トピック4[世界水システム遺産プログラム(WSH:World Water System Heritage Program)の創設]
 国連教育科学文化機関(UNESCO)の世界遺産もICIDの世界かんがい施設遺産も、目に見えるハードの施設を対象としており、ハード施設がその機能を発揮するための諸法制度、組織体制、社会慣習などのソフトの社会資本には光が当てられていない。ソフトの社会資本について、我が国の例を挙げれば、農業用水では土地改良区、洪水対策では水防組合における、それぞれの組織体制とその運営ルールとなる。
 筆者は2013年当時、世界水会議の理事を務めていた山岡和純博士とともに、このソフトの社会資本の価値に着目し、世界水フォーラムの場で認定する水の遺産制度とすべく、ICIDから世界水会議に提案されるよう働きかけた。ICID内の制度としなかったのは、ICIDが世界の水社会に貢献しようとする意思を行動で示すとともに、広報効果の高い世界水フォーラムの場を活用するべきだとの考えによる。
 提案から幾度かの曲折を経て、昨年4月の第8回世界水フォーラムの場において、日本からの2件を含む、3件の認定が行われた。


トピック5[UNESCOによる、河川流域における総合水資源管理(IWRM)ガイドラインの作成]
 UNESCO は、2008年に国土交通省水資源部からIWRMガイドラインの作成を委託され、各国の専門家からなる運営委員会を設置して検討を進めた。筆者は、(独)水資源機構副理事長の立場で、この委員会の共同委員長として作業を主導した。
 まず、基本方針として、流量変化の大きい我が国の河川での経験が活かされ評価を受けることや、水利調整に当たり灌漑などの調整される側の視点を重視することなどを定めた。そのうえで、流域の発展段階に応じて対策を進めるという、らせん型の成長モデルの概念を導入するとともに、事例の奥に潜む解決へのカギを掘下げてわかり易く提示するなど、従来のガイドラインにない独自性を持たせるよう工夫した。
 ガイドラインは、2009年3月にトルコのイスタンブールで開かれた第5回世界水フォーラムの場で、当時、UNESCO事務局長であった松浦晃一郎氏から、国連の「水と衛生に関する諮問委員会」の名誉総裁を務めておられた皇太子徳仁親王殿下に贈呈する形で公表された。