2022.2 FEBRUARY 65号

前のページに戻る

Keynote 2

第4回アジア・太平洋水サミットと国連SDGs

熊本大学くまもと水循環・減災研究教育センター 特任教授  渡邉 紹裕

1 はじめに

 本年(2022年)4月に、熊本市で「第4回アジア・太平洋水サミット」が、「持続可能な発展のための水~実践と継承~」をメインテーマに開催される。2020年10月に開催予定であったが、新型コロナウィルス感染症のパンデミックで延期されていた。本稿執筆時点で、その開催形式や参加者・参加形態などは、なお未確定な部分があるが、開催されることは確かである。ここでは、この「第4回アジア・太平洋水サミット」(Forth Asia-Pacific Water Summit、以下 APWS4)の概要とSDGsからみた意義や期待をまとめてみる。

2 アジア・太平洋水フォーラムとアジア・太平洋水サミット

 まず、「アジア・太平洋水サミット」(APWS)とは何かを説明する。2006年3月のメキシコでの「第4回世界水フォーラム(WWF4)」の準備段階で、特有の自然条件や文化を有するアジア・太平洋地域における水問題解決に寄与する知識・経験を、より効率的に共有して世界的な提案に結びつけるべきとの機運が高まった。そして、地域の国連機関や政府組織、地域開発銀行、研究機関、市民組織などさまざまな水関係者の国際ネットワーク組織として設立されたのが「アジア・太平洋水フォーラム」(Asia- Pacific Water Forum:APWF)である。日本水フォーラム(Japan Water Forum:JWF)が中心となり、日本主導によりWWF4で設立が宣言され、2006年9月にアジア開発銀行(ADB)本部にて発足式典が執り行われた。会長は森喜朗元内閣総理大臣(JWF会長)で、事務局はJWFが務める。

 APWSは、APWFの活動の柱の一つであり、水問題の解決には、科学技術的な解決策の共有・活用だけでなく、「政治的意志」が不可欠との認識から、政治的な意志決定の資格・能力のある方々を招いて、2~3年に一度開催される。「サミット」としているように、意志決定の「頂点」にある人々が議論して決断を下すことが目指されている。2007年12月に、日本の別府市で開催された第1回APWSは「世界初の水に関する首脳級会合」として、APWFの設立と同時に提案されて開催された。APWSは、アジア・太平洋地域の49カ国の首脳級を含むハイレベルを対象とし、水問題に対する認識を深め、具体的な施策や行動の実現が目的であり、APWFがホストの国や都市と共同で主催する。これまでに3回開催された(詳細は表1)。

表1 APWSの第3回までの開催概要

1)第1回APWS(大分県別府市、2007年12月3-4日)

 第1回APWSは、APWFと国内外の有識者からなる第1回APWS運営委員会が主催し、JWFがサミットの事務局として約1年間準備活動を主導した。日本の皇太子殿下とオランダの皇太子殿下(当時)や、アジア・太平洋地域の10ヶ国・地域の首脳級と閣僚級32名、UNESCO事務局長、ADB総裁など計371名が参加された。「Water Security:Leadership and Commitment」をテーマにして、国や地域の発展や政策の観点からハイレベルな議論が展開された。首脳会合としては、初めて「水災害」を優先課題として位置づけた。その成果は「別府からのメッセージ」としてまとめられた。
 「別府からのメッセージ」では、「人々が安全な飲料水と基本的衛生設備を入手することは、基本的人権であり、人間の安全保障の基本であることを確認」したうえで、国連MDGsからさらに踏み込んで、「この地域において安全な飲料水を利用できない人々の数を、2015年までに半減し、2025年までにゼロを目指す」ことが示された。その上で、「水と衛生を各国の経済・開発計画や政治課題における最優先課題とし、水と衛生分野への資金配分を大幅に拡充する」ことが謳われた。また、水管理に関するガバナンス・効率性・透明性・公平性の向上や、水関連活動における女性の能力の向上、洪水・干ばつなど水関連災害の発生の防止・削減、犠牲者の救援・支援のための効果的な行動、発展途上国の気候変動適応への支援、などを目指すことも示された。さらに、各国は、閣内にあるハイレベルの調整システムの権限を拡大し、可能な国では水担当大臣を任命して水と衛生に関するすべての問題を統合的に扱うことが決意された。そして、「水の安全が保障されたアジア・太平洋地域という地域全体のビジョンを達成するために、志を一つにするすべての団体、個人が力を合わせて取組む」という、本来の趣旨が確認された。

2)第2回APWS(タイ・チェンマイ、2013年5月19-20日)

 第2回は、「Water Security and Water-related Disaster - Challenges:Leadership and Commitment」をテーマにして開催され、首脳級18名と閣僚級16名を含む300名以上が参加した。アジア・太平洋地域における各国の水の安全保障に関する定量的・定性的評価に関するさまざまな調査・研究成果が報告された。会議の成果として「チェンマイ宣言」が採択され、2011年のタイにおける洪水災害の経験から、災害リスクの低減をSDGsに組み込むことを提言した。

3)第3回APWS(ミャンマー・ヤンゴン、2017年12月11-12日)

 第3回は、「Water Security for Sustainable Development」をテーマに開催され、16カ国20名の首脳・閣僚級を含めて700名以上が参加した。成果の「ヤンゴン宣言」では、SDGsを5年前倒しして、2025年までにすべての人々の水と衛生を確保することが提言された。また、健全な水循環の管理、ガバナンスと包括的な開発、水に関連するSDGs目標の実現のためのファイナンスを含む、持続可能な発展のための道筋を示すことが示された。この提言は、第4回のコンセプトや枠組みにも反映された。


 第3回以降の国際的な動きは以下のように整理されている(APWS4 第5回合同実行委員会資料[2021])。

 第3回で採択された「ヤンゴン宣言」は、地域の主要なステークホルダーの協調の指針となって、健全な水循環の向上と、持続可能な開発目標の実現に向けた行動と連携・協働を促進してきている。各国政府だけではなく、それぞれの自治体や民間企業、NGO、国際機関、投資家などによる取組みも活性化してきているとされる。

 2020年11月にサウジアラビア・リヤドで開催されたG20首脳会議の宣言では、「強固で、持続可能で、均衡ある包摂的なポスト・新型コロナウィルス感染症時代における世界を形づくることを主導する」ことが約束された。また、2021年6月に開催された「第5回国連水と災害特別会合」においては、「新型コロナウィルス感染症後に、持続可能でレジリエントな社会を目指し、気候変動に適応する政治的な参画と、資金確保のための政策立案の必要性」が強調されている。さらに、2019年6月に大阪で開催されたG20サミットでは、「質の高いインフラ投資に関するG20原則」が承認された。

 こうした第3回以降の国際的な動向や方向性は、第4回のコンセプトや構成でも考慮されている。

3 第4回アジア・太平洋水サミット(APWS4)の企画と枠組み

(1)開催のねらいと概要

1) 開催のねらい

 熊本市は、2013年12月に、国連「生命(いのち)の水(Water for Life)」最優秀賞を受賞している。この賞のカテゴリー 1 「最良の水管理の取組み」に2013年は世界の34都市が応募し、熊本市は1位となり受賞に輝いた。熊本市は「自然のシステムを利用した地下水保全」を謳い、熊本地域の水循環の保全活動、とくに水田を活用した地下水涵養、市民の節水運動、㈶くまもと地下水財団などによる広域連携などが、広域連携・協働による水問題解決・健全な水循環管理として評価された。熊本地域は、行政区域を越えて多様な関係者が連携して、流域全体として健全な水循環の維持・回復に取組むモデルとされており、熊本市は、これらの評価と継続する活動を基礎として、その成果の再評価と国際的な発信・共有を目指すことになったと考える。

 第4回APWSでは、新型コロナウィルス感染症パンデミックからの復興において、水問題を解決することによって、「強靭で包摂した持続可能な成長に向けた先進的な解決策」を共有して、首脳の政策決定を支援することを目的とする。さらに、関係者の一層の協調と、解決策の展開の加速に資することを目指す。

 その成果は、アジア・太平洋地域の質の高い成長を促進する行動を提案して、2023年の国連「水のための行動の10年」の中間レビューに反映されることが想定される。また、国連のSDGs、仙台防災枠組2015-2030、気候変動枠組条約パリ協定、生物多様性条約などの国際的枠組みや、「第9回世界水フォーラム(WWF9)」(2022年3月、セネガル)での議論や行動にも貢献することが求められている。


2)開催の概要

 サミットには、主催国日本を含むアジア・太平洋地域の49カ国の元首・首脳級の参加が期待され、国内外の多数の機関などにも参加を呼びかける。これらを合わせて、全体では、300~400名程度の参加が予定されている。

 運営する組織として合同運営委員会(委員長:森喜朗元内閣総理大臣)が置かれ、国内外の関係機関から委員が選出されている。筆者もICID日本国内委員長の立場で委員参加している。


(2)第4回アジア・太平洋水サミットの枠組みと会議構成

1)コンセプトと議論の枠組み

 第4回APWSのメインテーマは「持続可能な発展のための水~実践と継承~」で、深刻化する脅威に対処し、強靭で包摂した持続可能な成長を目指すことが基本的なねらいである。その根幹はコンセプトノートとして示されている(詳細は表2。APWS4第5回合同実行委員会資料[2021]を筆者が要約)。

表2 APWS4のコンセプトノート(要約)
 アジア・太平洋地域は目覚ましい経済発展によって、貧困層が減少し、水と衛生へのアクセスが大幅に改善されたが、なお、水量(洪水、渇水)、水質(水質汚染)に関わる多様な課題に直面する。途上国では、水インフラの整備、水サービスの普及、人材の育成が、十分には進んでいない。その中で、新型コロナウィルス感染症の感染拡大は、水分野で多くの影響を及ぼしていて、水問題への対応への制約に加え、農村部を中心にして脆弱な人々に対する、手洗いや衛生といった感染症対策の基本の不十分さが示された。
 アジア・太平洋地域は、世界的に災害を受けやすい地域であり、灌漑、上下水道、水資源管理施設などにおいて、サプライチェー ンの断絶、ロックダウン、財務状況の悪化などにより、サービスの継続に支障が生じたとされる。さらに、気候変動や社会経済変化で、洪水、干ばつ、海面上昇、地下水の減少、水環境汚染など、事態の深刻化が予測され、2050年までに最大で34億人が新たに深刻な水ストレスに晒される可能性があるとされる。
 新型コロナウィルス感染症パンデミックからの復興において、成長の方向性や水分野の役割についてのリーダーらの展望と行動が求められる。水は多くの国連SDGsのゴールやターゲットに関わり、成長においては「中核的な役割」を果たすことが期待されている。とくに、1)自然災害、感染病などのマルチハザードに対して強靭で、2)すべての人を包摂し水サービスを届け災害から保護し、3)気候変動や環境課題に対処する持続可能(グリーン)な社会をどうすれば構築できるのか、取組みの検討が望まれる。
 そして、成長を支えるソフト・ハードを含めた「質の高いインフラ」の役割と課題は何かを、1)ファイナンス、2)ガバナンス、3)科学技術、の3つの観点から検討して解決策を探っていくことが基本的な枠組みとして提示されている。
 ファイナンスについては、質の高いインフラ整備には膨大な投資が必要であることから、資金の投入が求められる。水分野の主要セクターのインフラ整備には、2020年から2030年までに合計3兆ドル(年間2,700億ドル、うち水・衛生:1,030億ドル、治水:950億ドル、水力発電:590億ドル、灌漑:130億ドル)が必要と推計される。パリ協定の「2℃目標」達成と気候変動による災害に対する社会的な強靭性を高め、今世紀末における気候変動による被害額は世界全体でGDPの3.9%~8.6%から0.4%~1.2%に抑えられるという推計もある。
 ガバナンスについては、政策や意志の決定プロセスには「流域ガバナンス」の構築が必要で、洪水対策には流域全体で多様な関係者が関わる必要があるとされる。しかし、現時点では統合され一貫した政策は立てらず、幅広い関係者の関与もないとされる。
 科学技術は、技術的なイノベーションを含め、多角的な問題解決に向けた政策決定に貢献することが求められる。しかし、現在までのところ、水に関わる科学技術の各分野の知識は細分化し、統合しての活用がなされていない。


 以上、APWS4のコンセプトと、議論の枠組みを示した。感染症パンデミックからの復興を含めて、「質の高い成長」を実現するには、水に関わる「質の高いインフラ」の整備が求められ、「包摂性・参加性」「持続可能性」「強靭性」を内実させ、「質の高い社会」の構築を目指すということである。そして、その実現に向けて、ファイナンス、ガバナンス、科学技術、の3つの観点から検討される。この基本的な枠組みを図示したものが、図1である。

図1 「質の高い社会」の構築 ~第4回アジア・太平洋水サミットの基本的枠組み
図1 「質の高い社会」の構築 ~第4回アジア・太平洋水サミットの基本的枠組み
出所:APWS4 第5回合同実行委員会資料を元に筆者が作成。

2)会議構成

 APWS4の成果のまとめとして、首脳級の決意をとりまとめた文書である「熊本宣言」が採択されることになる。それは、上述のように、2023年の国連「水のための行動の10年」の中間レビューに反映される。この「熊本宣言」を受けて、各行動の実施に関する「分科会」と、分野横断の「統合セッション」が開催される。その会議の構成と議論の流れを図示したものが、図2である。

図2 APWS4の会議の構成と議論の流れ
図2 APWS4の会議の構成と議論の流れ
出所:APWS4 第5回合同実行委員会資料を元に筆者が作成。


 分科会と統合セッションの議論や成果を踏まえ、「議長サマリー」が議論と成果の総括としてまとめられる。当然ながら、「質の高い成長」のために必要な持続性・強靭性・包摂性を確かなものとするために、各分野において求められる展望・行動が示され、さらに分野横断的に必要な政策・施策・行動がまとめられることになる。

 分科会については、9つのテーマが示され、国内外の関心を有する機関が、それぞれについて企画提案をして、本稿執筆時点では、詳細が検討されている。基本的に、国内機関と国際機関が共同して企画・運営をすることになっている。9のテーマは以下のものである:1)水と災害/気候変動、2)水と食料、3)水供給、4)適切かつ平等な下水道施設・衛生施設へのアクセス及び水質改善、5)水と環境、6)水と文化と平和、7)水と貧困/ジェンダー、8)地下水を含む健全な水循環、9)ユースによるリーダーシップ、ユースによるイノベーションを通じた多様な利害関係者・世代間の協働。

 このうち、2)の「水と食料」分科会は、農水省農村振興局(海外土地改良技術室)が共同主催者となり、FAOやIWMIなど国際機関と連携して、企画・開催される予定である。そこでは、アジア・太平洋地域における農業の水生産性向上に資する適切な水管理方法やその技術の適用について討議される見込みである。また、筆者は、8)の「水循環」分科会の企画に、熊本大学(くまもと水循環・減災研究教育センター)として参画し、内閣官房水循環政策本部及び国交省水資源部と協働して開催を準備しており、さらに9)の「ユース」分科会に、ユース水フォーラム・九州の事務局長として、ADB(Asian Development Bank、アジア開発銀行)やGWP(Global Water Partnership、世界水パートナーシップ)と開催準備を進めている。

 APWS4では、サミット本体の会議と合わせて、関連する様々な会合がサイドイベントや関連イベントとして開催される。灌漑排水に関するものとしては、熊本市・熊本県・みどりネット熊本などが中心となってサイドイベント「世界かんがい施設遺産サミット in Kumamoto」の開催が計画されている。国際かんがい排水委員会(ICID)が認定する「世界かんがい施設遺産」は、2014年に登録が開始され、2021年までで世界で123施設、日本で44施設が認定・登録された。日本の44施設のうち4施設は熊本県内の施設であり、同県内の4つの1級河川流域におけるそれぞれの主要な農業用水施設が登録されていて、地域における同遺産に対する意識は高く、今後どのように活用すべきかの関心も大きい。そこで、熊本でのAPWS4を契機にして、登録施設が一堂に会して、登録の意義や活用の方法を議論することになっている。シンポジウムを中心にし、終了後は各登録施設の地域での農泊を含め、ヘリテージツーリズムの取組みとも合わせて、関係管理組織の交流が進められる。また、この機会を利用して、国内の全登録施設の連絡協議会が改めて結成される運びとなっている。

4 農業・農村の水に関わるSDGsとAPWS4の議論

 APWS4のねらいは「質の高いインフラ」の整備に向けての展望と行動の議論とリーダーシップによる発信と実行である。また、議論の枠組みの設定には、国連のアジェンダ2030とSDGsが強く意識され、それが反映されたものとなっている。

 SDGsのゴールと各目標のターゲットにおいて、「インフラ」に直接かかわるのは、目標9の「強靱(レジリエント)なインフラ構築~包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」であり、水と農業・農村開発に直接関わるターゲットは、①地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靱(レジリエント)なインフラを開発、②インフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上、及び③開発途上国における持続可能かつレジリエントなインフラ開発を促進、の3つである。

 したがって、APWS4では、農業・農村開発に関わる課題だけでなく、全般を通して、水に直接関わるターゲットを意識した議論が展開されることになる。

 水の確保や安定といった、資源の活用を通して実現すべき農業や農村については、土地資源の改善などと合わせて、SDGsでは飢餓・食料安全保障・農業に関する目標2「飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する」において、①女性、先住民、家族農家、牧畜民及び漁業者をはじめとする小規模食料生産者の農業生産性及び所得を倍増、②持続可能な食料生産システムを確保し、レジリエントな農業を実践、及び③農村インフラ、農業研究・普及サービス、技術開発及び植物・家畜のジーン・バンクへの投資の拡大といったターゲットとして、農業生産性の倍増や持続可能でレジリアントな農業生産の実践という形で規定される。そこでは、「従来型」ともいえる農業基盤整備の必要性の認識は明確に継承されている。農業や農村における水は、農業生産と農村生活の基本的な要素であるだけでなく、食料生産と農村社会の安定化を通して環境保全や国全体の産業と社会の安定化をもたらすことから、目標6「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」にある水を直接の対象とした目標だけでなく、目標1「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」、目標2(飢餓、農業)、目標7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネル ギーへのアクセスを確保する」、目標9(インフラ整備)、目標11「持続可能な生産消費形態を確保す る」などを含めて、全ての目標に密接に関わっている。APWS4でも、こうした経済・社会・環境に関わる持続可能性の議論の過程の様々な局面で、農業・農村開発や、農業用排水管理が登場することになると思われる。

 APWS4では、その検討の枠組みにある、質の高い成長の大事な要素としての「強靭性」についは、目標11のターゲット11.5「2030年までに、貧困層及び脆弱な立場にある人々の保護に焦点をあてながら、水関連災害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減し、世界の国内総生産比で直接的経済損失を大幅に減らす」が、まさに議論の焦点となり、目標15「陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処、ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する」のターゲット15.3「2030年までに、砂漠化に対処し、砂漠化、干ばつ及び洪水の影響を受けた土地などの劣化した土地と土壌を回復し、土地劣化に荷担しない世界の達成に尽力する」も常に視野に入れた議論が必要となる。さらに、目標13「気 候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」も、APWS4のコンセプトにも明記されるように、農業・農村開発を含め、すべての議論において被さってくる検討課題となる。

 なお、サミットの意義と、アジア・太平洋地域における農業・農村開発に対する日本の貢献を考えれば、目標6の①開発途上国における水と衛生分野での活動や計画を対象とした国際協力と能力構築支援を拡大、及び②水と衛生に関わる分野の管理向上への地域コミュニティの参加を支援・強化、といったターゲットは、明確な課題として議論の前提とすべきであろう。

5 まとめ~第4回アジア・太平洋水サミットへの期待と次の展開・課題

 第4回アジア・太平洋水サミットの議論の構成と、そこでの農業・農村開発や農業分野の水の問題に関わる議論のポイントを、国連SDGsとの関係を中心として整理した。(前項での整理は、渡邉紹裕[2019]に依拠している。)

 これまでの3回のAPWSにおいても、農業・農村開発や農業分野の水の問題は継続して議論されてきていて、日本は農水省を中心として分科会等での議論を主導してきた。とくに日本国内で開催された第1回では、その「Policy Brief」で、優先テーマC「Water For Development & Ecosystem(開発と生態系のための水」のKey Messages and Recommendations において、「 Re-invent and invest in agricultural water management to raise the productivity of water and decrease the environmental footprint of agricultural production」の項が設けられているように、1)食料安全保障のための水の重要性、2)天水及び灌漑農業における水の生産性の向上、3)灌漑用水の多面的機能、農村地域の福利や持続可能性の向上のための灌漑システムの改善、 4)関係分野の人材育成と施策評価の確立、 5)環境への負の影響の削減のための模範的事例の適用、などが詳細に議論された。

 また、第3回でも同様に農水省やINWEPF(国際水田・水環境ネットワーク)などの国際機関が、継続して議論を進めて、発出された「ヤンゴン宣言」においては、「健全な水循環の管理」について、「灌漑排水における水の生産性向上のための施策を講じ、食料の安全保障と持続可能な農業を実現する」ことが、明確に謳われている。

 基本的には、農業生産の生産性向上と農村環境の改善のための、水利用効率の改善を中心とする、農業・農村における水に関わる具体的な課題は、アジア・太平洋地域はもちろん、世界的にもなお継続している。そこでは、現時点では、国連SDGsに示されるような「持続可能性」が基本的な目標として掲げられ、国際的にも明確な目標や定量的な指標を持って進展が目指されている。そして、気候変動の影響評価と、適応策の確立、責任ある緩和策の実行が、確実に要請の強さを増しながら加わっている。一方では、最新の情報関係技術を含めた革新的テクノロジーの活用が、「スマート農業」「スマート水管理」などとして適用が拡大するレベルにまで現実化している。

 こうした継続する課題や潮流の中で、APWS4における農業・農村開発や農業分野の水問題が議論されることになる。そこで、何かこれまでとは異なる展開や成果、その端緒が開かれるのかが注目される。あるいは、求められることになる。

 APWS4での「水と食料」分科会は、既に記したように、農水省農村振興局が共同主催者となり、「農業の水生産性向上に資する適切な水管理方法やその技術の適用」が討議される見込みである。まさに、「継続する基本課題へ休みなく取組むこと」になり、「着実な成果」が期待される。とくに、水の生産性 についてのSDGsの評価指標についての議論がなされることが予想される。SDGsでは、ターゲット6.4で「2030年までに、全セクターにおいて水の利用効率を大幅に改善し、淡水の持続可能な採取及び供給を確保し水不足に対処するとともに、水不足に悩む人々の数を大幅に減少させる。」が目指されている。その具体的な指標としては「灌漑農業水利用効率=農業粗生産額/農業セクター取水量」が示されている。その水田農業・水田灌漑への適用は、アジアの水田灌漑の関係者を中心に、多面的機能評価や広域水収支評価などの視点から問題視されている。APWS4の分科会でも、その認識や指標の限界、現実的な対応策と国際的な理解醸成の方策、などが議論されると思われる。これも明確な成果が期待される。

 こうした詳細な議論は、サミットの取りまとめの「宣言」などでは、第3回の宣言のように「灌漑排水における水の生産性向上」「食料の安全保障と持 続可能な農業の実現」といった一般的で抽象的な表 現にまとめられてしまうだろう。これは、「サミット」の性格や成立ちを考えれば当然のことかと考えるが、やはり、明確で斬新な「キーワード」のインプット には注力すべきであろう。そして、分科会や取りまとめの議論が、広く関係者に理解・共有され、国際協力の場で具体的に意義を発揮し、国際機関の活動や援助にも反映され、さらには、大学や研究機関などアカデミアとも課題を共創することが、より重要なこととして意識されるべきであろう。

 第4回アジア・太平洋水サミットは、新型コロナウィルス感染症の感染状況の変化で、開催形態はなお調整が図られるものと思われる。どのような形態となっても、当初のねらいに沿った議論が行われ、先につながるものとなることを期待し、また関係するものとしてその実現に努力する所存である。


[引用文献]
1)外務省(2015):仮訳 我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ, https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf
2)渡邉紹裕(2019):国際的枠組みを踏まえた農村開発における水管理の方向, ARDEC No.60
3)外務省国際協力局(2020):持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割
4)第4回アジア・太平洋水サミット第5回合同実行員会資料(2021)


前のページに戻る