編集後記

 「1965年秋、当時のフリーマン農務長官の指示でインドの新農業政策の評価のためにニューデリーを訪れました。そこで情報収集をしていると、全土的に大干ばつの予兆が見出され、4億8000万の国民の飢餓を回避するには1000万〜1500万tのコムギが不足すると推定しました。その旨の長官への報告に対し、ジョンソン大統領は、緊急支援は実施するが、条件はインドが食料生産力増強に向けた農業改革を期限内に達成することで、履行に懸念が生じればコムギの移送を中断するとの決定をしました。当時、メキシコではN.ボーローグ博士が半矮性(はんわいせい高収量品種を作出し、一方、インドの化学肥料生産は民営化による増産が見込めました。そこで、その新品種の種子をメキシコから船舶で大量に導入し、大増産への取組が始まり、生産量倍増は7年で実現しました。」これはアメリカの農学者で、世界的な環境経済学者でもあったL.ブラウンの自伝での記述で、まさに「緑の革命」です。

 ボーローグ博士は奇跡の品種の功績により、1970年にノーベル平和賞を授与されましたが、この品種をたどると岩手県立農事試験場で稲塚権次郎(1897〜1988)が作出し、35年に農林登録された「小麦農林10号」こそが奇跡の源流なのです。

 さて、現代の育種技術は格段の進歩を遂げています。日本は「イネの全ゲノム解読」に中心的役割を果たしました。植物科学をイネという世界の主要穀物の増産に結びつけてゆくポテンシャルは十二分にあります。一方、生産力増強のみならず、栄養摂取面での実効性や農村地域の生活改善といった、いわばソフト面も要因として重視されてゆくのが、第二の「緑の革命」の特質の1つになりそうです。また、先の「緑の革命」に光と影があったならば、次の第二の「緑の革命」は影に光を射すようなロードマップも求められるでしょう。


編集委員

委員長  松井俊英
委 員  内村 求  中 達雄


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パラオ  写真提供:JICA/鈴木革、
パラオ  写真提供:JICA/鈴木革


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