第3回世界水フォーラムとICID活動 (社)海外農業開発コンサルタンツ協会
専務理事 的場泰信 グローバリゼーションが進行するにつれて、様々な分野でその大きな影響が指摘されている。2000年にハーグで開催された第2回世界水フォーラムでは水問題においても、グローバルに問題を捉え、問題解決に当たっては多数の人々が参加した上で議論を行い、条件の差異を問わず、共通の尺度を持つべきだという考え方が展開され、こうした思考方法が一気に世界の水問題解決のための舞台にのし上がってきた。 その後のいくつかの大きな国際会議や各地域でのワークショップあるいはシンポジウムでのを議論を経て、第3回世界水フォーラムでは貧しい人々のための飲料水の確保、産業への適切な水利用、あるいは環境問題等幅広く議論された。より具体的な動きとしては、水の国際的売買等が経済的利益を上げていることや、これまで公営企業による運営が当然と考えられてきた水道の民営化問題が新たに注目を浴び議論の中心となってきた。 日本で第3回世界水フォーラムを開催することが決まってからの3年間、こうした「皆で考えて取り組むべきだ」という考え方がNGOによって世界中で推し進められる一方、地域特性やそれぞれの気候や地形等の自然条件あるいは風土や歴史等に応じて発展してきた水利用形態の特色も考えるべきだといった動きも表面化してきた。 第3回世界水フォーラムでは、ハーグでの世界水フォーラムに比べてセッション数は圧倒的に増え、ほぼ倍増であった。水問題に関わる人々や、組織、団体が数多く名乗りを上げて、積極的に自分たちの意見を述べる機会を作り、議論をまとめてきた結果、今回の水フォーラムで更に直接意思表示をしたいという意欲的な考え方と理解できる。こうしたセッションに直接参加し、問題を議論したい、あるいは議論の展開や結果を知りたいという考え方を持った人達が多かったせいか、前回を圧倒的に上回る参加者を得た。 フォーラムの成果として、セッションではコーディネーターの協力の下に多数のセッションサマリーがまとめられた。又、閣僚会議は事前に参加者との対話集会を持ったり、世界水会議作成の水行動報告書や、水インフラ整備のための資金確保を目的として策定された報告書が提出されるなど、閣僚会議の形態としては極めて柔軟な対応がなされた。その結果として、閣僚会議では閣僚宣言が採択され、外向的成果もあったものと考えられる。フランスのシラク大統領はイラク戦争のため急遽来日を取りやめ、ビデオ出演となったが、フォーラムの成果をサミットへ提出したいという意欲に燃えていたことは関係者の間では知られている。 農業用水の利用は世界の水問題の中心課題であり、効率的使い方を促し、飲料水はじめ他のセクターへ積極的に水を譲るべきだという議論がなされている。しかしながら、増加一途の世界人口を賄うのに必要とされる食料の生産と確保の観点から、簡単には解決されない問題である。今回、農水省とFAOはこの問題を真正面から捉え、セッションの形式で農業大臣会議を開催した。ICIDも農業と食料、農村開発との問題について前回提出の報告書で基本的立場は明確にしてあったが、タースクフォースを組織し、農業用水と食料問題に積極的に取り組んだ。こうした動きの結果として、どのグループの関係者も納得するような形となって現れ、今後のこうした国際会議の礎となったのではないかと考えられる。国内で農業大臣会議の準備から開催までに関わった多数の方々が長期にわたり入念な準備を進められ、これまでにない成果を挙げたことに対して敬意を表したい。 ICIDでは多数のワーキンググループがあって、いろいろな研究成果の発表や議論がなされている。世界的に重要な課題のグループにはそれなりの関係者や関係国が力を入れていて、こうした課題に対する国際的取り組みについて日頃から親しい関係者同士連絡を取り合い、意見交換を進めている。今回のフォーラムに向けたICID会長の行動は極めて多彩で、ICID活動を説明するのに必要な活動資金集めに歩いたり、あるいは、あちこちの重要な会議に出席してはICIDの立場や、灌漑の問題を熱心に説明してきた。こうした活動は個人の熱意がなければ続けられないが、同時に所属する組織の理解や、支援がなければ長年にわたり活動を続けることは出来ない。個人の行動と組織の支援をうまく組み合わせることが出来る環境づくりは極めて大切なことではないかと考える。 第3回世界水フォーラムは終わったものの、水問題に関して問題が解決された訳ではなく、世界での水議論は、世界水フォーラムの終わるのも待たずに休むことなく続けられている。今回は日本が主催国であったことから、農水省、関連の研究者、あるいは民間の関係者がこぞって力を結集することが出来た。FAOも初めて積極的に参加してきた。フォーラムのような形で議論を行えば、行動の概要やおおよその方向を示すことは出来ても具体的な行動を決定するとなると議論百出で結論を得ることはなかなか難しい。しかしながら、この3年間の経験から言えば、水問題を議論する大きな場に絶えず出て、それなりの発言権を確保し、しっかりとした発言を行うことは具体的行動決定に関与することへの道筋であって、これが如何に重要であるかと言うことを知らされた。世界水会議の理事会ではICID事務局長が代表として出席し、ICIDの立場から的確な発言を行っている。議題によっては出席者がICIDの意見を待っている風に見えるときさえある。自分が大きな組織の代表と思えばこその事務局長の活躍ではないかと思う。 ICIDメンバーとしてICIDに関わったのはつい2年ほど前からであり、ICIDのことについてそれほど分かっている訳でもないので、軽々にものを言うべきではないが、国内ICIDが今後も継続して世界の水問題に関わっていかなければならないだろうと考える。その場合、世界的舞台でその立場を尊重されているICIDを通じて意思表示の機会を増やしていくことは極めて重要なことではないだろうか。ICIDのワーキンググループや、アジアでの活動に積極的に関わり、日本の立場の主張やICIDと共通の立場に立って主張したり、説明する機会を増やしていく必要があるのではないか。ICIDの中枢を形成しているグループや国は確かに畑作地帯や乾燥地の人々であるが、日本やアジアの地域特性を今回のフォーラムでは積極的に示し、功を奏したと考えられるのであるから、これまで以上にICID活動に力を入れていくことが重要ではないかと考える。 ICIDは外国の組織、一部の関心を持つ人たちが活動すればよいのではないかという考え方にどうしても陥りやすくなるが、世界で議論されている水問題は、よその国の問題ではなく、国内の身近な水問題に直結しているという意識を持って、積極的に参加していく必要があると思う。日本国内のICIDに関する組織が参加し難い形になっているのであれば改めていくといった考え方を持ち、組織や体制の充実強化、人材の育成が重要ではないかと考える。 |