会長挨拶

会長

土地の農業的生産性を高めるために、水を人工的に圃場に供給することをかんがい(irrigation)と言いますが、メソポタミヤなどでは紀元前5000年、エジプトでも紀元前3500年にはすでにかんがいが行われていたことが知られています。農作物の生育ステージや気象の変化に対応して過剰な水は排除しなければなりませんから、かんがいと排水(drainage)は併せて考えることが必要になります。この二つを合わせて農業水利という重要な科学技術の分野を構成しています。

広大な農地に農業水利システムを導入するためには、大規模な水源施設、取水施設、水路、排水機場などの土木・建築構造物から、圃場レベルで水を受け入れる土壌を考慮したかん水設備にいたるまで、幅広い分野の技術を総合することが必要です。

また、かんがいに使用する農業用水は、利用量が多量である、需要量が年ごとに、季節ごとに大きく変動する、水田では使った水が還元されて何度も反復利用される、地域の自然環境に大きな影響を与える、長い歴史的過程を経て形作られているために地域の風土、社会と密接に関連しているなどの特色を持っています。

世界銀行のセラゲルディン副総裁が、「水はすべての生命にとって不可欠であり、まさに今、20世紀末期の石油というあだ名でと呼ばれるように、希少な資源であると認識され始めている(筆者仮訳)」と指摘したのは1995年のことでしたが、その当時の地球の抱える人口は57.4億人(総務省)だったということです。それが20年後の現在は71.9億人まで増加しています。そのうち8.4億人(FAO)もの人々が栄養不足状態にあり、しかも人口は2050年には96億人に達すると予測(UN)されています。

これまでの人口増加に対しては、森林を切り開いて農地を拡大したり、水源を開発することによってなんとか食料生産を拡大することができましたが、農地の開発はすでに限界に達しています。人間は人間自身を含む自然環境の中で生きていかなければならないからです。これから増加する人口を支えるには、新たな水源の確保とかんがい農地の拡大が不可欠であるということになります。

地球上の食糧を巡るこのような環境の中で、かんがい農業の促進に取り組んでいる国際機関がICID(国際かんがい排水委員会)です。

ICIDは、第二次大戦終結後の1951年、急速に高まる食料需要に対応するため、かんがい排水にかかる科学的知見を集約して、食料生産を強化することを目的として設立されました。ICIDは国際的な非政府組織として組織され、2013年現在、96の国・コミュニティーが加盟しています。各参加国に設置された国内委員会を構成メンバーとして、国際会議などを通してかんがいや排水に係わる技術者が交流し、技術・情報の交換等を行っています。

日本はICID設立直後の1951年に、閣議決定により農林水産省に国内委員会を設置し、正式加盟しました。

日本ICID協会は、日本のICID参加活動を民間レベルで支援するため、法人、団体、個人で組織しているもので1983年に設立されました。国内委員会と密接に連携をとりながら、ICIDに関する啓蒙普及、若手かんがい技術者フォーラム作業部会の国内事務局運営,ICID国際会議への民間技術者の参加支援などを積極的に行ってまいりました。

今後とも、会員の皆様への情報提供をはじめ活発な運営に努めてまいりたいと考えていますのでよろしくお願いいたします。また、当協会の活動の趣旨にご賛同いただける皆様の参画をお待ちいたします。

日本ICID協会会長

林田 直樹






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