令和2年度の海外業務の取組

 当研究所の国際水土グループでは、農林水産省などの補助事業や業務受託により、①モデル的な圃場(ほじょう整備の実証調査事業、②国際かんがい排水委員会(ICID)で活動する国内関係者の支援、③国際交流セミナーの開催などを実施している。ここでは、令和2年度の当グループの業務について簡単に紹介する。なお、本ARDEC誌の編集・発行作業にもあたっている。

 令和2年度は、COVID-19の世界的な拡大を受けた海外渡航制限のために、当研究所では海外での現地調査を全て中止した。また、ICIDやINWEPFなどに関連する国際会議の多くが延期されたり開催形式がオンラインに変更されたりした。当研究所が毎年携わってきた、各国との国際交流事業についても全て延期または中止となった。このような状況であったために、当研究所の海外業務については、年度当初の計画の大幅な変更を余儀なくされた。しかしながら、オンライン会議の活用や現地コンサルタントの協力を得て、一部の調査を実施することができた。

 前63号でも紹介した、ベトナムにおけるモデル圃場整備調査事業については、ベトナム農業農村開発省水利研究所と頻繁にオンライン会議を開催し、担当者間の意思疎通に努め、無事に工事着手することができた。昨秋、多くの台風がベトナムに来襲し、モデル圃場の周辺でも(たん水被害が生じたため、工事着手は予定より遅れ工期も延びているが、1月には予定の工事を概ね完了し、農家は稲の作付けを開始している。当初は集落の16haをモデル圃場として整備を行う予定であったが、集落全体で農地を整備したいという要望があがり、最終的には31haの圃場整備が実施されることとなった。来年度には工事や交換分合のフォローアップを行い、事業効果を分析する予定である。

 
写真 モデル圃場整備工事の様子
写真 モデル圃場整備工事の様子

 ICIDは、かんがい排水にかかる科学的知見を集約して、食料生産を強化することを目的として設立された国際NGOである。日本からは、ICID日本国内委員会が代表として参加しており、当研究所では国内委員が円滑に活動できるよう、資料収集やロジ面の支援を行っている。昨年は、9月にシドニーにおいて、ICIDの運営方針を議論する国際執行理事会(IEC)が開催される予定であったが、オンライン形式で12月に開催された。IECでは、会長や副会長の改選、今後の会議のスケジュールの確認などが行われた。

 当研究所には、ICID日本国内委員会の活動を支援するための組織である日本ICID協会の事務局が設置されている。日本ICID協会では、毎年、海外でも活躍している農業農村開発分野の研究者や技術者を招いた講演会や、本協会内に設立した若手かんがい技術者フォーラム(WG-YPF)の勉強会などを開催している。講演会については、昨年6月に開催する予定であったが、本年3月にオンラインで開催する予定に変更した。WG-YPFの勉強会についても、今年度は現地視察を行わずにオンライン形式とし、2月10日(水)に開催した。勉強会では、流域治水の取組が注目を集めていることを踏まえ、筑波大学の佐藤政良名誉教授に河川水害回避への農地の役割について講演していただくとともに、田んぼダムの役割などについてWG-YPF会員や外部講師に発表していただいた。

 来年度は、スリランカにおけるモデル圃場整備、今年度実施できなかった国際交流事業などに取り組む計画である。今年度は、オンライン会議などにより現地調査をある程度代替できたが、それが2年間に及ぶと業務のノウハウや人的なネットワークが失われてしまうことが懸念される。一日も早くコロナ禍が収束することを祈るばかりである。

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