され、今では西アフリカでのコロナ対策の中心的な機関として活躍している。

 ガーナの他にも、日本の協力による同様のプロジェクトがアフリカ5か国で実施されており、アフリカの感染症対策に幅広く貢献している。

 農業分野では、意外に思われるかもしれないが、アフリカではトウモロコシや小麦、イモ類とともに、コメが重要な主食用作物である。サハラ以南のアフリカでのコメの生産量を10年間で倍増することを目標に、日本が音頭を取ってアフリカの国々や国際機関をリードして協力してきた(後述)。

 このような長年のアフリカの現場での活動を通じて、JICAは、①人間重視、②アフリカのオーナーシップの尊重、③日本の経験の活用、の3つを特徴とする開発協力を展開してきた。すなわち、アフリカの人々が自らの力で開発を進めるための能力や技術を身に着けるために、アフリカの人々の努力とやる気(=オーナーシップ)を尊重しながら、日本が蓄積してきた技術や経験をアフリカに伝えることを中心に、地道な協力を続けてきたのである。

 ロシア・ウクライナ両国からの食糧輸入の困難に直面する今、このようにオーナーシップとパートナーシップの精神を尊重しながらTICADプロセスに沿って継続的に行ってきたJICAの農業協力の重要性が再認識されている。

 次の章では、アフリカの農業開発のために、日本がどのように協力してきたか、これからどのように協力すべきなのか、これまでの農業協力の成果を振り返りつつ、今後のアフリカへの開発協力の展望を描きたい。

2 アフリカ農業開発に対する協力

(1)アフリカ農業概況

 2000年以降アフリカ経済は成長軌道に乗ったが、農業はアフリカにとって引き続き重要な産業であり、労働人口の約半数が農業に従事している2。アフリカ連合(African Union:AU)は農業開発をアフリカの成長を実現する鍵の一つと位置づけている。

 農業には2つの重要な役割がある。一つは食料安全保障、すなわち食料の安定的な生産・供給を担う役割、もう一つは経済成長のエンジンとしての役割である。食料安全保障について、AUが2013年に公表した今後50年間のアフリカ開発のマスタープラン「Agenda 2063」では、農業の近代化を通じて2023年までに農業の生産性を倍増することを掲げている3。アフリカは穀物の3割以上を輸入に依存しており4、生産性向上を通じた生産拡大はアフリカにとって大きなチャレンジと言える。また、コロナ禍はアフリカの食料・栄養状況にも深刻な影響を与えている。2000年以降減少傾向にあった低栄養人口の割合は、経済情勢の影響もあり2014年を機にわずかに増加に転じたが、コロナ禍により急激な増加に見舞われている。アフリカの2020年の低栄養人口は世界平均の倍以上の21%にも及び(図1)、2030年の「飢餓ゼロ」を掲げる持続可能な開発目標(SDGs)ゴール2の達成が危ぶまれている。また、現在のウクライナを巡る情勢は、ロシアとウクライナが小麦、大麦、トウモロコシ、ヒマワリ油などの主要な輸出国であることから、世界的な食料不足への懸念や、国際市場における食料価格の高騰を引き起こしている。アフリカは食料の輸入依存度が高く、食料安全保障の観点で非常に脆弱であることが改めて露呈した格好である。食料安全保障は今なおアフリカが抱える大きな課題である。

図1 低栄養人口の割合
図1 低栄養人口の割合
出所:FAO, AU, UN Economic Commission for Africa(2021): Africa Regional Overview of Food Security and Nutrition


 農業はアフリカの健全な経済成長にも貢献している。アフリカには農業に依存する国が多いが、アフリカ域内の農産物の貿易額は2000年の20億ドルから2010年に69億ドル、2013年には137億ドルに急増した5。2021年1月に運用開始となった「アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)6」により、中長期的にはアフリカ域内の農産物流通の更なる活発化が期待される。アフリカは人口増加率が高く、2050年には人口の半分が25歳以下になると予測されている7。若年労働者の雇用吸収先となり、これを梃子てこにした経済発展の観点からも農業セクターの成長が大きく期待されている。


(2)アフリカ農業に対するJICAの協力

 JICAは食料安全保障への貢献を念頭に置きつつ、農業をアフリカ経済成長に不可欠なセクターと位置付けて、日本の強みを生かした戦略的な協力を展開する考えである。具体的には、JICAはこれまで協力を実施してきた、1)稲作協力(アフリカ稲作振興のための共同体フェーズ2:CARDフェーズ2)、2)小規模農家の育成(小規模農家向け市場志向型農業振興:SHEP)、3)食と農を通じた栄養改善(食と栄養のアフリカイニシアティブ:

IFNA)を「アフリカ3兄弟」と称して、これまで以上に資源を集中させ戦略的に協力を展開していく。これらに加えて、今後のアフリカ農業開発は経済成長の観点からも民間セクターの役割が極めて大きいことから、4)本邦民間企業のアフリカ進出支援にも力を入れていく。その他、近年注目を集めつつある新たなイシューとして、5)農業・農村開発と気候変動や、6)IT/デジタル技術への対応も手掛けていく。

 JICAの協力の強みは能力開発(Capacity Development)にある。アフリカ農業を支えるのは小規模農家であり、彼らの生活・生計の向上なくして持続的な農業開発、アフリカ経済の発展はあり得ない。アフリカ農業への協力においては、「人間の安全保障」の理念に基づく「人間重視」の協力を行うとともに、真の開発に繋がるよう能力開発を通じて小規模農家の主体性・オーナーシップを醸成し、「考える農家」の育成に注力していく方針である。個々の取組について以下に紹介する。


1)稲作協力:「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)フェーズ2」

 アフリカでは、食味の良さに加え、調理が簡単で保存性が高いこともありコメの消費の伸びが著しく、食料安全保障上もその重要性が飛躍的に高まっている。アフリカではアジアと比べコメの単収が低位にとどまるが、適正な稲作技術の普及により大幅な収量増が期待できる。また、稲作が可能な天水低湿地が広がるなど、コメの生産拡大の大きなポテンシャルを秘めている。

 2008年のTICAD IVで、JICAは国際NGOであるAGRA(Alliance for a Green Revolution in Africa)とともにアフリカでのコメ生産倍増(2005~2007年:1,400万トン⇒2018年:2,800万トン)を目指すイニシアティブとしてCARD(Coalition for African Rice Development)を立ち上げた。アフリカ23カ国を対象にJICAを含む9つの支援機関がCARDの推進に取り組んだ結果、CARDは2018年にコメ生産倍増の目標を達成した。しかしながら、増加するコメ需要を国内生産では賄いきれず輸入量が増加していることから(図2)、2019年のTICAD7ではコメ生産の更なる倍増(2030年:5,600万トン)を目指し、CARDフェーズ2を立ち上げた。

図2 サブサハラアフリカ(SSA)のコメの生産量と輸入量
図2 サブサハラアフリカ(SSA)のコメの生産量と輸入量
出所:FAOSTAT


 CARDフェーズ2では、対象国を32カ国に拡大し、現在は19の支援機関とともに推進している。具体的には、従来取り組んできた、①コメ生産の安定的な拡大(単収の向上、生産面積の拡大)に一層力を入れるとともに、②バリューチェーンの構築・強化を通じたコメセクターの開発・発展(コメの品質向上と安定的な供給)や、③政府/開発パートナーによる稲作開発の推進(国産米の国内シェア拡大と農家による生産継続・面的拡大)にも力を入れる計画である。特に、②バリューチェーンの構築・強化においては現地・本邦の民間企業との連携が鍵となる。この点は 4)で後述する。


2)小規模農家の育成:「小規模農家向け市場志向型農業振興(SHEP)」

 SHEP(Smallholder Horticulture Empowerment & Promotion)は、小規模農家のマインドを「作ってから売る(Grow and sell)」から「売るために作る(Grow to sell)」に変革するなど、ビジネスとしての農業の推進を目的とするアプローチである。農家自身が、自らの営農や市場の状況・ニーズを調査した上で、生産作物の種類、栽培時期、販路などを決定した後、農家が自発的に必要と考える技術サービスを農業普及機関に対して求めるという一連の流れを通じて、ビジネスとしての農業を持続的に実践する営農マインドの醸成を狙っている。

 2013年のTICAD VでSHEPアプローチによる支援を表明して以降、JICAはアフリカを中心に広範にSHEPアプローチの推進に取り組んできた。その結果、各国で農家の収入が向上し、例えばルワンダの対象2地区では、1年間で収入がそれぞれ2.3倍、4.8倍に増加した。また、SHEP農家の特徴として農業への投資があり、ケニアの対象農家では1年半の間に農業資材への投資額が80%増加した。これは「稼ぐための農業」、「儲かる農業」への意識の高まりによるものである。

 2019年のTICAD7では、SHEPアプローチを活用した支援を小規模農家100万世帯に提供する「SHEP100万人宣言」を表明した。現在世界51カ国で協力を展開中であるが、その中心はアフリカであり29か国に及ぶ。これまでに2万人を超えるアフリカの行政官、指導者がSHEPアプローチを習得し、18.6万人の農家がSHEPアプローチを習得・実践している。今後も引き続き「SHEP100万人宣言」をアフリカを中心に推進していくため、各国での協力事業の実施を一層強化するとともに、国際機関や民間企業など、幅広い開発パートナー機関によるSHEPアプローチの取組を促進する計画である。


3)食と農を通じた栄養改善:「食と栄養のアフリカ・イニシアティブ(IFNA)」

 IFNA(Initiative for Food and Nutrition in Africa)は、2016年のTICAD VIでJICAとアフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)が立ち上げた食と農業を通じた栄養改善の推進を目指す10年間のイニシアティブである。コロナ禍によりアフリカは低栄養人口の急増に見舞われたが、その以前より栄養改善はアフリカの重要課題であった。例えば、世界の5歳未満の発育不全の総数は2000年以降一貫して減少傾向にあったが、唯一アフリカだけは常に増加傾向にあり2000年と比較し2018年には15%以上増加した8。アフリカの5歳未満児の年間死亡者数の多くが低栄養に起因すると言われ、生命・健康に深刻な影響を与えている。2012年の国際保健総会で採択した「Global Nutrition Target 2025」では、5歳未満児の発育阻害の40%削減、出生時の低体重の30%削減等が掲げられているが、目標達成はアフリカでの取組が鍵となる。

 このような背景の下で立ち上げられたIFNAは、現在はJICA、AUDA-NEPADを含む10機関により推進されている。国レベルでは政策・戦略の強化や政府職員の能力向上を通じた栄養改善への基盤作りが、現場レベルでは栄養改善の普及・啓発活動を通じ世帯・個人レベルで「気づき」を与え、行動変容に繋げる取組が進められている。

 2021年12月に日本政府主催で東京栄養サミット2021が開催され、岸田総理は今後3年間で3000億円、28億ドル以上の栄養に関する支援を表明した9。また、JICAは、人間の安全保障への貢献を念頭に、栄養改善に関する基本的考え・取組方針を「JICA栄養宣言」として発信した。JICA栄養宣言ではアフリカを重点地域と位置付けており、IFNAの推進に戦略的に取り組んでいく方針が示されている。また、AUは2022年のテーマを栄養とすることを決定した。TICAD8ではJICAはAUDA-NEPADとともにIFNAの推進に向けたサイドイベントを計画している。今後もIFNAの戦略的な展開を通じてアフリカの栄養改善を牽引していく。


4)本邦民間企業のアフリカ進出支援:先進農業技術の導入促進(AFICAT)

 今後のアフリカ農業・農村開発は、ODAによる支援だけで健全な開発・発展を遂げるのは難しく、民間企業を中心とする様々なアクターの巻き込み・連携が不可欠である。特に農産物の流通、マーケティングにおいては農民組織とともに民間セクターが大きな役割を果たしている。コロナ禍によるサプライチェーンの混乱によりその必要性がさらに高まった。バリューチェーン開発において、質と価格の面から農産物の競争力を高める方策の一つとして農業機械化が挙げられるが、アフリカでは大きく立ち遅れている。

 TICAD7(2019年)でJICAは、農業機械化の推進を念頭に「日・アフリカ農業イノベーションセンター(Africa Field Innovation Center for Agricultural Technology:AFICAT)」構想を打ち出した。AFICATは、先進農業技術の中でも特に農業機械化に着目し、海外から機能と品質(耐久性)で高い評価を受ける日本製農業機械の導入を後押しし、農業開発を支援することを目的としている。CARDフェーズ2推進上も、生産、収穫及び収穫後のどのステージにおいても農業機械化は不可欠である。今後JICAは、コメ生産における農業機械化のニーズが高いタンザニア、コートジボワール、ナイジェリア、ガーナ及びケニア等で、農業機械関連の本邦企業進出の側面支援に取り組む計画である。農業機械化を中心とする本邦民間企業の活発なビジネス展開によるCARDフェーズ2の推進に向けて、前例にとらわれない柔軟な支援を展開していく考えである。


5)農業・農村開発と気候変動

 近年世界各地で熱波や干ばつ、豪雨といった極端現象の発生頻度が高まっており、アフリカでは2008年から2018年の自然災害による農業生産ロスは300億ドルに達した10。今後極端現象の発生頻度や程度が更に深刻化すると予測され、食料の安定生産・供給、また農民の生計・収入確保へのリスクが高まっている。

 JICAでは、気候変動に適応した安定的な農業生産の実現に向けて、参加型灌漑開発・水資源の効率的な利用や生計手段の多様化に取り組む考えである。参加型灌漑開発・水資源の効率的な利用では、水利組合強化等を通じて農民自身による主体的な取組を促し強靭かつ持続的な灌漑農業を支援する。生計手段の多様化では、取組の一つとして畜産や園芸作物など多様な品目を組み合わせた複合経営の導入を想定しているが、これは農民の収入の安定性向上にとどまらず、食料安全保障の面でも有効である。加えて、農業保険などデジタル技術や先進技術を活用した協力にも取り組んでいく。農業保険への協力は既にエチオピアで展開しており、パイロット段階であるものの農民の間で徐々に保険加入者が増えてきている。農業保険は極端現象発生時の補償にとどまらず、優良種子の購入等農民の農業活動に対する新たな投資の後押しにも繋がる。アフリカ農業分野においても、今後このような気候変動に対する協力にも積極的に取り組んでいく考えである。


6)IT・デジタル技術の活用

 アフリカでも携帯電話の普及が急速に進み、2017年には保有率が約80%となるなど11、既に農民の間でも一般的なツールとなっている。2010年頃から農業分野でも携帯電話を使ったデジタル化の取組が現れ始めたが、コロナ禍によりスタートアップ企業等による農業分野でのデジタル化の動きに拍車がかかった。生産準備段階では種子や肥料など農業投入財の情報や取引、生産段階では気象データや農業技術に関する情報の入手、収穫後では市場価格の情報や取引においてデジタル化が進んでいる。また、コロナ禍により日本でも遠隔業務が進んだが、JICAの農業開発事業の現場でも同様であり、普及活動時のタブレットの活用、データ集計システムやオンライン会議デジタルツール等の使用、GIS、GPSといった衛星情報の活用が進んだ。

 IT・デジタル技術はバリューチェーン開発に不可欠であることに加えて、農業開発の現場での活動上有効なツールであることから、JICAとしても引き続き積極的な導入を後押ししていく考えである。

 JICAのアフリカ農業分野での取組について具体的に本節には1)~6)を挙げたが、いずれもアフリカ農業を支える小規模農家の生活・生計向上への支援を通じて「考える農家」を育成し、持続的な農業開発に繋げることを主眼に置いている。これらを通じて、食料安全保障に貢献していくとともに、本邦民間企業等とともに質の高いアフリカ経済成長への一翼を担っていく考えである。

3 ポストコロナ時代のアフリカに向けて

 このように、JICAの農業協力はアフリカで成果を上げてきたが、急速な人口増加、経済成長、気候変動、昨今の国際情勢の急激な変化に伴って、アフリカの農業は未だ多くの課題に直面している。

 冒頭、人口増加はアフリカの強みと述べたが、アフリカの食糧増産は人口増加のペースに追いついておらず、同時に経済成長や産業構造の変化に伴って農村から都市へと人口が移動しており、既述のとおりアフリカは大量の食糧輸入に依存し続けている。

 特に小麦については、ロシアとウクライナからの輸入に多くを頼っている。本稿執筆時点(5月中旬)で、アフリカの一部で既に小麦の調達が困難な状況に陥っている他、食糧価格が上昇しており、食糧危機の発生が強く懸念されている。

 また、気象・気候の極端現象の増加により、アフリカの多くの場所、コミュニティが、食料生産にネガティブな影響を受けている。近年では、特に東南部アフリカで干ばつや豪雨といった極端現象の発生頻度が高まっている。

 このような食糧供給や気候変動のリスクに加えて、コロナ感染の再拡大リスクも、アフリカでは引き続き懸念されている。

 新型コロナの感染はアフリカでも猛威を振い、ロックダウンなどのために経済や雇用も大きく落ち込んでいる。先進国を中心に新型コロナウィルスに対するワクチン接種が進む一方で、アフリカの接種率は全人口の17%程度(2回接種、本稿執筆時点)にとどまっている。

 グローバル化が進み、多くの人々が国境を越えて行き来する今日の国際社会では、新型コロナに対するアフリカの脆弱性は、日本を含む世界の国々にとって脅威である。アフリカの健康と安全なくして、世界の健康と安全の確保はできないのである

 今年の8月に第8回アフリカ開発会議(TICAD8)がチュニジアをホスト国として開催される予定である。このような時代の転換期に開催されるTICAD8は、アフリカ、日本、そして国際社会が連帯してアフリカの課題を克服し、ポストコロナ時代の安心できる社会を再構築していく上で、極めて重要である。

 私たちは、これからのアフリカと日本、国際社会のために何ができるのだろうか?TICAD8が、このような大きな課題について、皆さんと一緒に考え、議論し、行動するきっかけになることを期待している。


1 World Bank(2022):「Africa’s Pulse, No.25, April 2022 https://openknowledge.worldbank.org/handle/10986/37281
2 FAOSTATによるとアフリカの人口の48.9%(2019年)が農業に従事.
3 AU(2013):Key Transformation Outcomes of Agenda 2063 https://au.int/agenda2063/overview
4 FAOSTATによるとアフリカでは31.1%(2016~2018年)の穀物を輸入に依存
5 FAO(2018): Africa Regional Overview of Food Security and Nutrition
6 外務省ウェブサイトによるとアフリカ大陸自由貿易圏(African Continental Free Trade Area: AfCFTA):アフリカ大陸全域にわたる自由貿易圏を設定するための協定. 物品・サービスの単一市場創設, 資本と自然人の移動への貢献等を目標としている.
7 World Bankウェブサイト: World Bank in Afric, https://www.worldbank.org/en/region/afr/overview#1
8 UNICEF-WHO-The World Bank: Joint Child Malnutrition Estimates (2019)によると, 世界の5歳以下の発育不全は1.98億人(2000年)から1.49億人(2018年)に減少. 一方, アフリカでは0.50億人(2000年)から0.59億人(2018年)に増加.
10 FAO(2021):The impact of disasters and crises on agriculture and food security
11 AGRA(2019):Africa Agriculture Status Report


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