2022.8 AUGUST 66号

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INFORMATION
第4回アジア・太平洋水サミットの結果概要(報告)

国土交通省水管理・国土保全局水資源部水資源計画課 専門調査官 伴 尚志
企画専門官 中村 康明

1 はじめに

 本年(2022年)4月23日(土)、24日(日)に熊本市で「第4回アジア・太平洋水サミット(APWS)」が開催された。本サミットには、アジア太平洋地域30カ国(日本を含む首脳級会合・ハイレベルステートメントの参加国数)の首脳級・閣僚級のほか、国内外からオンラインも含めて多くの国・地域の代表が参加し、「持続可能な発展のための水~実践と継承~」という全体テーマのもと議論が行われた。

 開会式では、天皇陛下より記念講演を賜り、首脳級会合では、岸田総理大臣より「熊本水イニシアティブ」が発表され、参加国首脳の決意表明である「熊本宣言」が採択された。

 その後、「熊本宣言」における首脳級からの問いかけに対して具体的なアクションを議論する9つの分科会と4つの統合セッションが実施され、閉会式において、「議長サマリー」が発表された。

 本稿では、本サミットの成果等を報告するとともに、筆者が主体的に携わった「地下水を含む健全な水循環」分科会について紹介する。

2 熊本水イニシアティブ

 首脳級会合では、岸田総理大臣が基調演説を行い、「熊本水イニシアティブ」を発表した。本イニシアティブは、我が国が、アジア太平洋地域における水を巡る社会課題に対し、官民協働により、デジタル化やイノベーションを活用して、社会課題の解決を成長エンジンとし、持続可能な発展と強靱な社会経済の形成につなげていく「新しい資本主義」に基づき、我が国の先進技術を活用した「質の高いインフラ」整備等を通じて、積極的に貢献するというもので、以下2つのアプローチで形成されている。

(1) 気候変動適応策・緩和策両面での取組の推進

①「質の高いインフラ」の整備推進

・ダム、下水道、農業用施設等による、流域治水を通じた水害被害軽減(適応策)と、温室効果ガスの削減(緩和策)を両立できるハイブリッド技術の開発・供与(ダム:既存ダムの運用改善や改造により、早期に効果発現)

・官民協働による「質の高いインフラ」の導入提案

②観測データの補完への貢献

・気象衛星(ひまわり)、陸域観測技術衛星2号(だいち2号)、全球降水観測計画(GPM)主衛星等の衛星データ供与

③ガバナンス(制度・人材・能力)への貢献

・AI/IoT等での予測・解析技術等による水害リスク評価の高度化

・アジア太平洋気候変動適応情報プラットフォーム(AP-PLAT)やデータ統合・解析システム(DIAS)を通じた人材育成等への支援

④二国間クレジット制度(JCM)の活用・拡大

(2) 基礎的生活環境の改善等に向けた取組の推進

①「質の高い水供給」の整備推進

・IoT技術等の先進技術導入等による水道施設整備等の推進

②「質の高い衛生施設」の整備促進

・下水道や分散型衛生施設等を整備し、運営能力強化等を推進

3 「熊本宣言」

 首脳級会合では、「熊本宣言」が採択された。この「熊本宣言」は、参加したアジア・太平洋地域18カ国の首脳級による水問題の解決と質の高い社会への改革に向けた共同決意声明・宣言である。「熊本宣言」では、熊本水イニシアティブを評価・支持するとされたほか、首脳級からサミット参加者に対し、「すべての水関連分野において、ガバナンス、ファイナンス、科学技術の3つの分野で変革と改善を行うための障壁、突破口、機会、推進方法を特定し、徹底的に議論する必要がある。特に、科学技術については、リーダーの分野横断的な意思決定において、どのような役割を果たすべきか答えを導くことが非常に重要である。第4回APWSに集まったリーダー、専門家、科学者、そして、すべての関係者に、上記宣言の趣旨を踏まえて議論し、実質的な、その答えを導き出し、このサミットの成果にしていただきたい」との問いが投げられた。「熊本宣言」の概要は、図1のとおりである。

図1 熊本宣言の概要
図2 複数落水と常時湛水の水稲収量およびCH4排出量の比較
4 「議長サマリー」

 閉会式では、アジア太平洋地域の質の高い成長に向けた明確な道筋を示す「議長サマリー」が発表された。「議長サマリー」は、熊本宣言中の問いに応えるために行われた発表と意見交換の成果をまとめており、9つのテーマ別セッションと4つの統合セッションの成果の主要メッセージが含まれている。「議長サマリー」の概要は、以下のとおりである。

(1) 持続可能な社会の構築に向けて: 水分野はSDG 6.1-6.6 や11.5.といったすべての水関連のSDGsを達成する必要がある。

・ガバナンス:統合水資源管理に基づく流域全体の水管理を行い、健全な水循環を回復・維持するために, 領域や異なるレベルのセクター間を超えて協働し、多様な気候、地理、社会経済的条件に合わせる。

・ファイナンス:水分野への総投資額を大幅に増やすため、水分野への投資による直接的・間接的な便益を定量化し、金融機関や納税者に納得してもらい、投資家を惹きつけるために分析手法を開発・標準化することが必要である。

・科学技術:測定できないものは改善できない。特に、越境情報共有は重要である。

(2) 強靭な社会を目指して: パンデミックや災害、気候変動など突発的もしくは緩やかな混乱の発現に対して、より強靭で適応性のあるコロナ後の社会を構築するために、水は重要な役割を果たすことができ、また果たすべきである。

(3) 包摂的な社会に向けて:包摂的な社会は、SDGs達成のためだけでなく、社会経済成長のエンジンとして人間の多様な能力や才能をフル活用するためにも必要である。

・ジェンダー平等と社会的包摂をあらゆる機関や制度の中核的な目標とする。

・技術、イノベーション、データの分野で若者が解決法を提供し専門性を発揮できるように後押しし、若者の有意義な参画を奨励、着手、支援し、あらゆるレベルで若者-政府間パートナーシップを強化する。

(4) 国連2023年水会議とその後に向けて

・水、気候変動、防災は国際的なプロセス、特に国連2023年水会議において重要なテーマとして議論されるべきである。

・熊本水イニシアティブがアジア・太平洋地域内外のコミットメントの輪を広げていくことを期待する。

5 「地下水を含む健全な水循環」分科会

 「地下水を含む健全な水循環」分科会には、国土交通省を含む国内外の9機関が参加した。本分科会では、地下水を含む健全な水循環の維持または回復に向けた、ガバナンス、ファイナンス、科学技術に関する知見が共有され、今後、アジア・太平洋地域各国が取り組むべき具体的な行動が提言された。

 科学技術の観点からは、水循環施策を関係者が連携して進めていくためには、流域における水循環の現状と課題を的確に把握し、取組成果を定性的または定量的に評価するとともに、その評価を取組の改善に用いることが必要であり、これらは、科学的根拠に基づくことが求められることなどが提言された。また、ガバナンスの観点からは、水に関する多分野の協力を促進するために、国・地方レベルで法制度の構築を行っていくとともに、関係者により流域単位で計画を作り、関係者の適切な役割分担のもと協力して施策を実施する流域マネジメントのアプローチを進めることが必要であることなどが提言された。

6 おわりに

 サミットに参加し、分科会の議論を進めていく中で、国内及び国際の各機関が、強靭性、持続可能性、包摂性を兼ね備えた質の高い社会を実現すること、また、そのためにガバナンス、ファイナンス、科学技術の分野で取組を進めることについてコンセンサスが得られていることを強く感じた。今後、本サミットの成果が、水に関係するグローバルな議論プロセスで反映・活用されることが期待される。

 なお、本報告の内容は、筆者個人の見解を示すものであり、筆者の所属する組織の公式見解を示すものではない。


[引用・参考文献]
第4回アジア・太平洋水サミット公式サイト


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