発展途上国における
天候インデックス保険の現状と課題

一橋大学 経済研究所 教授 櫻井武司

1.はじめに

 農業生産は天候の影響を受けるのであるから、天候の完全予測が難しい以上、リスクは避けがたい。先進国においては、「天候の影響を受けにくい品種の開発」、「灌漑の実施」、「天候予測の精度向上」といった技術的な対応が行われている。さらに、発生した被害に対しては、作物保険などによって、事後的に経済的影響を緩和する制度が整備されている。他方、発展途上国では、先進国のようにリスクを軽減する技術が普及していないことに加えて、事後的に対処する制度も未整備なため、天候リスクが農民の生活に直結する。

 そのような環境にある農民は、よく知られているように、インフォーマルな自己保険によりリスクに備えている。つまり、事前の対策として、作付けの多様化(作目や品種を増やす、作付け時期を変える)、耕地の分散化、家畜など換金性の高い資産の蓄積、いざというとき助けてくれる親戚、友人、NGO、公的機関などとのコネ(いわゆる社会関係資本)の強化、非農業所得の比率を日常的に高めておくなどがある。これらの自己保険は、農業生産に被害が発生したときに、資産の売却、援助の受け取り、非農業所得の増加などを通じて所得を補填(ほてん)する役割を果たし、不完全ながら有効性が確認されている。

 では、何が問題なのであろうか。一言でいうならば、こうした自己保険の保険料が安くはないということである。ここでいう自己保険とは、物的資本、人的資本、社会関係資本に投資をすることである。こうした資本を蓄積できない貧困層は、自己保険が不足しているため天候リスクに対して脆弱である。他方、富裕層はこうした資本を蓄積していることから自己保険を備えていると考えられるが、もっと安い保険が利用できるなら、自己保険として蓄えている資本をより生産性の高い部門に投資できるはずである。また、リスクを軽減する目的で行う作付けの多様化や耕地の分散化は、それ自体に支出が伴うものではないが、農業生産性の低下という保険料を支払っていることに等しい。もし、この生産性の犠牲よりも安い保険が利用できるなら、農家は保険を購入することで生産性を高めることができるであろう。
 このように、自己保険の保険料が高額であることが貧困の罠となり、発展途上国の農民を貧困状態にとどめていると考えられる。したがって、現状の自己保険よりも安い保険を提供することは、貧困削減を課題とする発展途上国にとって極めて重要である。また、被害が発生するたびに救援をする当該国政府や国際的な援助機関の立場からも、保険という自助努力が有効であれば、救援に要する費用を節約できることになる。本稿で紹介する「天候インデックス保険」は、そのような目的で考案され、実用化されたものである。

2.天候インデックス保険とは

 天候インデックス保険とは、特定の天候に関する観測値(降水量、気温など)を作物収量のインデックスとして利用し、インデックスに基づき保険金の支払いを決定する保険である。天候インデックス保険が格安の保険となりうる事由については、なぜ通常の作物保険が割高なのかを説明する必要があろう。通常の作物保険に内在する問題を経済学用語によってまとめると、「モラルハザード」、「逆選抜」、「取引費用」の3つになる。「モラルハザード」と「逆選抜」については囲みに記してある。

 「取引費用」については、従来型の作物保険で問題となるのは、発生した被害の査定に要する費用である。保険契約者の農地で実際に発生した被害に基づき保険金の支払いを決定するため、査定はどうしても必要であり、その費用が保険料に上乗せされることになる。また査定を受ける必要があるため、保険を請求してから保険金を受け取るまでに時間がかかる場合が多い。支払いまでに時間がかかるほど、農民からみれば保険の費用が高いことになる。1回当たりの被害査定に要する費用がほぼ一定と考えると、小口の契約では取引費用の割合が高く、保険料が割高になる。

 従来型の作物保険はこのように保険料が割高になる問題が内在するため、先進国で実施されている作物保険の多くは、政府からの補助金が投入されている。天候インデックス保険は、従来型の作物保険に内在するこうした問題を解決したものである。囲み中の表に天候インデックス保険をあてはめると、次のようになる。地点Qにある測候所で観測した年間降水量を、地点P、Q、Rに共通の「インデックス」とする。保険会社は自社の有する情報に従い、地点Qにある測候所の年間降水量が600mm未満になったとき干ばつ年と認定して保険金を支払う。年間降水量が600mm未満になる確率は50%なので、保険会社の定義による干ばつ年が発生する確率は50%である。ここでは保険数理的に公正な保険を想定し、保険料率を50%とする。このような設定の下、各地点にそれぞれの平均値に等しい年間降水量があったとする。すると、インデックスの数値(すなわち地点Qの年間降水量)は600mmなので、判定は「平年」である。この判定は3地点に共通であり、すべての地点で保険金は支払われない。

 天候インデックス保険の利点は以下のようにまとめられる。まず「モラルハザード」の問題がない。保険金の支払いがインデックスによってのみ決まるので、個々の農民には支払いについて操作することができないからである。たとえば、地点Qの農家は、干ばつ回避の努力をしようが耕作放棄をしようが、保険会社の判定は「平年」であり、保険金の支払いはない。さらに、被害発生頻度の高い農家ばかりが保険契約をするために保険会社に損失を与えるという意味での「逆選抜」も存在しない。そもそも天候インデックス保険は、被害発生確率の高い農家(表では地点Pの農家)が保険契約をしても、インデックスに基づく保険会社の保険金支払いに影響することはないからである。最後に、天候インデックス保険では、保険会社が個々の農家の農地で被害を査定する必要がなく、保険金の支払いも迅速になり、「取引費用」が大幅に軽減される。このような特長を持つ天候インデックス保険は、従来の作物保険と比べて保険料を格安に設定することが可能であると考えられる。

 しかし、問題点もある。をみれば気づくように、平均値に等しい年間降水量があった場合、地点Pの農家は干ばつ被害を受ける。しかし、この天候インデックス保険では地点Qの降水量に基づいて平年と判定し、地点Pの農家は保険金の支払いを受けることはできない。地点Pの干ばつ確率は地点Qの干ばつ確率よりも高いのであるから、地点Qの降水量に基づく天候インデックス保険では、この例のように地点Pの干ばつ被害は補償されない場合がある。そのため、地点Pの農家は地点Qの農家と比べてこの保険の需要が低いと予想される。逆に、地点Rの農家は、天候インデックス保険が干ばつ年と判定した年に、平年を経験する可能性がある。つまり、干ばつの被害が発生しないのに保険金を受け取れることになり、地点Rの農家は地点Qの農家と比べてこの保険の需要は高いであろう。

 このような天候インデックスと実際の被害の乖離は「ベーシスリスク」と呼ばれ、天候インデックス保険の構造上避けられないと認識されている。ベーシスリスクは、囲みで説明した従来型の作物保険の「逆選抜」と類似しているが、「逆選抜」では保険会社に損失が発生するのに対して、天候インデックス保険では保険会社には損失は発生せず、農民の保険需要に影響を与える。需要への影響は、上の例のように正の場合(保険需要を上昇させる)と負の場合(保険需要を低下させる)が考えられるが、通常は負の場合が問題とされる。すなわち、ベーシスリスクの存在が、天候インデックス保険の売上げが期待したほど伸びていない理由と考えられているのである。なお、をみればすぐに思いつくように、このようなベーシスリスクの解消のためには、地点Pと地点Rにも雨量計を設置すればよい。しかし、現実には各地点の中間に農家は無数に存在するため、雨量計の設置だけではベーシスリスクの問題は解消しないし、数を増していけば取引費用が低いという天候インデックス保険の利点が損なわれる。

3. 天候インデックス保険の実際例

 天候インデックス保険の販売は、試験的規模、研究目的のものを含めると2000年以降、世界中で相当な事例がみられる。インドのように商業的に大規模に発展した事例もある。しかし、最近のレビューによると、理論的な予測に反して、天候インデックス保険を購入する農民の数がなかなか増えていないとまとめられている(1, 2)

 インドは天候インデックス保険の実験と実用化のパイオニアである。たとえば、インドのマイクロファイナンスNGOであるBASIXは、インドとカナダの合弁の保険会社ICICI Lombardと協力して、世界銀行などの支援により2003年に天候インデックス保険を発売した。契約数は、初年度の230から2006年には1万1716にまで増えたが、その後伸び悩み2009年には8940である(3)。販売対象に選んだ各村で、購入者比率はずっと10%未満に留まったため、2010年を最後に保険の販売は中止した(1)。同じくインドで、日本の東京海上火災保険(現、東京海上日動火災保険)がインド農民肥料公社(IFFCO)と合弁で設立した保険会社IFFCO−TOKIOも2004年から天候インデックス保険の販売を開始した(4)。インドで発売されたこれらの天候インデックス保険は、実際の販売データに基づくさまざまな研究に貢献してきた。

 2007年になると、インド政府は天候インデックス保険に補助金を提供することを決定した。これは農民の保険料支払い額の50〜80%を政府が補助するというものであり、農民にとっては保険料の引き下げとなる。作物保険の販売のために政府が2002年に設立したインド農業保険公社(AIC)も2007年から天候インデックス保険の取り扱いを始めたため、同保険の利用者数は2007年以降、大幅に増加した。2009年の雨期に保険を利用した農民数は、AIC が113万人、ICICI Lombard が2万7000人、IFFCO−TOKIOが200人と報告されている(3)。この時点では出遅れたIFFCO−TOKIOではあるが、2012年までには累積で100万人の農民がこの保険を利用し、40万人が支払いを受けた(5)。他方で、AICの2012年までの累積利用者数は1200万人である(6)。ただし、購入を呼びかけた対象数が不明なため、購入者比率についてはわからない。

 タイでは、日本の損保ジャパンが国際協力銀行(当時)の協力で開発したタイ東北部の稲作農民向けの天候インデックス保険を、タイ国営の農業・農業協同組合銀行(BAAC)が2010年から本格的に販売を開始した*。損保ジャパンの発表によると、2010年の契約が1158件、2011年が6173件である(7)。BAACは肥料などの農業資材の購入のためのローンを多くの農民に提供しているので、BAACのローン利用者に対する比率でみれば保険の購入者比率はまだ小さいと考えられる。

 この点についてマラウィで行われた実験では、保険はクレジットの利用を促進しないという結果である(8)。これは、高収量トウモロコシ(メイズ)種子の販売に際して、クレジットだけを提供するグループと、クレジットに天候インデックス保険をセットにして提供するグループに無作為に振り分けて実験したところ、クレジットだけのグループのクレジット利用率は33%、保険付きクレジットのグループのクレジット利用率は18%だったというものである。この結果は、天候インデックス保険の購入者比率が低いことを示すものではないが、マラウィの農民が保険に価値を見出していない(踏み倒しても気にならないなど)可能性を意味する。しかし、同論文によると、種子の販売業者は、この実験の後、すべてのクレジットに保険をセットにすることを選んだ。つまり保険はクレジットを提供する側にメリットがあり、農民も結果として、高収量種子の購入を継続することができる。

 ケニアでは、シンジェンタ財団(農業資材の多国籍企業であるシンジェンタ社により設立)がケニアの保険会社UAPと協力して開発した天候インデックス保険(商品名Kilimo Salama)が2010年より販売されている。農民が種子や肥料を販売店から購入する際に保険を追加できるタイプの商品で、必ずしもクレジットにセットされているわけではない。2012年には近隣のルワンダを含めて約7万3000の農家に販売し、約1万件の保険金支払いがあったという(9)。こちらも分母が不明なので購入者比率はわからないが、短期間に急拡大したことはまちがいないだろう。


4. 天候インデックス保険の課題

(1)ベーシスリスク

 前節の冒頭で述べたように、天候インデックス保険については、予想に反して売上げが伸びないというのが共通の認識であり、その理由を解明するための研究が行われてきた。それによると、保険の購入を妨げる要因として、(1)購入資金の不足、(2)金融商品に関する知識の不足、(3)保険販売者への信頼感の不足、などが見出されている。これらは、天候インデックス保険に限らず、新技術、新商品を発展途上国の農村に普及する際に、つねに問題となる点である。そのせいもあり、天候インデックス保険が保険であるにもかかわらず、リスク愛好者ほど購入するという傾向も多くの研究で見出されている。ただし、このような傾向が見られるからといって、天候インデックス保険が売れないとは限らない。実際、筆者らがザンビアで行った販売実験では、購入口数との関係では上記と同様の傾向が見出されるが、購入を働きかけた農民の93%が天候インデックス保険を購入した(10)

 これに対して、ベーシスリスクは天候インデックス保険に固有の問題である。先行研究は、インデックスの基準となる測候所から距離が遠くに立地する農民ほど天候インデックス保険の購入が減少することを見出していて、ベーシスリスクが天候インデックス保険の普及を妨げる要因であるとしている。しかし、第2節で説明したように、ベーシスリスクは負になるとは限らず、正の場合もあるはずである。それに降水量や気温は地形の影響も受ける。したがって、測候所からの距離だけではベーシスリスクを捉えているとはいえないのであろう。そこで「実際に農家の農地でどれほどの雨量があるのか」、「農民は自分の農地の雨量と参照する測候所の雨量の違いを認識しているのかどうか」について、筆者らが参加した総合地球環境学研究所の実施した「レジリアンス・プロジェクト」では、ザンビア南部州の各農家の農地に自動雨量計を設置して、35〜50km離れた最寄りの測候所の雨量との乖離からベーシスリスクの実測を試みている(写真1)。

写真1 農民の農地に設置した自動雨量計、ザンビア南部州
写真1 農民の農地に設置した自動雨量計、ザンビア南部州

 農民がベーシスリスクをどの程度認識しているかはともかく、雨量計測ポイントが近くにあるほどベーシスリスクが小さくなることは確かであり、保険提供者は雨量計の設置を進めている。インド全体を保険の販売対象とするAICは「現時点で自動気象観測装置は5000か所に設置されているが、インド全体で天候インデックス保険を実施するには8000か所の自動気象観測装置と3万2000個の雨量計が必要である」と述べている(6)。IFFCO-TOKIOも「ベーシスリスクを減らすため、雨量計を10kmごとに設置する必要がある」としている(5)。ケニアのシンジェンタ財団の天候インデックス保険では、雨量計から15〜20km以内に農地を持つことが購入資格とされている(11)。シンジェンタ財団はケニアで天候インデックス保険を始めるにあたって、ケニア気象庁と協力して30か所に自動気象観測装置を設置した(12)。しかし、上に述べたように、距離だけではベーシスリスクを解消できない。そこでIFFCO-TOKIOは、衛星データから作成した植生インデックス(NDVI)と雨量を合わせたインデックスを作成し、ベーシスリスクをさらに減らすことを検討している。NDVIは、作物保険ではないが、ケニア北部の放牧地帯の家畜に対するインデックス保険に利用されている。草地の状態を衛星データから把握し、家畜死亡率を推計して保険金の支払いを決めるというものである(13,14)

 ベーシスリスクが天候インデックス保険の需要を低下させているかどうかはまだわからないが、雨量計がない場所では天候インデックス保険が販売できないため、自動雨量計の整備が保険販売の拡大には必要である。現状では疎らにしか測候所が存在しないサブサハラ・アフリカではとくにそうである。他方、インデックスの作成手法を高度化することでベーシスリスクを低減することはできるが、単純でわかりやすいという天候インデックス保険の特長を損ない、購入する農民の側にはかえって保険金支払い基準に関して「不透明感」が高まる可能性がある。しかし、インデックスの作成手法が保険需要に及ぼす影響については、まだほとんど研究されていない。

(2)価格

 冒頭に書いたように、天候インデックス保険の期待された特長は、従来の作物保険と比べて割安になり、政府が補助金を出せない発展途上国の小規模農家にも買えるということにあった。先進国では、補助金によって、農民にとって作物保険の保険料は低く抑えられている。2003年から2007年で、支払った作物保険の保険料に対する保険金支給額の比率は、アメリカ1.70、カナダ1.86、日本1.84である(1)。保険数理的に公正な保険だと仮定すると、支払うべき保険料のうち40〜50%を補助されていることになる。運営経費を上乗せすると、補助率はもっと高くなる。

 前節に書いたようにインドでは、政府が天候インデックス保険の保険料に50〜80%の補助金を支出しているために、加入者数が大幅に増加した。この補助率は先進国の例とほぼ一致している。つまり、天候インデックス保険は、補助金によって農民に安く提供しているが、政府にとっては必ずしも安くない保険である(ただし、インドの従来型の作物保険に対する補助金の割合が不明で、比較はできない)。

 タイの天候インデックス保険については、損保ジャパンの資料によると、464バーツの保険料の支払いで、通常の干ばつ(17%の確率で発生)の場合に1500バーツの支払い、深刻な干ばつ(3%の確率で発生)の場合に4000バーツの支払いである(ただし、現在は雨期を2期間に分けるなど、異なる保険設計となっている)。17%の確率で1500バーツ受け取る保険の期待保険金は255バーツ、3%の確率で4000バーツ受け取る保険の期待保険金は120バーツである。その合計の375バーツが保険数理的に公正な保険料であるから、89バーツが保険の運営経費にあたり、保険料に対する保険金支給率は約80%となる。補助金がない場合、当然ながら、この比率は最大でも100%であり、運営経費を考慮すれば100%を下回る。タイのこの保険は、運営経費を十分に低く抑えていると思われるが、農民に安く保険を提供するには、この部分をできるかぎり圧縮する必要がある。

 ケニアの天候インデックス保険の革新的なところは、保険の契約(保険料の支払い)と保険金の受け取りをすべて携帯電話で行う点である。アフリカ諸国で携帯電話を使った金融サービスの浸透はめざましいが、とりわけケニアのM-PESAは先進的な事例として知られている。ほとんどの農民が携帯電話を持ち、その多くがM-PESAを個人間や商業目的の送金に利用した経験がある現状では、携帯電話を保険に使うことのハードルは低い。この保険が干ばつと多雨の確率を何%に設定しているのか入手できる文書からは明らかではないが、農民の支払う保険料の率は購入した資材代金の5%であり、2ドルの種子を購入する際に10セントの追加支払いで保険に加入できるとしている。干ばつと多雨の確率は10%程度を想定しているとみられ、シンジェンタ財団の文書では、保険料は種子や肥料の業者も負担を分担するので農民の負担を減らすことができるとしている(12)。つまり、政府の補助金は利用しないが、この保険により便益を受ける関係者が保険料を補助していることになり、補助率は50%程度に上るとみられる。この仕組みから農民が受ける便益は大きい。

 以上の例からは、たとえ保険数理的に公正(つまり支払う保険料と期待保険金受け取り額が等しい)であっても、農民が保険料を負担するのは難しく、加入率を上げるには50%程度の補助金が必要なようである。つまり、問題は「はじめに」で記したように、農民がすでに行っている自己保険と比べて安いかどうかである。たとえ、既存の作物保険と比べて天候インデックス保険が格安であっても、農家が飛びつかないのは、自己保険と比べて必ずしも安くないからであろう。たとえば、5年に1度起こると予想される干ばつに備えて、20%の保険料を毎年支払うのと、その金額で毎年家畜を購入するのと、どちらが得か農民は比べているのである。5年以内に干ばつが起これば、保険に入ることが得ではあるが、家畜なら自己増殖するし、増えた分は換金したり消費したりすることもできる。また、携帯電話を使った送金サービスは、保険の費用を下げるだけでなく、親戚・縁者からの援助を受け取る費用も下げている。もちろん、こうした自己保険は完全ではないので、不足分を天候インデックス保険が埋めていく(両者が補完的)可能性はある。しかし、天候インデックス保険が大幅に拡大するためには、自己保険を代替していく必要がある。そのためには、自己保険の費用が相対的に上昇するという状況が前提となるであろう。


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