前ICID副会長シアティ氏の講演

 日本ICID協会では、2010年7月15日に、前ICID(国際かんがい排水委員会)副会長のカリム・シアティ氏を招聘し、「イラン及び周辺国の灌漑排水の現状と課題」について講演していただきました(写真1)。

 シアティ氏はイランのシラーズ大学灌漑工学科を卒業後、1973年にイランのYECOM Consulting Engineers社に入社し、国際協力機構(JICA)や世界銀行の水資源・地下水開発案件に従事されてきました。

 YECOM社での業務と並行してICIDの活動にも積極的に参画されており、2006〜09年の期間は副会長を務められました。 以下に、シアティ氏の講演内容を紹介します。

写真1 講演のようす

写真1 写真1 講演のようす

1.イランの水資源

 イランは乾燥地帯に位置し、年間の降水量は限られているうえに、国土の25%に降水量が集中しています。また、降水量は非灌漑期の秋冬に75%が集中し、春夏の灌漑期には25%しか降りません。

2.イランの水利施設

 利用可能な水資源が限られているため、イランでは古代から生活用の給水施設や灌漑施設が発達してきました。

 イランといえば、地下水を水源としたカナートが有名ですが、3300年前に建設されたチョガーザンビールのジッグラト(神殿)にも、すでに給排水システムが整備されています(写真2)。

 シューシュタルには1700年前に建設され、世界遺産でもある水利施設があります(写真3)。

 このようにイランでは古くから貴重な水資源を有効に活用するための水利技術が発展してきました。

写真2 チョガーザンビールの給排水システム

写真2 チョガーザンビールの給排水システム

写真3 シューシュタルの水利施設

写真3 シューシュタルの水利施設

3.水資源開発の現状

 人口の増加に伴い、水需要も増加し続ける現在では、水資源の有効利用に向けて567のダムが建設されており、貯水量は合計で年間374億トンに達します。加えて120のダムが建設中であり、貯水量は106億トン増加する見込みです。さらに320のダムを計画中であり、今後とも積極的に水資源開発を行う計画です。

 そのためイランでは水資源開発は成長分野であり、全開発計画資金の20%が水資源開発に向けられています。また、2010〜15年の5年間で350億ドルが投資される予定です。

 水資源開発は第4次開発計画(2004〜09)に基づいて実施されていますが、第4次開発計画では以下の4項目が重視されています。

(1) 管理組織の統合と再構築

(2) 持続可能な水資源開発と水利用

(3) 水資源開発にかかる財政の確保

(4) 公的資金の増強

4.イランの灌漑排水の現状と課題について

 イランの灌漑面積は780万ヘクタールであり、世界第20位です。灌漑による農業生産は全体の90%を占めており、水資源が限られるなか、新たな水資源の開発が課題となっています。全ての先進国は政府の支援によって農業施設を整備してきており、イランにおいても政府による更なる財政支出が求められています。

 水資源開発と同時に効率的な水利用が求められています。灌漑分野では以下が課題となっています。

(1)3次水路、ほ場内水路・耕地の整備、地下排水の維持管理、灌漑法の改善、水利組合の設立などのため多額の予算を割り当てることが必要であると考えます。節水と水生産性の向上については、配水パイプの縮小により水量制御をすることが提案されています。

(2)灌漑計画の実施状況についてはイラン国内でもバラツキがあり、ベンチマーキング・ネットワークを確立することにより、成功した灌漑地区の事例と比較を行い、問題点を抽出する必要があります。

(3)ゲート操作が手動式の灌漑計画では、人員の増強が無い限り配水量の確保と水価格の維持が困難であるため、灌漑施設の近代化が必要です。

(4)イランでは農地の拡大よりも、既存灌漑計画における灌漑水の生産性の最大化に焦点を当てるべきであり、ジハード農業省が大きな役割を果たすことが期待されています。そのために灌漑方法の改善、灌漑効率の高いスプリンクラーの導入、点滴灌漑の導入が検討されるべきです。

(5)農地の浸水と塩類化も問題となっており、排水計画の策定が必要です。

(6)イランでは燃料コストが安いため、ポンプを使用した地下水のくみ上げが容易に行われているため、農業用水の54%が地下水に依存しています。地下水位の低下が問題となっているため、地下水利用率を45%まで低下させることを目標としています。

 

 講演後には、主に次のような質疑応答がありました。

Q:日本を含め先進国ではダムの新規建設は行われていない。イランでは水資源開発に係る環境配慮はどうなっているのか?

A:環境に対する問題はあるが、一方、食料の確保は非常に重要な課題であり、必要な水資源は確保する必要があると考えている。

Q:イランでは灌漑水による塩害は発生していないのか?

A:塩害は大きな問題となっている。リーチング(水で塩分を洗い流す作業)や、塩に耐性がある食用作物を栽培するなどして対応している。

Q:水資源に関して、周辺国との軋轢(あつれき)はないのか?

A:確かに問題はあるが、特段に良い解決策はない。

 

 本講演には、ICID協会の会員を中心に約60名の方々が参加され、予定されていた終了時間が過ぎても質問を求める人がたくさんおり、非常に活発な質疑応答が行われ有意義な講演会となりました。

(文責:日本ICID協会事務局)

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