干ばつ常襲地帯における
食料安全保障へのレジリアンス構築
-ザンビア南部州でのソルガム再興のための普及試行-

一般財団法人 地球・人間環境フォーラム 研究推進ユニット 研究官 宮㟢英寿
青森公立大学地域連携センター 専任研究員 石本雄大
ザンビア農業研究所 研究官 ジョン・バンダ
京都大学大学院農学研究科 教授 梅津千恵子

1.はじめに

 筆者らは半乾燥熱帯地域の自給的農村世帯にとっての社会・生態システムのレジリアンスを、干ばつや洪水などの環境変動に対する食料安全保障のためのレジリアンス(梅津 2013)とし、ザンビア南部州において実証研究を進めてきた

 2015年から、干ばつに対するレジリアンスの高い農業生産システムを構築するために、トウモロコシのモノカルチャーが行われている同地域において、そのトウモロコシよりも耐乾性の高いソルガム栽培の再興方策を立案し、ソルガム普及による主食作物栽培における食料安全保障上のリスク低減だけでなく、生計向上も加味したレジリアンスの高い農村社会を構築するべく取り組んでいる。

 本稿では、ザンビア南部州の干ばつ常襲地帯農村部で小規模なソルガムの普及試行を行った経緯、種子受領世帯からの意見を受けて解明した点、今後の展開を報告し、食料安全保障へのレジリアンス構築を考察する。


2.対象地域の特徴と暮らし

(1)降水量

 ザンビア南部州は、降水量が800㎜以下の農業生態区分に属する(MACO 2004)。衛星データから推定された南部州の降水量(FAO 2020a)から、1995年から2019年の雨期(10月から4月)の平均年間降水量は740±152 (標準偏差)㎜であった(図1)。最小値は1997年の422㎜で、最大値は2005年の956㎜だったので、その差は2.3倍に及ぶ。平均値からの乖離(かいりを変動とすると、年間降水量が平均年間降水量を下回った回数は11回(44%)あり、そのうち、5回(20%)は−1標準偏差以下であった。他方、上回った14回(56%)のうち、+1標準偏差を超えたのは4回(16%)であった。傾向として、1995年から2007年は変動が大きく、2008年からは安定していたものの、2016年以降変動が大きくなっている。

図1 ザンビア南部州の年間降水量とトウモロコシの単収の変動
図1 ザンビア南部州の年間降水量とトウモロコシの単収の変動
出所:FAO(2020a)およびCSO(2020)より筆者作成。

(2)生態環境

 対象地域は、カリバ湖岸の平坦(へいたん地のサイトA、ザンベジエスカープメント中腹のサイトB、ザンビア高地南端のサイトCの農村部である(以下、各サイトをA、B、Cと略記)。A、B、Cの標高は500m、750m、1000mで、各10km以上離れている。標高の高いCは他サイトより年間降水量が多く、気温は低い。標高の低いAの年間降水量は少なく、気温が高いため、他サイトよりも干ばつのリスクが高い。このように、各サイトは降水、気温、植生などの異なる生態環境にある。対象地域住民の民族集団はトンガである。

(3)農業

 A、B、Cにおける主要栽培作物はトウモロコシで、2007年雨期の全作付面積に占める割合は、各53.3%、76.2%、77.9%であった(Miyazaki et al. 2016)。次に割合の大きい作物はAとBではワタ、Cではサツマイモで、各42.1%、11.6%、9.3%であった。Cでワタは3位の8.7%であった。A、Bの3位はソルガムで各2.7%、5.4%であった。このように、全作付面積の90%以上を、上位3位までのトウモロコシ、ワタ、サツマイモ、ソルガムが占めていた。ワタは換金作物なので、自給穀物でみると全サイトでトウモロコシのモノカルチャーが行われているといえる。


3.気候変動への食料生産のレジリアンス

(1)降水量とトウモロコシの単収との関係

 南部州における2004年から2019年のトウモロコシの単収は2.2±0.4 (標準偏差)t /haであった(CSO 2020)(図1)。2005年と2007年の年間降水量はおよそ同量であるが、2007年のトウモロコシの単収は1.7 t /haで2005年の2.4 t /haと比べて0.7 t /haも低い。反対に2004年、2007年、2017年、2018年のようにトウモロコシの単収が1.5 t /haから1.7 t /haの間で大きな差がないにもかかわらず、各年の降水量は439㎜から955㎜と非常に差が大きい(図1)。

 年内の降水パターンのトウモロコシ単収への影響をみるために、1995年から2019年までの平均月別降水量と2004年、2005年、2007年、2017年、2018年の月別降水量を図2に示した。2005年と2007年を比較すると、2005年の月別降水量は平均月別降水量と同様に1月をピークにして前年10月から、当該年4月まで左右対称の形を示している。一方、2007年の月別降水量は12月と1月に平均値からの乖離が+1標準偏差以上あった。この多雨がトウモロコシ生産に大きな被害を与えた(櫻井 2011Miyazaki et al. 2016)。2004年、2017年、2018年の不作は、2004年は年間降水量が少なかったうえ、11月の低降水量と、12月の高降水量による初期生育不良が要因であったと考えられる。2017年は平均からの乖離は少ないが、1月の低降水量が原因で、2018年は低年間降水量、干ばつが原因である(FAO 2020c)。このように、年内の降水パターンが不安定なので、トウモロコシの単収も安定しない。

図2 ザンビア南部州の月別降水量
図2 ザンビア南部州の月別降水量
出所:FAO(2020a)より筆者作成。

(2)干ばつに対するレジリアンスとその限界

 干ばつによる不作は、ドライスペル(雨期の途中に微小雨日や無降水日が連続すること)で作物が衰弱・枯死すること、あるいは結実しないことや、雨期を通じて降水が不十分(以下、不十分な降水)で作物生育が不良になることで生じる。干ばつによる不作への農業面でのレジリアンスを考えるうえで、とくに難しいのは、不十分な降水である。というのは、ドライスペルの場合は、その後に十分な雨が降る可能性もあるため、多雨の場合と同様に再播種(はしゅや、水要求量の少ない作物への転換が考えられる(Miyazaki et al. 2016)からである。しかし、不十分な降水のときには、植物の生育が抑制されるので作物生産、あるいはウシなどの家畜飼料の入手が困難になったりもする。


4.干ばつへの農業面でのレジリアンス強化のための事前調査

 干ばつに対するレジリアンスの高い農業生産システムを構築する方策を立案するために、2016年1月から2月にかけて、Aの2か村、Bの1か村、Cの1か村の計4か村において、住民とのグループディスカッションを実施した。議題は、「少雨年あるいは少雨が予想される年に栽培したい作物とその理由、および問題点」である。

(1)栽培したい作物

 全てのサイトで早生トウモロコシとソルガムが回答され、AとBではサツマイモ、ヒマワリ、ワタも回答された。「雨期が短くても育つ」あるいは「雨が少なくても育つ」といった作物の水要求量の低さに関することが理由にあげられ、また、「栽培期間が短いこと」が重要であると考えられていることがわかった。1920−30年代にはソルガムもトウモロコシと同様の規模で栽培されていた(Colson 1959)が、現在はほとんど栽培されていない。また、ヒマワリは伝統的には搾油用に栽培されていたが、食用油の入手が容易になって、栽培する世帯が減少している。サツマイモは食料としても換金作物としても利用され、非常に有効な作物である(Miyazaki et al. 2013)が、Cでしか栽培されていない。

(2)栽培したい作物の問題点

 対象地域におけるトウモロコシ栽培での播種は、自家採取したものを種子とする世帯と購入した改良品種種子を用いる世帯がある。前者では、その理由に「毎年、改良品種の種子と化学肥料を購入するだけの経済力が無い」、あるいは「改良品種の種子は自家採取して栽培すると、年々収量が減少するので購入したくない」という回答があげられた。また、伝統的主食作物であったソルガム栽培が減少した理由として、「鳥害および製粉までの手間」が指摘された。サツマイモがAとBで栽培されていない理由には、「苗として利用されるツルの乾期中の保存問題」があげられ、加えて、Bでは「ヒヒによる獣害」があげられた。ワタ栽培世帯は、その「国際市場の価格変動の影響」を受けている。また、「化学肥料施用や農薬散布を頻繁にする必要」があり、高齢者世帯には栽培が難しい。

 複数の作物が選択肢としてあげられたが、食料安全保障としてのレジリアンス構築において主食作物栽培を軸に据え、トウモロコシのモノカルチャーからの脱却を考えると、耐乾性の高いソルガムの再興が干ばつへの農業面でのレジリアンスを高めるであろうとの結論に至った。これはトウモロコシからソルガムへ完全に移行するのではなく、両作物を栽培する農業生産システムの構築を意味する。


5.ソルガムの普及試行

(1)普及前調査

 ソルガム普及に向けて、その栽培の実態を知るために栽培の有無、ソルガムの未栽培世帯においてはその理由についての聞き取り調査を2016年の作期前に実施した(表1)。

表1 ソルガムの普及取組に先がけての聞き取り調査
全体
(n=208)
サイトA(n=126) サイトB(n=32) サイトC(n=50)
世帯数 世帯数 世帯数 世帯数
ソルガム栽培世帯 6.3 13  4.0 5  25.0 8  0.0 0 
ソルガム栽培をしていない理由 
種子がない
鳥害とその対策
興味がない
耕地不足
 
77.4
19.0
7.7
1.5
 
151 
37 
15 
3 
 
67.8
24.8
12.4
2.5
 
82 
30 
15 
3 
 
79.2
29.2
0.0
0.0
 
19 
7 
0 
0 
 
100.0
0.0
0.0
0.0

50 
0 
0 
0 

 ソルガムを栽培している世帯数は13で、その割合は6.3%で、サイト別にみるとBでは25.0%と最多で、一方でCには栽培世帯はなかった。ソルガムを栽培していない理由の最多回答は、「種子がない」、「種子の入手が困難」といった種子の入手にかかわるものが77.4%もあった。次に、「鳥害」、「鳥追いが困難」、「鳥追いのための人材確保が困難」など、鳥害とその対策に関する理由が19.0%であった。

(2)ソルガムの普及

 2016年11月中下旬に袋詰めにしたソルガム種子500gをA、B、Cで合計45世帯に配布した。種子は販売せず、受領世帯が収穫後に受領した種子の倍量(ここでは1kgとなる)の穀実を返却するシステムを用いた。この穀実の返却システムを採用した理由は、対象地域の伝統的慣習であり、住民に受け入れられやすいであろうと考えたからである。

(3)普及試行から明らかになった問題点

 種子受領世帯の栽培後の意見から「①播種期」「②栽培期」「③収穫期」および「④その後の結果」を以下に記し、本格的なソルガムの普及を実施する際の問題点を明らかにする(表1)。

①播種期

 種子を受領した45世帯のうち播種したのは39世帯であった。播種しなかった理由は、「ソルガム栽培に割く耕地が不足した」が2世帯、「耕作準備が整わなかった」、「受領品種の栽培を未経験」、「夫の判断」が各1世帯である(無回答が1世帯)。

 対象地域でのソルガムの播種方法には、雨期が近づくと事前に種子を播種し雨期を待つ方法と、雨期が始まり十分な降水を受け、土壌が水分を含んだ後に播種する方法がある。「耕作準備が整わなかった」と回答した世帯では、前者の予定であったが、播種前に雨に降られたと推察される。

 「ソルガム栽培に割く耕地が不足した」、「受領品種の栽培を未経験」は、受領したときはソルガムを栽培予定であったが、気変わりが生じたことになる。興味深い回答は前者で、所有する耕地面積に制約があるなか、トウモロコシの種子が十分に確保できたため、ソルガム栽培用の土地が不足し播種できなかったのである。このことから、この世帯にとってソルガムは、補完的な位置づけであったと考えられる。

 「夫の判断」も興味深い回答で、種子配布時に対応・受領したのが夫人で、播種する気があったものの、その後、播種期になり、夫に反対され播種できなかったそうである。

②栽培期

 調査世帯から「受領した種子量が少ない」という意見があった。各世帯の平均作付面積から、500gのソルガム種子で約570㎡栽培できることが明らかになったが、これでは満足できないということである。詳しく聞くと、ここから見込める収穫量では、鳥追いに労力を割くのが難しいそうである。2004年から2019年のソルガムの単収が0.7 t /ha(CSO 2020)なので、570㎡から得られる収穫量は約40kgとなる。ザンビアの成人1人が1日に主食から摂取するエネルギー量1364kcal(FAO 2020b)とソルガム100gあたりのエネルギー量359kcal(NFNC 2009)から、ソルガム40kgは成人105日分の主食に相当するのだが、これでは鳥追いへの労力が割に合わないということだろう。確かに登熟期から収穫までの約1か月間、毎日、日が昇ってから日没まで、鳥を追いながら畑で過ごすその苦労は想像もつかない。

 聞き取りの結果、現地の単位で1lima(≒2500㎡)に必要な種子量であれば満足できるということであった。1limaに必要な種子量はおよそ2200gで、先と同様の計算で、収穫量は成人13か月分弱の主食に相当する。多少の不作の年でも1か月間の鳥追いを頑張れば、1年間にわたって主食が得られるとなると、高いモチベーションになるのだろう。

③収穫期

 収穫量に対する感想(回答は39世帯)では、「良」が23.1%(9世帯)、「不良」が17.9%(7世帯)、「収穫無」が38.5%(15世帯)だった(無回答が8世帯)。さらに「不良」と「収穫無」の理由として(自由回答)、「多雨」25.6%(10世帯)、「鳥害」10.3%(4世帯)、「虫害」10.3%(4世帯)、「家畜による食害」5.1%(2世帯)、「播種の遅れ」5.1%(2世帯)、「体調不良」2.6%(1世帯)があげられた。「多雨」の回答が多かったのは、雨期の初めに降水が続き発芽率が低下した、または実生が湿害を受けたためである。A周辺では、現地語トンガで Chimvwinyeと呼ばれるカマドウマ((かまど馬)に似た(はねのない昆虫が大発生し、ソルガムのみならず全ての作物が被害にあった。鳥追いは生育状況に応じて行われるので、多雨や虫害・食害、降水が続き播種時期が遅れたこと、体調不良により除草ができなかったことにより生育状況が悪くなると、鳥追いに労力を割かなくなるので、収穫がさらに悪化するという悪循環に陥る。

④その後の結果

 2018年作期に、2016年にソルガム種子を受領した世帯で、2017年、2018年の播種世帯数と作付面積に関する追調査を実施した。2017年に播種した世帯はAの4世帯だけで、その総面積は9588㎡であった。2017年に播種しなかった世帯は、保存していた種子が虫やネズミの食害で播種できず、または鳥追いに嫌気がさしたことを理由としてあげた。4世帯のうち1世帯は、2016年の種子受領世帯から、種子を譲り受けて栽培した世帯である。さらに、継続して2018年も栽培していた世帯は、3世帯で総面積6710㎡であった。2017年と2018年の平均作付面積は、2328㎡で、先述の満足のいく作付面積2500㎡、つまり1limaと酷似していた。確認したところ、年齢や性別にもよるが、大人1名から2名で鳥追いができる範囲が、まさに同程度の面積になることがわかった。


6.おわりに

 以上のことから、対象地域でのソルガム普及を妨げる最大の要因は、鳥害とその対策である鳥追いであることがわかった。これは、2013年にリリースされた穀実の赤いソルガム種のZSV36により克服できそうである。ZSV36は鳥害耐性が高く(宮㟢ら 2020a)、単収も3.7 t /haと報告(Mbulwe et al 2015)されており収量性も高い、また赤ソルガムにもかかわらず、タンニンによる苦みも少ない(宮㟢ら 2020a)ので主食用に適した非常に優良な品種である。次に、普及の際の配布量は、大人1名から2名で鳥追いができる最適面積1limaの播種に必要な2.2kgが、鳥追い人の労力を最大限に生かすことができるので望ましいことが明らかになった。

 最後に、ソルガム普及政策の注意点を論じる。種子の保管については、(すすかけや灰と混ぜるなどの伝統的な方法に加えて、薬品の利用も推奨する。また、コミュニティで種子倉庫を建設し、返却された穀実の一部を保管することで、種子が不足した世帯や気候変動による被害で再播種が必要になった際に備える必要がある。

 普及後の課題として、換金作物としての販路形成を考える必要がある。ソルガムはトウモロコシよりも販売価格が高い(FAO 2020b)が、流通網が確立されておらず、市場が限られている(Hamukwala 2010)。しかし、都市部では、近年、健康食材として需要があり、ビールの原料としての利用もある(宮㟢ら 2020b)ので、地域内で一定量の生産が見込めるようになれば、流通網が確立できるのではと考える。

 このように、ソルガム普及による主食作物栽培における食料安全保障上のリスク低減だけでなく、虫やネズミの食害リスクに備えた種子の保存や換金作物化による生計向上を実現することで、レジリアンスの高い農村社会が構築されるのではないだろうか。


写真1 ソルガム種子の配布に参加する住民たち(2019年11月)
写真1 ソルガム種子の配布に参加する住民たち(2019年11月)

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