中国・内モンゴル自治区における
飛行機播種植林

一般社団法人 アース・ブレークスルー テクニカル・ディレクター 冨樫 智


写真1 飛行機播種
写真1 飛行機播種


 私どもアース・ブレークスルーでは、公益財団法人オイスカとの協力のもと、中国・内モンゴル自治区において、砂漠拡大防止を目的とした植林を効率的に大面積にわたって行うために、「飛行機播種(はしゅ)植林」(以下、飛行機播種)という手法を試みている。

 中国においての飛行機播種の歴史は意外に古く、1950年代から始まっている。面積が広くて人口の少ない砂漠・半砂漠地帯での効果は大きく、1983年までの中国国内における植林・造林面積の15%は飛行機播種によるという統計もある。ただし、飛行機播種は、雨期初めの雨が降りやすい気象条件が必要であり、砂漠のなかでも流動性の高い砂丘などでは活着が難しいとされている。

 現在、当社団が砂漠化防止活動を行っている内モンゴル自治区アラシャン盟のゴビ地域は、生態系の脆弱(ぜいじゃく)な地域であり、黄砂の発生地の一つである。この地域は、日本の約2/3に相当する広い面積があり、年間降雨量は200mm以下の乾燥地帯である。このゴビ地域より飛来する黄砂は大気汚染物質とともに、健康被害をもたらす可能性が高まり、日本政府も取り組みの動きをみせている。

 ここでの緑化方法としては、大面積の緑化(飛行機播種)と住民主体による小規模な緑化(コミュニティ植林)に分けられる。飛行機播種は大面積を少ない労力で早く緑化でき、禁牧(中国政府は砂漠化防止を目的として遊牧を禁止する政策を行っている)された地域において、飛砂を抑えるために実施されている。当社団では、中国政府と連携して、播種に用いる樹木の種子を用意し、軍用の輸送機とパイロットをレンタル調達して実施している。

 「飛行機から種子を播いて、本当に緑化ができるのか?」という、いわば当然の疑問があるが、地元の林業局によって、飛行機播種の効果に関する検証が行われている。その検証調査によれば、550kgの種子を、面積73haにわたって飛行機で播種を行ったエリアにおいて、緑化被度は場所によって0.1〜5.0%であったものが12.8〜50.4%へと改善され、砂の固定量はこれまでの35倍となり、飛砂量も減少した。土壌有機質量も0.07%から0.23%へと増加し、3年後の土壌生物量(干重)が0.22〜0.56t/haから0.32〜1.8t/haになった。

 飛行機播種に用いられる主な樹種は、「白沙蒿(バイシャーハオ Artemisia sphaerocephala)」「花棒(ファーバン Hedysarum scoparium)」「沙拐棗(シャーグァイザオ Callionum mongolicum)」である。こうした樹種は、緑化面では効果があるものの、地域住民にとって利用価値が乏しく、あまり歓迎されてはいない。そこで、空中のチッソを土壌に固定し、またヒツジやヤギの餌にもなる「寧条(ニンティアオ Caragana korshinskii)」などに切り替えての播種も、まだ小規模ながら行われている。

 また、経済林としての価値のある「梭梭(スオスオ Haloxylon ammodendron)」の飛行機播種が成功すれば、農牧民の生活も向上しうる。この梭梭に、希少価値が高く「砂漠の人参」ともよばれるハマウツボ科の「肉従容(ロウツォンロン Cistanche deserticola)」を人工的に寄生させれば、3年程度で収穫ができ(根に寄生しているだけなので、樹木自体は枯れない)、住民の貴重な現金収入源になる。飛行機播種の技術的改良が進めば、緑化とともに地元の新しい産業づくりにもつながる。ただし、乾燥地のアラシャン盟においては、その飛行機播種には未だ成功していない。

 そこで、紙バックを利用した播種実験を行った。発芽した種子の根が、紙バックの水分を利用して下に延びて活着するであろうという想定である。

 まず、10.0cm×15.5cmの吸放湿性にすぐれた素材の紙バック(三菱製紙デシカント94g/m2)の中に、種子と(1)50g・(2)100g・(3)200gの砂、そして各砂重に対して0.1%の保水剤を入れて、上空約100mから同時に落として強度を調べた。また、飛行機播種が行われたエリアには1m×1mのプロットを3か所設けておき、播種量を調べ、翌年の春に活着率を測定した。

写真2 落下実験に用いた紙バックを1か所に集めて、発芽状況を観察
写真2 落下実験に用いた紙バックを1か所に集めて、発芽状況を観察

 この飛行機による播種バックの落下実験では、(1)と(2)のものはいずれも破れなかったが、(3)のものはすべてが破れてしまった。根を通すために穴をあけたものは強度が落ちてしまい、入れた砂の重さにかかわらず、すべてが破れてしまった。また、破れなかったものではバック内にて発芽はしたが、その後枯れてしまった。結局、発芽後にも水分が保たれ、根が砂の中に延びていくような工夫が必要であることがわかった。

 発芽や生育を妨げる要因としては、地上に落下した種子に対するネズミの食害も無視できない。そこで食害を防止するために、粘土でコーティングをした粘土団子を作ったが、固く乾燥してしまい、発芽が妨げられてしまった。

 粘土の替わりに綿や砂を使った実験も行った。梭梭の複数の種子を(1)「吸水性の綿」(2)「はっ水性の綿」(3)「砂」の中に入れてピンポン玉ほどの大きさにしたものを砂漠に置いて、発芽後の生育率を調べた。この場合の「砂」には滅菌した水を含ませて、さらに生育促進効果のある「ラン藻培養液」を入れたものも用意した。

 その結果、「はっ水性の綿」でくるまれたものは発芽後も生育した。はっ水性の綿によって中の水がその内側に溜まり、その水分によって活着していったのであろう。今後、雨期または冬期に、はっ水性の綿を入れた紙バックを使用すれば、発芽・生育する可能性がある。ラン藻培養液による発芽および生育促進の効果は検証できなかったが、土壌実験では、ラン藻培養液を施用した土壌のチッソや炭素が増えていたことから、発芽・生育実験が1か月という短期間であったことが一つの原因であると考えられる。

 今後の飛行機播種の方向としては、まず播種の成功率を高めるための粘土や綿などのコーティング材の最適配合を明らかにすることが重要であり、さまざまな樹種の発芽率・生育率を改善するためには、現在の雨期前の6月下旬という播種時期に限らず、気温の低い冬期に行う必要もあると考えられる。くわえて、発芽後の水分確保の方法を改善することによって、飛行機播種による緑化の可能性はさらに広がると考えられる。

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